MIの11月特集は「メディアとコマース(EC)のいま」です。広告に留まらない収益源を模索するメディアにとって有望であると常に挙げられるのが商品の販売です。しかしその実現は困難であり、多くの失敗事例が生み出されてきました。いま改めて、メディアがコマースに取り組むには何が必要か。キーパーソンを取材しました。

GIZMODO JAPAN(ギズモード・ジャパン)」「ライフハッカー[日本版]」「ROOMIE(ルーミー)」「Business Insider Japan」「DIGIDAY」など多彩なメディアを展開する株式会社メディアジーン。2013年頃から、アフィリエイトで紹介した商品を販売していくメディアコマースに取り組んできたと言います。

2019年7月の「Amazon プライムデー」では数億円の売上と数万件の注文件数を達成して過去最高に。また、10月にはクラウドファンディングの「machi-ya」で財布のプロダクト「Tenuis3」が過去最高の4400万円の支援を集めたそうです。

メディアがコマースでビジネスを立ち上げるにはどうしたら良いのか。メディアジーンで一連のプロジェクトを主導してきた、株式会社メディアジーン 執行役員CSO、事業戦略部門担当の芹澤樹氏にお話を伺いました。

―――簡単に自己紹介からお願いします

学生時代は音楽大学で声楽を専攻していました。インターネットで音楽を広めるような仕事がいつかできたらいいなと考え、インターネットの世界に飛び込みました。前職ではC2Cで一般の方から小説を投稿してもらって、そのコンテンツを流通させていく事業に携わっていました。(メディアジーンに)入社して10年以上が経ちます。最初は「MYLOHAS」で事業開発に携わり、のちに事業戦略部門を立ち上げて、編集部横断の横軸組織を統括。現在、コンテンツコマースやSSPなどの運用型広告の運用などを担当するかたわら、GIZMODOとROOMIEの事業責任者として、そのビジネス領域を管掌しています。

―――横軸組織はどのくらいの規模なのでしょうか?

メディアジーンは総勢で70名ほどの組織です。そこに「GIZMODO」や「lifehacker」「Business Insider Japan」などの編集部があります。事業戦略部は8名のチームですので、全体の10%ほどが編集部を横断する仕事をしていることになります。ある程度のメディア数がありますので、縦の編集部と、横の横断組織の両方が必要です。横軸でナレッジの共有や、共通化すべきツールの導入なども進めています。

―――事業戦略部で取り組まれているコンテンツコマースはどういった文脈でスタートしたのでしょうか?

我々がコンテンツコマースに着手したのは2013年頃からです。もともと本国である米国で「GIZMODO」を運営しているGizmodo Media Group(Gawker Mediaを引き継いだ会社)では2005年頃からコンテンツコマースに取り組み、一定の成功を収めていました。一方で、日本では収益の95%が広告によるもの。しかし、広告収益はシーズンごとの変動も大きく、成長の限界もあります。もう一つの柱をtoCで作れないかと考え、日本でもコンテンツコマースをスタートさせました。

最初は苦戦しました。単純に米国のスタイルを持ってきて、編集部に協力を依頼して、アフィリエイトに繋がるような記事を制作していました。でも、なかなか成果が挙がらず、売れないものは編集部もやりたがらない、という悪循環に。各編集部が制作するのでナレッジの蓄積も共有もうまくいかなかった。

そこで方針を変えて、各編集部に依頼する形から、私達の部署に専任の担当を置いて、各メディアに適した記事の形で制作する、というスタイルに変えました。幅広い商品を探していき、それが合ったメディアに掲載するという形です。この決断がきっかけで、徐々に上向いていき、成果が挙がるようになっていきました。また、横断的に記事を制作することで、ノウハウの蓄積も容易になりました。

―――メディア上でアフィリエイト商品を紹介するというのは編集部からの抵抗は無かったのでしょうか?

