MIの11月特集は「メディアとコマース(EC)の展望」です。広告に留まらない収益源を模索するメディアにとって有望であると常に挙げられるのが商品の販売です。しかしその実現は困難であり、多くの失敗事例が生み出されてきました。いま改めて、メディアがコマースに取り組むには何が必要か。キーパーソンを取材しました。

今年10月に株式会社富士山マガジンサービス株式会社イードが合弁会社を設立して、出版社向けのECサイト運営支援事業を共同でスタートしました。富士山マガジンサービスの膨大な定期購読者のリストと、イードのECプラットフォームやEC支援の経験を活かした共同事業。出版社はどうECに取り組めばいいのか、新しく設立された株式会社イデアの代表取締役CEOの松延秀夫氏、取締役COOの星邦博氏。

―――まず自己紹介をお願いします

松延: 大学卒業して最初の仕事はインテリアメーカーでしたが、その後は出版社で長くメディアの仕事に携わってきました。タウン誌の編集者から始まり、自動車雑誌、男性誌、女性誌では編集長や副編集長を務めました。アシェット婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に在籍していた頃に、出版社のデジタルビジネスに関わるようになり、そこに面白みを感じ、更に業界全体に取り組みを広げていきたいという思いで、昨春、富士山マガジンサービスに転職いたしました。弊社は広く出版社と付き合いがあり、出版社のビジネス支援を行っているので、業界横断で仕事ができるんじゃないかと考えまして。 同時期に富士山マガジンサービスと電通で、マガポートという電子配信領域での合弁会社も立ち上がり、現在、取締役を兼務しています。

星: 私も大学卒業以来、出版事業に携わってきました。最初は中央経済社という会計の専門出版社から始まり、ソフトバンクでは出版から始まってヤフーBBの時代には事業企画として様々な付随するサービスに携わりました。その後、松延さんと同じくアシェット婦人画報社に加わって、そこでも編集の松延さんと事業企画の私という形で、関わりがありました。そこで「婦人画報」の通販事業をやっていたのですが、それを更に広めたいと考え、ECのプラットフォームを展開しているイードに加わって、システムだけでなく、出版社ECの全般を支援する事業を展開しています。

―――今回のイデアという会社はどのような経緯で立ち上がったのでしょうか?

星: イードとして「marbleASP」というECプラットフォームをベースに、付加価値として出版社ECの全般をサポートするビジネスを行ってきました。それなりの実績をこれまで作ってきましたが、更に事業を拡大するために何かできることはないだろうかと考えていました。そんな時に松延さんが富士山マガジンサービスという会社にいる事を思い出して、電話したというのがきっかけです(笑)。

松延: 富士山マガジンサービスは雑誌の定期購読サービスが事業の柱ですが、これを軸としながら、雑誌にもっと新しい価値を付けられる企画やサービスをどんどん生み出して、出版社に貢献しようというのが大きな戦略となっています。強みは定期購読者リストを持っていることです。会員数は300万人にもなります。定期購読社は出版社にとっては強固なファンですので、そこをベースとしたビジネスを考えたいと思っています。

その観点でECは興味深いと感じられました。また、富士山マガジンサービスはプラットフォーム志向で、fujisan.co.jpというマーケットプレイスで幅広い読者と出版社に対してビジネスを行っています。一方のイードのEC支援は戦略立案、MD(商品仕入れ)、事務局代行、コンサルティングまで手厚くサービスを行っています。悪い言い方をすると非効率かもしれません。この異なる方向性の両者が協業すれば面白い事ができるんじゃないかと考えました。

雑誌や電子書籍の定期購読では日本最大のfujisan.co.jp

―――イデアに対して出版社はどういった反応でしょうか?

松延: 反応は非常に良いです。私は編集者勤務が長かったのですが、雑誌を何度も休刊にした苦い経験があり (笑)。そういう人間だからこそ、生き残るために雑誌のビジネスが変らなければならないという想いがリアルに伝わると思いますし、編集者の気持ちが分かる身近な人間として胸襟を開いて貰えるような気がします。なので、最初のミーティングから話が大いに盛り上がります。

星: 雑誌は厳しい状況にありますので、新しい事にチャレンジしなければという思いは皆が持っています。でも、何をどういう順番で取り組んでいくべきかが分からない。私達は既に出版社のECで数多くの実績がありますので、皆さんも安心して一緒に取り組んでくれます。出版社が作っているものはブランドや世界観だと思います。その出口が雑誌だけなのは勿体ないと思います。そのブランドの紙を超えたストーリーを生み出していく事が重要ではないかと思います。

―――それはECという形だけではなさそうですね

松延: そうですね。雑誌が起点となって、コミュニティが生まれる。そこにイベントやアクティビティが提供されるようになる。人々が集まることによって、そこから更に新しいストーリーが生まれていって、雑誌やコンテンツに還元されていく。こういう雑誌から始まる循環を描けないかと考えています。それを個別の雑誌や出版社ではなく、業界全体のチャレンジとして広げていく、これがイデアで実現したいことです。

イデア代表取締役社長CEOの 松延秀夫氏

―――具体的にイデアはどういったものを提供するのでしょうか?

松延: 出版社と協力して、雑誌と連携したEC事業を共同で立ち上げていきます。ECを展開するに当たって必要となる、コンセプトや計画立案、商品仕入れ(MD)、物流、事務局機能、システム(marbleASP)などを一気通貫でサポートしていきます。編集部と協力しながら、オリジナル商品の開発や限定商品の取り扱いも進めていければと思っています。

星: ECの機能に関する部分は全面的に私達が請け負います。編集部には、一定のページを割いてもらい、取り扱っている商品をストーリーとして紹介してもらう、という点で協力をお願いしています。単純な商品PRではなく、雑誌のブランドや世界観に合った商品をストーリーと共に紹介するもので、きちんと読者を喜ばせながら、同時に収益を生むページとすることができます。

イデア取締役 取締役COOの星邦博氏

―――ECはどういった商材を取り扱いますか?

