古くて新しい? 音声コンテンツの普及とマネタイズ実現に向けたカギとは…「音声とメディア・広告の未来」イベントレポート

11月27日、ハフポスト日本版とpopInによる主催で「音声とメディア・広告の未来」をテーマにしたイベントが開催されました。今回のイベントは5部構成となっていましたが、本稿では同イベントの核心テーマとも言える第4部のパネルディスカッション「あたらしいメディアと…

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11月27日、ハフポスト日本版とpopInによる主催で「音声とメディア・広告の未来」をテーマにしたイベントが開催されました。今回のイベントは5部構成となっていましたが、本稿では同イベントの核心テーマとも言える第4部のパネルディスカッション「あたらしいメディアと広告のカタチ」について詳しくレポートをお届けします。

パネルディスカッションの登壇者3名

技術の進化により音声広告は市場を拡大する

登壇者はハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏を司会役に、音声とアドテクを連携させたデジタルマーケティング事業を展開するオトナル 代表取締役の八木たいすけ氏、そしてアクティブユーザー6億人(!)という中国最大手の音声プラットフォームを運営するhimalaya日本法人(シマラヤジャパン)の副社長、 齋藤ソフィー氏の計3名がそれぞれの立場からメディア・広告の将来について議論しました。なお、himalayaは中国語での発音だと「シマラヤ」になることから、日本の法人名を「シマラヤジャパン」としているそうです。

ディスカッションではまず、八木氏が「広告媒体としての音声」について、日本の潜在市場規模について口火を切ります。国内の広告市場統計には「音声広告」の市場規模を明示したデータはないものの、八木氏によると「見立てはある」とのこと。「米国の統計によると音声広告の媒体側の儲けは約2400億円。日本の広告市場規模との比で見ると国内は240億円程度の市場になり得ると見立てている」(八木氏)。また、音声領域のプラットフォーマーも、3年以内に音声広告市場は300億円規模にまで成長すると見込んでいるとのこと。日本の広告費はほぼ頭打ち状態であることから、音声広告は他の広告費からシェアを奪い取る形で成長していくだろうと予測します。

司会を務めたハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏(左)と斎藤氏
米国でのデジタルオーディオ広告はすでに2400億円を突破。日本でも200-300億程度の市場ポテンシャルがあると見られている

八木氏は、ターゲティング精度の高さが従来のラジオ広告にはない音声広告ならではの優位点として挙げます。「たとえばSpotifyなどは「通勤中」などといったプレイリストごとにターゲティングができる。そのリアルタイムの瞬間を切り取ってその人のパーソナライズがしやすいことも音声広告の利点」。

デジタルマーケティング事業を展開するオトナルで代表取締役を務める八木たいすけ氏

齋藤氏も、音声広告がバナーのようなディスプレイ広告とは異なるアイディアが実現できる点に、その可能性を見いだしています。中国のhimalayaはポッドキャストの制作・配信プラットフォームとしてアクティブユーザー6億人を抱える最大手企業ですが、課金と並んで広告も収益の柱の一つと位置づけています。その広告領域における新しい試みとして、スターバックスとのコラボ事例を挙げます。

中国(と同時に世界)最大手の音声プラットフォームを運営するhimalaya日本法人(シマラヤジャパン)の副社長、齋藤ソフィー氏

その取り組みは、ポッドキャストのリンクバーコードが印字されたカップを300万杯限定で発売するというものでした。そのバーコードには、中国で有名な声優による詩の朗読を聞くことができました。またコンドームを製造発売するデュレックスが、恋愛や性の悩みについて語るチャネンネルを立ち上げた事例を紹介。いずれも、「音は個人に語りかける(ように感じる)」という特性を生かして商品や企業のイメージアップに繋げることができた、と齋藤氏は分析します。これを受けて竹下氏は「コンプレックスコンテンツは(周囲の反応を気にして)いいね!はできないが、自分の中で共感はできる。その点で、音声で伝えることは1対1のコミュニケーションをしていると捉えられる」と評しました。

himalayaがスターバックスとと協業で展開した広告。ポッドキャストへのリンクを印字したカップを限定発売した

音声コンテンツ、普及のカギは「地方」と「女性の社会進出」にあり?

