MIの11月特集は「メディアとコマース(EC)の展望」です。広告に留まらない収益源を模索するメディアにとって有望であると常に挙げられるのが商品の販売です。しかしその実現は困難であり、多くの失敗事例が生み出されてきました。いま改めて、メディアがコマースに取り組むには何が必要か。キーパーソンを取材しました。

大手出版社の中でも集英社は早い段階からデジタルに取り組んできました。2015年にはデジタル部隊を独立させて株式会社Project8を立ち上げ、1000万UUを超えたメディア「HAPPY PLUS」(ハピプラ)や、立ち上げから10年以上となるECサイト「FLAG SHOP」を中心に展開しています。Project8の代表取締役で、集英社の常務取締役としてデジタル戦略を牽引してきた小林桂氏にお話を伺いました。

―――自己紹介をお願いします

本が好きという理由で集英社に入社しました。宣伝部や広告部に在籍しましたが、ブランド事業部という部署が出来た時に創設メンバーとして加わったのが転機になりました。もう約11年前になりますが、当時から出版ビジネスの先行きには困難が予想されました。集英社として持つ資産、雑誌ブランドを活用して、どう出版以外のビジネスを立ち上げられるか、というのがミッションでした。

最初の取り組みが「FLAG SHOP」という今に続くECでした。当初はマガシークと提携して立ち上げて、徐々にノウハウを蓄積していき、今では自社完結でMD、マーケティング、物流、システムなどEC業務を行っています。直近では、西武そごう、東急百貨店などリアル店舗への進出も進めています。

2015年には、特に集英社としてのデジタルビジネスの実働部隊として、集英社100%子会社のProject8を立ち上げて代表に就任しました。「FLAG SHOP」に加えて、「HAPPY PLUS」(ハピプラ)という雑誌を横断したメディア、「少年ジャンプ+」などの漫画アプリ、SEOコンサルティング、社内に対しての広告代理店業務などを行っています。いま100人規模にまで成長しました。

―――出版社のデジタル展開として非常に興味深い取り組みですが、Project8はどういった経緯で立ち上がったのでしょうか?

デジタルで必要な人材を、これまでの集英社と同じような制度や採用方法で集めていくのは無理がありました。別会社にすることで機動的に、柔軟な制度設計が取れるようになりました。最初はプロフェッショナルなフリーランスの人たちの集合体で運営していましたが定着が難しく、Project8設立後は社員で優秀なメンバーを集めようという方針です。別会社といっても、大半の社員は集英社のオフィスにいて、ブランド事業部や編集部のメンバーと机を並べて、仕事をしています。

副業という意識では新しいビジネスを立ち上げるのは無理だと思います。デジタルメディアもECもある意味、出版以上に激しい競争の世界です。ここで勝ち抜こうとするなら、本気で人材を集めないといけない。Project8はそこが本業ですので、ECのプロ、商品開発のプロ、店舗開発のプロ、SEOやデジタルメディアのプロ、広告運用のプロが集まってきています。これから結構面白い事が出来るんじゃないかと思いますね。

集英社グループでデジタル戦略を担うProject8

―――「FLAG SHOP」はどういった状況でしょうか?

オープンから約10年が経ち、当初の目標までは到達してないものの、年間の売上は60億円程度にまで成長しました。システムとしては1つのサイトですが、その中に9つのショップが共存するECサイトです。実は雑誌由来のショップは3つで、6つは他社から事業譲渡を受けたものや、新しく立ち上げたものです。

最初は雑誌に掲載した商品を紹介していましたが、毎月一回の更新と商品量では魅力がありませんweb独自の商材がどんどん増えていき、現在では一般的なECサイトに、雑誌という強みがある、というイメージです。お客さんは他と比較しながら服を買いに来るのであって、ECサイトへの要求は高く、雑誌のブランドだけで売れるほど、簡単な世界ではありません。