星: 特に制限はありませんが、これまでお手伝いしてきた「文藝春秋」の「今月の豪華主義」はグルメ、他では雑貨やキモノを販売したこともありました。ただ、インターネットでECをやる以上は競争も激しいです。Amazonや楽天で簡単に買えるような商品では価格競争になってしまいます。その意味で私達が得意としているのはグルメです。全国各地とのネットワークがあり、良い商品をすぐに調達でき、比較的簡単にスタートできます。雑誌の編集者はグルメだったりするので、そこのシナジーもありますね(笑)。生産者から直送が出来るので、在庫リスクがないのも利点です。

その雑誌ならではの商材を開発していくのはとても大事だと思っています。例えば「文藝春秋」では、通刊3000号の発売を記念して和田誠氏の表紙絵レプリカの販売サイトを立ち上げて好評でした。

松延: イデアでは雑誌コンテンツのアーカイブ、例えばイラストや写真などでの販売プロデュースを積極的に推進します。富士山マガジンサービスと電通の合弁会社であるマガポートでは、雑誌を記事単位で販売していく事業を強化していきます。紙の雑誌では読者アンケート以外に、特集の中でも、どういった記事が人気なのか、細かく測る方法がこれまでありませんでした。マガポートではそこをデジタルで分かるよう取り組んでいきたい。すれば、ECでも、コンテンツ閲読分析に基づき、読者に響く商品が何かが明らかになります。よりデータを中心に出版社が読者を中心に理解して、雑誌を磨き上げていくお手伝いもできればと思っています。

―――今後の展望を聞かせてください

松延: イデアはまだ立ち上がったばかりですが、沢山の引き合いをもらっています。早ければ来春には最初のECサイトをオープンできると思います。また、来年中には10社程度に広げていきたいと思っています。将来的には様々な出版社が参画するモールを構築するような構想もあります。また、メディアを活用した物販は可能性が大きいと思っていまして、今月からCS放送の「映画・チャンネルNECO」で物販番組を持ちます。最初は宍戸開さんが長崎県の隠岐島に行って地元の名品を紹介しつつ、販売を行います。ここでも雑誌との連携を進めていければと思っています。

星: 雑誌の販売は厳しい局面にありますが、依然として雑誌のブランドや世界観は人を惹きつける強力なものがあります。これを活用したビジネスを各出版社が進めていますが、必ずしも自社だけで全てを完結できる大手出版社ばかりではありません。イデアとしては、富士山マガジンサービスとイードの既存のアセットを活用しながら、出版文脈が分かる業界のサポーターとして活動を広げていければと思っています。

松延: 今年、富士山マガジンサービスは、事業説明会のゲストとして、メレディスという全米最大の出版社を日本に招き、新しい雑誌ビジネスのあり方を講演していただきました。例えば、彼らの主力雑誌のひとつである「Better Homes and Gardens」では、ブランドを冠した寝具、バスタオル、収納、家具など3000以上の商品がウォルマートとの独占契約で販売されている、などの事例の紹介もありました。彼らは雑誌ブランドの活用という観点でも世界で最先端にいると思います。富士山マガジンサービスは彼らとも連携しながら、日本における出版ビジネスを深化させる役割を果たせればと思っています。

※株式会社イデアはMIを運営するイードと、富士山マガジンサービスの合弁会社です

11月特集: メディアとEC(コマース)の展望

1. “購買に寄与する”メディアに進化した「GIZMODO」・・・メディアジーン芹澤執行役員に聞くコマースへの取り組み
2. 出版社のECを全面サポート、富士山マガジンサービスとイードの合弁会社イデアの松延秀夫CEOらに聞く
3. 株式会社集英社 小林桂 常務取締役
4. 株式会社フラクタ 河野貴伸 代表取締役社長 河野貴伸
5. 株式会社ヤプリ 金子洋平 執行役員CCO
6. 株式会社マクアケ 中山亮太郎 代表取締役
7. 株式会社買えるAbemaTV社 伊達 学 代表取締役社長

メディアとECのイベントを11/27(水)に開催

毎月恒例のMeetupでもECを取り上げます。11月27日(水)に四谷での開催となります。皆様のご来場をお待ちしております。チケットはPeatixで発売中です

登壇いただくのは、雑誌と連動したECサイト「FLAG SHOP」を手掛け、集英社のデジタル部隊を分社化したProject8の代表も務める株式会社集英社 取締役の小林桂氏、「GIZMODE」や「lifehacker」でメディアコマースの取り組みを推進する株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当の芹澤樹氏、アプリを誰でも作れるソリューションを提供する株式会社ヤプリの金子洋平 執行役員、D2Cブランドを支援し、ECプラットフォームShopifyのエヴァンジェリストも務める株式会社フラクタの代表取締役社長 河野貴伸氏です。

■概要
日時 2019年11月27日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING四谷 〒160-0004 東京都新宿区四谷3丁目3−9 第一光明堂ビル 9F
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社フラクタ 代表取締役社長 河野貴伸氏
    株式会社ヤプリ 執行役員 金子洋平氏
    株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当 芹澤樹氏
    株式会社集英社 取締役 小林桂氏
20:00 パネルディスカッション
20:40 懇親会
21:45 終了

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