2019年は、レガシーメディアのDXが加速。メディアのビジネスモデルの急速にデジタルファーストに移行する中で、さまざまな動きが並行して始まった。
前半では①レガシーメディアのデジタルトランスフォーメーション②サブスクリプションビジネスの動向③YouTubeなど動画ファースト化、後半では④プライバシー問題とそれを起点としたCookie規制⑤ブロックチェーン実用化の動き⑦漫画村など海賊版とライツビジネス周辺⑧ヤフーとLINEなど合併・・・と2019年に起きたメディアビジネス関連ニュースを上下2回にわけて振り返ってみたい。
堀鉄彦(コンテンツジャパン代表取締役)
目次
4.プライバシー問題とそれを起点としたCookie規制
米国では、ここにきてアドテク事業者の倒産が相次いでいる。GoogleとFacebook、Amazonなどプラットフォーマーの寡占状態が続く中、ベンチャーキャピタルの投資も盛り上がりを失い、加えてCookie規制という根幹をゆるがす。ネット広告業界で、今最大の問題となっているのが、「Cookie規制」である。
Cookieはブラウザーに紐付くが個人情報とは直接は紐付かない。個人情報を直接取得せず、同一ブラウザーからのアクセスであることを、サイト側に伝える仕組みとして、行動ターゲティング広告やECサイトのログインシステムなどに使われてきた。その利用に制限がかかりそうなのだ。
発端となったのが、EUが2020年に施行する予定の「eプライバシー規則案」。米カルフォルニア州では2020年1月からCookieの取扱いに関してさらに厳しい規定がある米国カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)が施行される。いずれもサードパーティがCookieを利用する場合に、同意を得ることが必要になる条項が含まれている。
日本でも「リクナビ事件」などをきっかけに、個人情報保護法見直しの動きが始まっており、基本Cookie規制が組み込まれることになりそうだ。見直し案はすでに公表され、1月14日までパブリックコメントを受けつけている。
国内の行動ターゲティングでどうなるかは別として、世界的に見た時にサードパーティCookieの利用規制の流れが強まるのは間違いないだろう。パブリッシャーも、ポストCookie時代の収益モデルを真剣に考える時期に来ている。
顧客IDなど、パーミッションをとるための基盤を「持つパブリッシャーと持たざるパブリッシャー」の差がいろいろな局面で大きくなっていく可能性がありそうだ。
- 倒産の続く アドテク 業界。最新の犠牲者はアイビュー
- 「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱(骨子)」 の公表について
- 個人情報保護法の改正で示されたCookie規制の方向性とは? IIJが解説
- eプライバシー規則 は、パブリッシャーの「悪夢」なのか?
- 「クッキー」利用に法規制、リクナビ問題受け改正へ
- 「クッキー」情報収集、公取委規制へ スマホ位置情報も
- ポスト Cookie の時代:IDベースのユーザー同意、持て余すパブリッシャーたち
5.ブロックチェーン実用化の動き「所有から利用へ」の流れ、コンテンツビジネスでも始まる
ブロックチェーンは仮想通貨だけでなく、あらゆるものの価値保証に使える基盤。その有力な利用対象がデジタルコンテンツである。
政府も6月に発表した「知的財産計画2019」の中で、ブロックチェーン技術等を活用した権利処理・利益配分の仕組みを検討することを重点項目として掲げた。7月には「コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金(J-LOD)」の対象事業として「ブロックチェーン技術を活用したコンテンツの流通に関するシステムの開発・実証に関する間接補助事業」11件を採択した。
- 【J-LOD補助金第4弾 採択結果】ブロックチェーン技術を活用したコンテンツの流通に関するシステムの開発・実証に関する補助金の採択を決定しました
- 出版社5社と電子書店1社がブロックチェーン技術を活用した海賊版対策の実証実験を開始
- ブロックチェーンを活用した翻訳プラットフォーム「Tokyo Honyaku Quest」のパイロット版を公開
対象事業以外にもさまざまなプロジェクトが進行中だ。たとえばデジタルコンテンツで難しかった「転売」を実証する端緒となりそうな動きも始まった。ゲーム会社のアソビモは、11月から電子書籍の2次流通マーケット「DiSEL」をテストローンチ。ゲームアイテムの2次流通に加え、電子書籍の2次流通も始めた。
DiSELにおいて利用者は、購入した電子書籍の転売が可能。アソビモはこうしたデジタルコンテンツの2次流通をブロックチェーン技術によって実現している。
ブロックチェーンでは、電子書籍取次最大手のメディアドゥもプラットフォームの開発を表明した。すでに、概念実証(POC)は終え、2020年度第三四半期にも本番環境での運用を開始する予定だ。
中国ではすでにブロックチェーンを使った著作権登録が始まっている模様。ブロックチェーンは権利基盤として、価値移転基盤としてスタートし、近い将来リアルのプロジェクトとの融合も進むはずだ。
博報堂やソニー、エイベックスなどさまざまなビッグプレーヤーもからむなかで、ブロックチェーンならではのサービスがメディア産業においても続々動き出すこととなりそうだ。
8.「利活用の鍵」ライツファーストのビジネスモデルが生むビジネスチャンス
ブロックチェーンなど「価値保証基盤」が確立する中、ますます重要となってくるのが、メディア・コンテンツビジネスにおける「ライツファースト」の発想だ。
出版業界では海賊版対策が喫緊のテーマとなり、漫画村閉鎖後、電子コミックの売り上げが急増するなどの効果も見られた。
出版ビジネス周辺の動きではあるが、バンダイナムコは集英社と中国合弁を設立し、ガンダムに関するライツを広く持つ創通をTOBで買収すると発表した。これなども、ライツファースト時代を象徴する動きだろう。
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デジタル化が進むと海外市場と国内市場がシームレスになり、流通コントロールが難しくなる。収益確保のために、まずは権利を守るためのプラットフォームや組織確立が重要となる。現場の当事者にあらゆる手段を遂行できるようにする体制確立が、どの企業にも必要となっているのだ。
8.ヤフーとLINEの合併──日本最強「スーパーアプリ」登場の影響は?
そして、デジタルメディア周辺での2019年最大のニュースと言えるのがヤフーとLINEの合併計画だろう。
12月23日には、それぞれの親会社であるソフトバンクとNAVERが最終合意の契約を締結した。独禁法の審査などを経て、来年10月までに統合手続きを完了させる予定だ。
PayPay、LINE Payという決済インフラ/金融インフラ、さらにはコミュニティインフラや通信インフラを、日本人の過半が参加する形で包摂する。それぞれの「スーパーアプリ」構想は統合され、これまでにないプラットフォームが登場することはまちがいない。そして、それはどんな影響をメディアビジネスにあたえるのだろうか。