ただ、出版社として培ってきた編集力や写真の質やキャスティング力はECで商品を販売する上で競争力になると思います。雑誌ならではの打ち出し方や、優秀なカメラマンやスタイリスト、モデルとのネットワークもあります。編集的、メディア的なECという意味では出版社がやっている魅力があるかもしれません。でも、根本的にECとしての機能が十分に無ければ意味がありません。

年々成長してきた「FLAG SHOP

―――なるほど、「メディアのEC化」は苦戦して、「ECのメディア化」は成功事例がある理由かもしれませんね

物流は成長に従って様々な会社を使ってきたのですが、現在は昭和図書という小学館と集英社グループの出版倉庫の会社を使っています。そこにスタジオを併設していて、一日中撮影を行っています。特に力を入れる商品に関しては雑誌の編集部の協力を得て別途行っています。雑誌の編集ページと同じクオリティで画像を作っているというのは他のECではなかなか無いと思います。

―――プライベートブランドの商品作りにはどのように取り組まれているのでしょうか?

プライベートブランドの開発チームがいて、商品企画を行っています。委託商品ばかりですと、どこのECでも同じになってしまいます。そうすると、配送スピードやポイント付与率などのサービス合戦になります。やはり独自性を出すためにはプライベートブランドが必要です。その代わり、リスクもありますが。現在は20%弱がオリジナルですが、これを将来的には50%まで引き上げたいと考えています。

―――順調に成長しているということですが、課題はどんなところに感じられていますか?

世の中のEC化に乗って成長してきたような側面もあると思っています。同時に競争も激しくなっています。ZOZO TOWNのような巨大な競合もありますし、Amazonや楽天市場も規模が全然違うとはいえライバルです。アパレル各社も自社ECに力を入れています。より商品力やマーケティング力を磨いていかないと生き残れません。

「FLAG SHOP」は客単価が約1万8000円で、ZOZOが約7400円なのと比較すると非常に高くなっています。これは嬉しい数字ですが、お客さんの層が限られている裏返しでもあります。これは課題に感じる一方で、若者層を狙ったプチプラブランドや韓国ブランドなどの低価格帯で勝負して自分たちの強みが出せるかというと難しい問題です。現状では比較的高い価格帯で、アッパーマス、準富裕層をターゲットに、ストーリーと共に、良い商品を、適切な価格で提供することに注力しています。

―――百貨店への出店も進めていますが、同じ文脈でしょうか?

百貨店から撤退するブランドも多く、それに伴い声を掛けてもらう事が増えました。百貨店は苦戦しているとは言え、6兆円の市場です。少し高めの層が強い「FLAG SHOP」としては良い販路ではないかと考え、世の中の動きとは逆張りで展開を進めています。ただし無闇矢鱈に出店するつもりはありません。ポップアップストアで試して見て、上手くいった店舗で常設を出していくというのを繰り返しています。3年くらい繰り返すと、店舗と我々の相性もあるのが見えてきました。

いま店舗は、横浜そごう、千葉そごう、東急銀座、渋谷スクランブルスクエア、西武渋谷に出店していて、近々JR京都伊勢丹にも出店予定です。店舗開発は元百貨店に務めていた人間を中心に担当していて利益が出なければ撤退と決めています。条件面でも固定費、売上歩合、MGなど様々な組み合わせがありますが、一番優位な条件を取れるように交渉しています。

―――リアル店舗を始めたことでECにも良い影響があるでしょうか?

「FLAG SHOP」は客数や売上に対して認知率が低かったのですが、ポップアップや常設店舗を立ち上げることで認知率が上がりました。相互に送客するような事もできています。お客様も現物を見る機会はあったほうがいいですよね。また、ECと店舗で在庫を一元管理していますので、在庫の消化率も上がりました。これは粗利に直結するので、とても良い効果でした。直接お客様の雰囲気や購買行動を見れるのも良いですね。

これからポイントの共通化などによってOMO(Online Merges with Offline)的にECと店舗の顧客を統合していきたいと思っています。また、現状では「FLAG SHOP」と「HAPPY PLUS」の会員も別れているので、これから時間をかけて統合していきます。サイト自体も統合していく方向です。

―――「HAPPY PLUS」は今後どうなって行くのでしょうか?