とはいえ、よくよく考えてみるとポッドキャストは、その登場から15年近くが経過しており、目新しいものではありません。またニュースの読み上げアプリをはじめとして音楽以外の音声サービスも多数登場していますが、少なくとも日本国内については普及からはまだほど遠い印象です。このような状況の中で、日本でも音声コンテンツが復権を遂げる見通しはあるのでしょうか。

竹下氏が「音声は日本のライフスタイルに合っていると思うか?」を水を向けると、八木氏は「電車のなかではゲームしているか映像見ている人が多い。しかし、クルマは音声コンテンツと相性が良く、クルマ社会の地方で広がる可能性はある。また、YouTubeを音だけ聞いている人も相当いるので、歩きながら情報のコミュニケーションをネットで取るとか、家事の最中とか、(音声コンテンツは)生活の隙間に入っていくはず」と音声サービスが伸びていく余地に期待を示します。

司会を務めたハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏(左)と斎藤氏

また齋藤氏は、共働きや働き改革といった社会の変化を踏まえて、「(音声サービスは)働く女性には最強のツール」と断言します。「女性は子育てや仕事でとにかく忙しい。朝支度しているときに、子どもがママーとグズると何もできなくなる。そういう時にはラジオドラマを出して聞かせておくとずっと静かにしてくれる。YouTubeじゃなくて意味のある番組。中国では子ども部屋にAIスピーカー置いて勉強させたり、リタイアした親たちに使わせるケースも多い。AIスピーカーがあると、欲しいときに情報を引き出せるからです」(齋藤氏)。YouTubeを子どもに見せたくないという親御さんもかなりの割合でいることから、代替需要としての音声コンテンツへの需要は確かに見込めるかも知れません。

音声コンテンツ普及はプラットフォーマーによる環境整備が不可欠

米国でのスマートスピーカーの普及率は36%。つまり3世帯に1つ以上スマートスピーカーがあるということになりますが、日本での普及率は6%にすぎません(電通が2019年2月に発表した調査結果による)。こうした状況の中で、普及を妨げるボトルネックはどこにあり、何を解決すれば良いのでしょうか。

齋藤氏は「中国ではコンテンツの多いAIスピーカーが人気。やはりコンテンツの量と質が鍵になる」と語ります。またヒカキン等に代表されるYouTuberのスタータレントが生まれる可能性については、齋藤氏は「現状では(スターが)生まれにくい。なぜなら制作の手間とコストがかかるから」と指摘。こうした発信側のマネタイズ支援もプラットフォーマーの果たすべき役割だと指摘します。「himalayaはその(音声による情報発信の)敷居を下げきた。最初になにを話せば良いか分からない人に対して、レコメンドもする。プラットフォーマーから環境を整えていくことが必要。またマネタイズについても、himalayaから率先して利益をシェアしている」。なお、himalayaでのコンテンツ課金によるシェア率についてはユーザーにより差があるものの「本の印税よりは高い」割合を分配しているとのことです。

また八木氏も同様に、音声サービスがブレイクできていない要因として「コンテンツ・チャンネルの不足」「配信手段の不備」を2点挙げます。コンテンツ不足については、新しいiOSでiTunesの機能から切り出され、Spotifyでもポッドキャスト再生に対応するなど聴取環境の改善が図られていること、また配信手段の問題については、八木氏のオトナルとニッポン放送とで複数のプラットフォームに同時配信する仕組みの構築に向けて取り組んでいることなどを挙げました。

八木氏(右)と斎藤氏

普及に向けた環境は着々と整いつつあり、いつ・誰が勝負を仕掛けるか

齋藤氏は、オンデマンド音声サービスとYouTubeに代表される映像コンテンツとの決定的な違いとして、「付き添い型(メディア)」つまり音声ならではの「ながら使い」で「生活を邪魔することなく、付き添いの時間を提供」できる点にあると言います。そして、視覚的なインプットを排し主として「人の肉声」がもたらす安心感・身近さが、情報過多の現代社会において受け入れられる要因とも述べています。こうした音だけのコンテンツが生活の隙間隙間に入っていくための制約はスマートスピーカーやIoT(スピーカー内蔵電灯や目覚まし時計等々)の普及で取り払われようとしています。

さらに、音声のプログラマティックADのテクノロジーも着実に進化を遂げ、プラットフォーマーは発信側のマネタイズ支援の準備を整えつつあります。このように、音声メディアが新たな脚光を浴び、市場を再度創造していくための素地は固まってきており、300億円市場と言われる音声広告分野で勝負をかけてくるプレイヤーもこの1、2年で出てくることは想像に難くありません。

ディスカッションは8つのテーマを元に展開
《北島友和》

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北島友和

北島友和

大学院修了後、約4年の編集プロダクション勤務を経て、2006年にイード入社。およそ10年間、レスポンス・RBB TODAY等の編集マネジメントやサービス企画を担当。その後2016年にマーケティングコンサルティング会社に転じ、メディア運営の知見を生かした事業会社のメディア戦略やグロース支援にプロマネとして携わるほか、消費財メーカーの新規事業・商品企画・コミュニケーション戦略立案等の支援に従事している。

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