【書評】競合に打ち勝ち、LEAP(跳躍)するために経営リーダーがなすべき決断とは・・・『LEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則』

本書のタイトルである「LEAP(リープ)」とは、「跳ぶ、跳ねる」という意味です。 「先行企業はそれまでとは異なる知識分野に跳躍して、製品の製造やサービスの提供に関して、新たな知識を活用するか、創造しなければならない。そうした努力が行われなければ、後発企業…

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【書評】競合に打ち勝ち、LEAP(跳躍)するために経営リーダーがなすべき決断とは・・・『LEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則』

本書のタイトルである「LEAP(リープ)」とは、「跳ぶ、跳ねる」という意味です。

「先行企業はそれまでとは異なる知識分野に跳躍して、製品の製造やサービスの提供に関して、新たな知識を活用するか、創造しなければならない。そうした努力が行われなければ、後発企業が必ず追い付いてくる」(224:数字はKindle版の位置番号。以下同じ)

どんなに経営が安定している企業であっても、次なる収益の柱を生む新たな事業機会の創出(リープ)に取り組んでいます。いかに革新的なモノやサービスであっても、現状に安住しているとたちまちのうちにフォロワーに市場を奪われ、競争優位は崩れ去ってしまうからです。

隆盛を誇った企業でも、市場を奪われ、衰退を余儀なくされた例は枚挙にいとまがありません。かつて日本の企業が世界を席巻したホームオーディオや家電、携帯電話、カーナビ、そして新聞・出版はどうでしょうか。いずれもリープを果たすことができないまま、ある企業は業績停滞、またある企業は撤退を強いられるなど、かつての栄光は見る影もありません。

数多くの事例からリープ成功の要素を見いだす

「どんな競争優位な状況であろうとも、その状態は永続せず、むしろ情報化の進展により優位性を維持できる期間はどんどん短くなっている」という現状のなかで、競合の追随を許さない、少なくとも先行者利益を享受できるような競争優位な状況(=リープ)は、いかにして作りだすことができるのでしょうか。メディアを例に取れば、情報プラットフォームとして強固な地位をいかにして固めるか(あるいはメディア企業としての知見を生かすことで、新たな市場や事業を創出できるか)、という課題になるでしょう。

こうした、経営にとっての本質的な課題について、過去の成功と失敗の事例から、LEAP(跳躍)が成功するための法則性を見いだそうというのが本書の狙いです。

本書において事例として取り上げられる企業は多種多様です。競争優位が覆された例としてピアノメーカーであるスタインウェイ&サンズとヤマハが、異なる形態でのリープを成功させて長年業界トップに君臨できた例として製薬会社のノバルティスやファイザー、市場開拓に成功した例としてホンダやトヨタ、顧客からのフィートバックによる新事業の創造を果たした中国のテンセント、さらにアメリカ・ニューヨークのホームレス救済事業などの取り組み事例が丹念に描かれています。

セルフカニバリゼーションへの恐れがリープを阻む

本書の事例を見るまでもなく、過去の歴史を振り返っても、リープに成功できた例は決して多くありません。むしろ、世に生み出された新規事業の多くが、失敗の憂き目を見ることもしばしばあります。ITの世界で覇権を握るGAFAとても例外ではなく、あのAppleでさえApple II以後の低迷期とそれに続く経営の混乱があり、GoogleはMotorolaやGoogle
Glassといったハードウェア事業は失敗が続き、Amazonにいたってはつい数年前に取り組んだスマートフォン事業(fire Phone)はCEOのジェフ・ベゾスすら失敗を認める黒歴史と化しています。しかし、それらの企業は過去の教訓を糧に世界で指折りのトップ企業へと昇り詰めました。では、事業の成否を分ける切所はいったいどこにあるのでしょうか。

ひと言で言えば、「新たな事業にヒト・モノ・カネをつぎ込むタイミングと規模を正しく見極められるか」がポイントになります。しかし、この見極めが難しいからこそ、リープは限られた成功例しかありません。では難しくしている要因はいったい何でしょうか。著者のハワード・ユーは、次のように分析しています。

「ごくわずかの企業しかリープできない理由は理解しやすい。それはリープすることによって、不確実で長期的な繁栄のために、確実で短期的な利益を犠牲にしなければならないからだ」(1459)

つまりは、クリステンセンの言う「イノベーションのジレンマ」です。例を挙げれば、新聞メディアが戸別宅配の事業モデルを守るためにデジタル化に出遅れたことや、国内規格でのビジネスに固執していたためにデファクトスタンダードから取り残され凋落を余儀なくされた各社の携帯電話事業などが挙げられるでしょう。セルフカニバリゼーション(共食い)の罠に陥り、衰退の道をたどった典型例と言えます。

