MIの11月特集は「メディアとコマース(EC)のいま」です。広告に留まらない収益源を模索するメディアにとって有望であると常に挙げられるのが商品の販売です。しかしその実現は困難であり、多くの失敗事例が生み出されてきました。いま改めて、メディアがコマースに取り組むには何が必要か。キーパーソンを取材しました。

企業や個人が取り組もうとするプロジェクトに、ユーザーが支援し、その実現を目指すクラウドファンディング。 2013年から運営され、日本でも有数の規模を誇るのが、株式会社マクアケが展開する「Makuake」です。これまで7000以上のプロジェクトを掲載し、2019年12月11日には東証マザーズへの上場も予定しています。同社を創業から牽引する代表取締役社長の中山亮太郎氏にメディアと「Makuake」の活用法について聞きました。

―――これまでのご経歴を聞かせてください

1982年生まれの37歳です。大学卒業後にサイバーエージェントに入社して、藤田晋社長の運転手をしながら、新規事業やECのマーケティングメディアの立ち上げに携わりました。メディアとECというのが自分の原体験で、これが今の「Makuake」にも生きていると思います。その後、グループのサイバーエージェント・ベンチャーズ(現・サイバーエージェント・キャピタル)に移籍してベトナムに渡り、現地のベンチャー企業向けに投資活動を行っていました。

ベトナムで生活をしていたのですが、ふと気付くと、日本の製品に全く触れてなかったんです。スマホを2台持っていましたが、アップルとサムスン。テレビもサムスン、冷蔵庫はLG。特定のメーカーを指名買いしているのではなくて、日本の製品があまり流通していないんです。家電量販店でも日本の存在感が全然なくて。家電だけでなく、ゲームのようなコンテンツでも、中国や韓国などが席巻していて、「クールジャパンってどこだろう・・・」と。この体験が直接的には「Makuake」を立ち上げる契機になっていて、日本に戻って2013年にマクアケ(当初の社名はサイバーエージェント・クラウドファンディング)を立ち上げました。

―――海外で感じた日本の存在感の無さが原動力となったのですね

ベンチャー投資では主にインターネット企業に投資をすることになるのですが、日本ではインターネットだけでなく、新しいことに挑戦する環境が整ってなくて、起業家にとって息苦しい世界になっているのではないかと感じていました。モノやサービスを生み出しやすくするにはどうしたらいいのか・・・というのがクラウドファンディングというアイデアを実現することに繋がりました。

―――立ち上がりは順調だったのでしょうか?

「クラウドファンディング」という存在が非常に注目されていた時期でもあり、私達のサービスにもかなりの注目と期待を受けることができました。ただ、その事が「クラウドファンディング」への変なこだわりを生み、自分たちを縛って苦しみました。

当初は、いわゆる寄付や募金のようなイメージで、新しい取り組みに対する心からの支援である、という思いを強く持っていました。確かに寄付や募金は災害などの復興に効果的に活かせるインフラではありますが、モノやサービスを生み出すために広く共感を集めて機能させるというのは、なかなか難しい課題でした。それでなかなか使ってもらえず、何度も潰れかけました。

そこで「Makuake」では、応援する人の「欲しい」「使いたい」「参加してみたい」という気持ちを喚起し、応援の気持ちを込めて購入できるような取り組みに転換していきました。それによって、色々なプロジェクトが前に進むようになっていきました。ちゃんと顧客として「応援マネー」を入れてもらう、これが大事なんだと思っています。今は、「Makuake」は「アタラシイものや体験を応援購入できる場」と定義しています。応援だけでも、購入だけでも駄目で、作り手を応援しながら、自分にとっても嬉しい「応援購入」は、現代の新しい消費体験なのではないかと思います。

世の中をワクワクさせるようなプロジェクトを多数生み出してきた「Makuake

―――これまで7000プロジェクト以上の挑戦を掲載してきたと聞きましたが、印象的なものはありますか?