心理的な抵抗はあったと思います。幸運だったのは、既に米国で成果が出ていたということとでしょうか。また、記事には「BUY」というタグを付けて、通常の編集記事とは明確に線を引くという配慮はしています。

「BUY」の記事だからこそ、有益な情報を提供するよう心がけています。売るぞ、売るぞ、という姿勢ではなく、「GIZMODO」を楽しみにきた読者に対して、通常記事と同様に、素晴らしい製品に出会う機会を提供して「このメディアがすすめる商品は素晴らしい」という体験を提供しなくてはなりません。ニュースを求めている読者はモノを買ってくれません。でも、良い製品との出会いを継続的に提供できれば、読者のメディアに対する姿勢も徐々に変わり、購買行動に繋がる事が分かりました。

GIZMODO」 のウェブサイト

―――なるほど、まさにコンテンツコマースという感じがします

実は約一年前に「GIZMODO」のコンセプトを「購買に寄与する」というものに改めています。別にコンテンツコマースに限りませんが、「GIZMODO」が提供すべき体験は、ワクワク、ドキドキするような素晴らしい商品との出会い、そしてそのユーザーの想いをきちんと購買行動に繋げられるメディアでありたいということです。

―――コンテンツコマースで売れるのはどういった商品でしょうか?

いまは「GIZMODO」「lifehacker」「ROOMIE」といったメディアで展開していて、そのメディアや読者に合った商品というのが原則です。例えば「GIZMODO」では、今はワイヤレスイヤホンが大人気です。少し前だとハンドスピナーは沢山売れました。変わり種では「ネオジオミニ」は数千台が売れました。「lifehacker」では、洗剤がいらない洗濯機用のネットが好評です。

想像が付かないようなモノが売れる事もあります。米国の「Business Insider」ではシーツが売れるそうです。メディアが発信している内容とはかけ離れていますが、コンテンツコマースの事業を通じて見つかった事実です。日本でも、記事で紹介した商品と同時に購買した商品情報をデータとして取れるので、その中から次のアイディアの原石を探します。購買に至ったというのは、非常に強力なアクションですので、メディアがどういうコンテンツを提供すべきかという、得てして一方通行になりそうなコンセプトも、コマースのデータを見ているとヒントが掘り起こせると思います。

―――「machi-ya」というクラウドファンディングのプラットフォームも運営されていますが、これもコンテンツコマースという文脈なのでしょうか?

はい、当初は選んだ商品が並ぶモールにチャレンジしようと考えていました。ただ、モール運営はかなりコストがかかり運用負荷も高いため、クラウドファンディングに業態変更しました。クラウドファンディングは新しい商品を生み出そうとする人たちが集まりますが、課題はプロモーションでした。そこでメディアがそれぞれのプロジェクトを支援するかたちにすれば、良い商品作りをサポートできるんじゃないかと考えました。当初は自前のプラットフォームでしたが、昨年からCAMPFIREで展開するようになりました。

CAMPFIREプラットフォームで展開されている「machi-ya

―――かなりの金額を集めているプロジェクトもあるように見えますが、どういったプロジェクトが、相性が良いのでしょうか?

やはりメディアとの親和性が要かなと思います。例えば、特にメディアの指向性とマッチしているものだけをリクルーティングして、「GIZMODO」などで紹介するようにしています。「machi-ya」では購入型だけを取り扱っています。きちんとプロダクトがある方が、相性が良いですね。前年比でも順調に伸びていますし、支援のリピート率も高いです。

過去最高の4400万円を集めた 財布「Tenuis3

―――プロジェクトはどのようにリクルーティングしてくるのでしょうか?

今は、プロジェクトオーナーの側から「machi-ya」を利用したいという事でお声がけいただくことがかなり増えています。

海外のコンベンションなどに足を運んでいますので、そこで面白そうなプロジェクトに出会うこともあります。海外のディストリビューターと組んでプロジェクトを立ち上げてもらう事も増えています。日本発の案件ばかりではなく、海外発の案件が多いのは特徴かもしれません。

―――オリジナル商品の開発は考えてないのでしょうか?