リープを成功に導くために、経営に課される使命

著者は、このカニバリによる収益低下のリスクを引き受け、新たな道を切りひらくには経営トップの決断が不可欠だと断言します。

「「カネは関係ない。とにかく進めなさい」と言えるのは企業のトップだけだ」(1464)

80数年前のP&Gで、新たに開発した合成洗剤が既存の主力商品である石鹸(「アイボリー」)の市場を奪ってしまうのではないかという懸念に対して、当時のP&G会長が「(石鹸事業が)どうせ滅ぼされるのなら、P&Gに滅ぼされるほうがいい」(1522)と述べ、Appleのスティーブ・ジョブズが「自社製品が自社製品を食わないなら、誰かに食われる」(1531)と語った話は、セルフカニバリゼーションを恐れずに決断を下し成功に導いた象徴的なエピソードとして良く知られています。

とはいっても、闇雲にリソースを投入して新規事業を次から次へと生み出せばいいわけではありません。著者は、冷静かつ勇気ある判断力を経営トップに要求します。

「(リープを実行に移す)正しいシグナルに耳を傾けるためには、忍耐力と規律が必要だ。チャンスをつかむためには、必ずしも最初に動くのではなく、最初に正しく理解することが求められる。そのためには勇気と決断力が必要だ。リープを成功させることとは、一見矛盾するこのふたつの能力をマスターすることである」(1713)

「このままでいいのか?」「なにかを変えなくちゃ」と自問した時に読みたい経営指南書

さらに著者は、(他人任せではなく)トップ自ら陣頭指揮をとるリーダーシップの必要性も強調します。なぜなら、実務を担う中間レベルのゼネラルマネジャー層は、事業の失敗による「キャリア上のリスク」を抱えたくないため、その行動は保守的にならざるを得ないためです。

「大規模で複雑な企業の生存を脅かす最大のリスクは、内部の政治的な争いと、誰も率先して行動を起こさないことだ。だからこそ、組織のトップに立つ熱意ある人々が、必要なときには新たな方向性を示すことによって、介入していかなければならない」(3629)

そして、「(リープの)成功と失敗を分けるのは、最初から正しい道を選ぶことではなく、まだやり直せるうちに間違いから学べるかどうか」が肝要と述べ、エリック・リースの「リーン・スタートアップ」を引用して、「学習の機会を最大化し、市場の知見を集め、新技術の商品化のための資金を最小化する組織」(3642)の重要性を説きます。

「知識の力と地位の力を的確に組み合わせて用いなければ、成功はできない。企業の頂点で、こうした起業家精神とそれに伴う行動を示すことがCEOの役割として非常に重要であり、その役割は他者に委譲することはできない。これらが、企業のトップに立つ人々の主要な役目なのである」(4078)

現場への権限委譲の一方で、経営トップとしての責任を伴う自ら介入、また失敗の積み重ねを糧に新しいものを生み出す粘り強さに加えて、リソース投入のタイミングを見極める慎重さと勇気ある決断…。トップに課せられる役割のあまりの多さ・大きさについたじろいでしまいそうですが、リープは一朝一夕にならず。また最初から成功が約束されているものではありません。しかし本書はリープすることの困難さを繰り返して伝える一方で、顧客の声に応え、その期待を超えていくという経営の醍醐味を感じ取ることができる1冊でもあります。

「あなたの企業が大企業でも小企業でも、他社と同じように昔からの強みがあり、今日の組織を築いてきた重要な製品がある。顧客や地元のコミュニティ、ステークホルダーはあなたの会社を頼りにしており、イノベーションを起こしてくれると信じている。今ほど完璧な時はない。今から始めれば十分な時間がある。さあ、リープしよう」(4304)

あなたが企業トップやマネージャーであれば、今からでも遅くはありません、リープに向けた第1歩を踏み出してみてはどうでしょう。

《北島友和》

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北島友和

北島友和

大学院修了後、約4年の編集プロダクション勤務を経て、2006年にイード入社。およそ10年間、レスポンス・RBB TODAY等の編集マネジメントやサービス企画を担当。その後2016年にマーケティングコンサルティング会社に転じ、メディア運営の知見を生かした事業会社のメディア戦略やグロース支援にプロマネとして携わるほか、消費財メーカーの新規事業・商品企画・コミュニケーション戦略立案等の支援に従事している。

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