プロジェクトの中には「Makuake」がなければお蔵入りになっていたようなアイデアや、誰にも知られずデビューできなかったかもしれないプロジェクトも沢山あり、どれか一つを選ぶのはとても難しいです。でも印象的だったものの一つに、「glafitバイク」という電動折り畳みバイクのプロジェクトがありました。ペダルを活用することで、自転車、電動バイク、ハイブリッド走行ができる1台3役の乗り物で、「Makuake」でも記録になるようなヒット商品になりました。これを考えると恐らく一般の市場でも、プロや流通サイドが見逃してしまっているアイデアは沢山あるんだろうと思いますね。

また、プロジェクトに挑戦する実行者から「Makuake」のポテンシャルを教えてもらうのは日常茶飯事です。例えば、会員制の馬肉専門店「ローストホース」が切り開いたのが、飲食店をオープンする前に会員権を「Makuake」で販売して、事前に初期顧客を獲得するというスタイルです。これを最初の事例として、その後も飲食店のプロジェクトが多数生まれてきました。

いま世間で大流行しているD2Cブランドも、多くが最初の立ち上げで「Makuake」を利用してくれています。例えばオーダースーツをインターネットで手軽な価格で提供する「FABRIC TOKYO」や、最高級の日本酒に挑戦する「SAKE 100」、男性向けの化粧品ブランド「BULK HOMME」、チーズケーキの「Mr. CHEESECAKE」、スポーツ向けのインソール「AspoleZERO」など注目されているブランドがMakuake出身です。

※上記のD2Cブランド各社は7月特集「D2Cは消費とコミュニケーションをどう変えるか」で取材していますので、そちらも是非チェックしてみてください

このように新しいアイデアを応援購入してくれるユーザーの力を借りて、何かを立ち上げていく原動力にする、という点で「Makuake」が活用され、色々な人が新しいものにチャレンジできる環境を提供できているのは当初からの狙いで、それが少しずつ実現できているのはとても嬉しいですね。

―――メディアとクラウドファンディングという観点ではどのような可能性があると思われますか?

例えば直近では、雑誌「egg」の復活を応援しようというプロジェクトがありました。春と秋に実施して、どちらも目標金額の2倍以上が集まりました。実際に制作した雑誌は書店やコンビニでも販売され、売り切れたようです。雑誌は書店流通が厳しくなっていて、部数が減り休刊されるものも多いですが、きちんとファンに届く仕組みさえあれば、成り立つという事を実証しているように思います。

「egg」復活プロジェクトは多数の支援を集めた

また、「Meets Regional」という関西では絶大な支持を受けている情報誌があり、30周年を記念した忘年会を読者と開催するというプロジェクトでは、忘年会の参加権が早々に売り切れるなど、ユニークな体験型のリターンに多くのサポートが集まっています。また、グルメメディア「食楽web」と予約が取れないと噂の肉料理屋「肉山」がコラボした「〆カレー」を作るというプロジェクトも、750人を超えるサポーターが集まり、400万円近くの応援購入がありました。イードさんの「Game*Spark」でもウェブ漫画として展開している「じゃんげま」を単行本化するという企画で総額300万円応援購入されていましたね。

弊社、イードのゲームメディアが実施したウェブ漫画の単行本化プロジェクト

メディアにおいても、ECを一つのビジネスモデルとして考えられるケースは多いと思います。また、そこでオリジナル商品を、というのも当然の発想です。でも、そこにはリスクも大きい・・・。そういった時に「Makuake」で応援購入を募ってみるところから始める。これは是非チャレンジして欲しいですね。

―――「じゃんげま」のプロジェクトでは大変お世話になりました。メディアは広告が主要なビジネスモデルで、実はB2Bのモデルです。特にウェブメディアとして直接お客さんと向き合って販売するという経験は少ないので、とてもいい経験になりました。しかし戸惑いながら進めたのも事実です。メディアに限りませんが、クラウドファンディングで成功確率を高めるためには何が必要でしょうか?

答えは「本当に自分たちが欲しいものを提案する」ということだと思います。今の時代はモノが溢れ、消費が成熟した時代です。並大抵の機能や利便性、価格といったスペックで新しい商品を世の中に出していくのは極めて困難です。どうしても、マスで大勢の人に買ってもらうと意識すると、大量生産品との戦いになってしまいます。でも、そうではなくて、たった一人、自分だけが欲しいかもしれないけど、研ぎ澄まされたコンセプト、そういうものが求められているように思います。マスといっても、個人の集合体です。少人数でも本当に心を揺さぶるような商品が結果的に伝播していって、マスになるのではないかと思います。先に挙げたD2Cのブランドはそれを実証していると思います。

それから、「SAKE100」のClearさんは「SAKETIMES」という日本酒メディアを運営しています。「AspoleZERO」のTENTIALさんは「SPOSHIRU」というスポーツメディアを運営しています。どちらもメディアを運営して、その領域に対する知見を活かした商品を作ったと言えると思います。メディアは一番ユーザーに近く、ニーズの最先端にいるので、良い商品を生み出せる立場にあるんじゃないかと思います。また、メディアがそのブランドを体現するのに、コンテンツを発信するだけでなく、商品やイベントを含めて、体験を提供していくというのは自然の成り行きのように思います。