次の展開としては自社ブランドを立ち上げて、オリジナル商品を販売してくことを考えています。具体的にはまだお伝えできませんが、クラウドファンディングをして、D2C的に商品を販売していきます。誰か有名人と組むこともあるかもしれません。コンテンツコマースでかなりの売上が作れていますので、その次のチャレンジとなります。将来的にはリアル店舗を展開することもあるかもしれません。

―――ワクワクする展開ですね。他のメディアもメディアコマースにチャレンジすべきでしょうか?

メディアのコンセプト次第だと思います。私は「メディアは手法、機能である」と捉えていますので、それを使って何を提供しようとしている存在なのかを見つめ直す必要があると考えます。「GIZMODO」のように「購買に寄与する」を目指したメディアであればメディアコマースをやらない理由はありません。

「GIZMODO」はCRM化も進めています。アンケートデータだけでなく、最近は記事下に「Want」「Stay」というボタンを付けて、心が動いたかどうかをデータとして蓄積しています。アンケートへのアクションでAndroid所有者だった人が、iPhone11の記事に「Want」を押してくれたら、心動いたということで、購買に一歩近づいたと言えると思います。

Surface Laptop 3のハンズオンレビューの記事下に掲載された「Want」「Stay」のボタン

―――これからのメディアはどうなっていくでしょうか?

メディアは「課題解決ドリブン」で行くべきだと思います。「GIZMODO」は良い商品が売れないという課題を解決するためのメディアです。なので、商品の販売数がKPIになるのは自然な事です。これは記事広告でも、バナー広告でも評価軸は一緒です。閲覧数やクリック数ではなく、商品の販売に繋がるという所まで責任を持ってやります。そうしないとメディア運営者の自己満足で終わってしまう。

例えば、シリアの難民問題を解決するために立ち上げたメディアなら、シリアの難民が減った数がKPIとして設定されるべきですよね。何本記事を書いても課題を解決できていなければ存在する意味がない。このようにどのメディアもそれぞれのテーマにふさわしいKPIを設定する必要があるのではないでしょうか。サイトの規模や、PV、UUを追い掛けても、本来の目的に近づかないとダメですよね。メディアはコンテンツ作り自体が非常に面白い仕事なので、そこに没頭しがちですが、それで何を実現したいんだっけ? と振り返りながらこれからもメディア作りに取り組んでいきたいと思っています。

11月特集: メディアとEC(コマース)の展望

1. “購買に寄与する”メディアに進化した「GIZMODO」・・・メディアジーン芹澤執行役員に聞くコマースへの取り組み
2. 出版社のECを全面サポート、富士山マガジンサービスとイードの合弁会社イデアの松延秀夫CEOらに聞く
3. 株式会社集英社 小林桂 常務取締役
4. 株式会社フラクタ 河野貴伸 代表取締役社長 河野貴伸
5. 株式会社ヤプリ 金子洋平 執行役員CCO
6. 株式会社マクアケ 中山亮太郎 代表取締役
7. 株式会社買えるAbemaTV社 伊達 学 代表取締役社長

芹澤氏も登壇のイベントを11/27(水)に開催

毎月恒例のMeetupでもECを取り上げます。11月27日(水)に四谷での開催となります。皆様のご来場をお待ちしております。チケットはPeatixで発売中です

登壇いただくのは、雑誌と連動したECサイト「FLAG SHOP」を手掛け、集英社のデジタル部隊を分社化したProject8の代表も務める株式会社集英社 取締役の小林桂氏、「GIZMODE」や「lifehacker」でメディアコマースの取り組みを推進する株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当の芹澤樹氏、アプリを誰でも作れるソリューションを提供する株式会社ヤプリの金子洋平 執行役員、D2Cブランドを支援し、ECプラットフォームShopifyのエヴァンジェリストも務める株式会社フラクタの代表取締役社長 河野貴伸氏です。

■概要
日時 2019年11月27日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING四谷 〒160-0004 東京都新宿区四谷3丁目3−9 第一光明堂ビル 9F
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社フラクタ 代表取締役社長 河野貴伸氏
    株式会社ヤプリ 執行役員 金子洋平氏
    株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当 芹澤樹氏
    株式会社集英社 取締役 小林桂氏
20:00 パネルディスカッション
20:40 懇親会
21:45 終了

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