サイトのシステムリニューアルから順調に伸びてきて、第一ステージは終わったのかなと思っています。ユーザー基盤と、最低限の規模感はできました。現状、1000万UUを超えたところです。これからは雑誌メディアの集合体にとどまらず、女性向けの幅広いサービスに進化していくイメージです。「HAPPY PLUS ⚫⚫」というようなサービスを立ち上げていきます。IDを軸としたメディアプラットフォームとしての側面も強くなっていくと思います。

4年前に独自CMSを構築して、雑誌の編集部がコンテンツ作りに協力してくれた事もあって「HAPPY PLUS」は成長することができました。最近では、他の出版社の雑誌のwebメディアが急成長しています。各社生き残りを賭けて、本気を出して取り組めば伸びる、ということかなと思います。みんなで伸ばして出版メディアの存在感を出していった方がいいと思いますので、協力できることがあれば協力しあっていければと思います。

集英社の編集部がタッグを組んで作ってきた「HAPPY PLUS

―――広告代理店事業というのはどういうことをやっているのでしょうか?

主にインターネット広告の運用とサイト改善のコンサルです。集英社のインターネット広告の運用・発注は外部の広告代理店に依頼していますが、一部をProject8が請け負うようになっています。一部でいいので内製化して、内部にノウハウを貯めていくということです。同時に、webサイトも多数展開していますがうまくいっていないことも多いので、サイト改善の支援を始めています。これらを集英社外にも広げていこうとしています。

―――Project8として目指す姿はありますか?

集英社のデジタル部隊という存在を超えて、自前のプロダクトを持ちたいという目標はあります。内部の支援だけでなく、B2BでもB2Cでもプロダクトを作れれば、と思っています。面白い事を考えるメンバーが増えていて、メンバーからも色々な提案があります。Project8としてはデジタルが主戦場ですので、ここで勝てる事業を作っていければと考えています。

11月特集: メディアとEC(コマース)の展望

1. “購買に寄与する”メディアに進化した「GIZMODO」・・・メディアジーン芹澤執行役員に聞くコマースへの取り組み
2. 出版社のECを全面サポート、富士山マガジンサービスとイードの合弁会社イデアの松延秀夫CEOらに聞く
3. 集英社はいかにデジタルメディアとECを成功に導いたか・・・デジタル戦略を率いてきた小林常務に聞く
4. 株式会社フラクタ 河野貴伸 代表取締役社長 河野貴伸
5. 株式会社ヤプリ 金子洋平 執行役員CCO
6. 株式会社マクアケ 中山亮太郎 代表取締役
7. 株式会社買えるAbemaTV社 伊達 学 代表取締役社長

小林氏も登壇するメディアとECのイベントを11/27(水)に開催

毎月恒例のMeetupでもECを取り上げます。11月27日(水)に四谷での開催となります。皆様のご来場をお待ちしております。チケットはPeatixで発売中です

登壇いただくのは、雑誌と連動したECサイト「FLAG SHOP」を手掛け、集英社のデジタル部隊を分社化したProject8の代表も務める株式会社集英社 取締役の小林桂氏、「GIZMODE」や「lifehacker」でメディアコマースの取り組みを推進する株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当の芹澤樹氏、アプリを誰でも作れるソリューションを提供する株式会社ヤプリの金子洋平 執行役員、D2Cブランドを支援し、ECプラットフォームShopifyのエヴァンジェリストも務める株式会社フラクタの代表取締役社長 河野貴伸氏です。

■概要
日時 2019年11月27日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING四谷 〒160-0004 東京都新宿区四谷3丁目3−9 第一光明堂ビル 9F
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社フラクタ 代表取締役社長 河野貴伸氏
    株式会社ヤプリ 執行役員 金子洋平氏
    株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当 芹澤樹氏
    株式会社集英社 取締役 小林桂氏
20:00 パネルディスカッション
20:40 懇親会
21:45 終了

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