―――「Makuake」のウェブサイトを見ているだけで、色々な未来が生まれていって、ここ自体がメディアになっている感覚もあります

「Makuake」はクラウドファンディングのプラットフォームですが、同時にメディアでもあると考えています。様々な事業者が生み出していくプロジェクトを、きちんとユーザーに届けて広げ、成立するお手伝いをするのも大きな役割です。ですので、「Makuake」では1つのプロジェクトに必ず1名担当が付き、見せ方や打ち出し方のアドバイスをはじめ、必要に応じて外部の専門パートナーをつなぐサポートを行っています。ジャンル毎に成功のノウハウがどんどん蓄積していっています。

そして非常に有り難いことに、単体のプロジェクトを応援購入するだけでなく、「Makuake」自体を新しいプロジェクトとの出会いの場として楽しんでいただくユーザーが年々増えていて、何度も色々なプロジェクトを応援購入するユーザーが積み上がってきています。会社としても、この数は重要なKPIとして捉えています。リピート購入ユーザーは年々増えていて、今は7割を超えています。

―――ここまで実現してきたことを振り返って、どう感じられますか?

日本の社会が成熟したことによって、新しいチャレンジが難しくなってきた、その難しさの一部を取り除くことができたのではないかと思います。

既存の流通構造では、大量に生産したものを、手に取りやすい価格で提供するのが勝ちパターンでした。それによって多様性が失われ、画一的な消費を生み出してきました。でも、インターネットによって商品を本当に必要とする人にピンポイントで届けられるようになった。例えば雑誌も、本当にドンピシャのターゲットであれば3倍の値段でも買ってくれるはずなんです。でも全国の書店にあまねく流通して偶然の購買を促すには数百円しか取れなかった。「Makuake」があることによって、カンブリア紀のように商品が爆発的に生まれてくる、そんな世界のきっかけは作れたように思います。

また、「Makuake」でのプロジェクト終了後の取り組みとして、プロジェクトに成功して一般販売に至った商品をECとして販売する「Makuake ストア」を2016年より展開しています。伊勢丹新宿店や東急ハンズ渋谷店などのリアル店舗で「Makuake」を実施中のプロダクトや成功したプロダクトを展示・販売するという試みを2015年から進め、現在全国10 以上の店舗で展開しています。これも多様な商品を世の中に送り出していくために、クラウドファンディングという入り口だけでなく、もっと先の展開もサポートしていく意志の現れです。「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」というビジョンの実現を目指してこれからも邁進していきます。

11月特集: メディアとEC(コマース)の展望

1. “購買に寄与する”メディアに進化した「GIZMODO」・・・メディアジーン芹澤執行役員に聞くコマースへの取り組み
2. 出版社のECを全面サポート、富士山マガジンサービスとイードの合弁会社イデアの松延秀夫CEOらに聞く
3. 集英社はいかにデジタルメディアとECを成功に導いたか・・・デジタル戦略を率いてきた小林常務に聞く
4. 株式会社フラクタ 河野貴伸 代表取締役社長 河野貴伸
5. 株式会社ヤプリ 金子洋平 執行役員CCO
6. 株式会社マクアケ 中山亮太郎 代表取締役
7. 株式会社買えるAbemaTV社 伊達 学 代表取締役社長

メディアとECのイベントを11/27(水)に開催

毎月恒例のMeetupでもECを取り上げます。11月27日(水)に四谷での開催となります。皆様のご来場をお待ちしております。チケットはPeatixで発売中です

登壇いただくのは、雑誌と連動したECサイト「FLAG SHOP」を手掛け、集英社のデジタル部隊を分社化したProject8の代表も務める株式会社集英社 取締役の小林桂氏、「GIZMODE」や「lifehacker」でメディアコマースの取り組みを推進する株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当の芹澤樹氏、アプリを誰でも作れるソリューションを提供する株式会社ヤプリの金子洋平 執行役員、D2Cブランドを支援し、ECプラットフォームShopifyのエヴァンジェリストも務める株式会社フラクタの代表取締役社長 河野貴伸氏です。

■概要
日時 2019年11月27日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING四谷 〒160-0004 東京都新宿区四谷3丁目3−9 第一光明堂ビル 9F
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社フラクタ 代表取締役社長 河野貴伸氏
    株式会社ヤプリ 執行役員 金子洋平氏
    株式会社メディアジーン 執行役員CSO 事業戦略部門担当 芹澤樹氏
    株式会社集英社 取締役 小林桂氏
20:00 パネルディスカッション
20:40 懇親会
21:45 終了

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