2019年は、レガシーメディアのDXが加速。メディアのビジネスモデルの急速にデジタルファーストに移行する中で、さまざまな動きが並行して始まった。
前半では①レガシーメディアのデジタルトランスフォーメーション②サブスクリプションビジネスの動向③YouTubeなど動画ファースト化、後半では④プライバシー問題とそれを起点としたCookie規制⑤ブロックチェーン実用化の動き⑦漫画村など海賊版とライツビジネス周辺⑧ヤフーとLINEなど合併・・・と2019年に起きたメディアビジネス関連ニュースを上下2回にわけて振り返ってみたい。
堀鉄彦(コンテンツジャパン代表取締役)

1.レガシーメディアのDX加速

新聞・出版などレガシーメディアの大手企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速した。

まず注目したいのは、大手出版社のデジタル戦略が実を結び、PVやUUなどの数字を一気に伸ばしたことだ。大手出版社では、たとえば集英社の「HAPPY PLUS」は9月に月間1000万UUを突破。小学館のWebメディアも7月に月間PVが3億を超えた。背景には、各社ともデジタルメディア運用向けに専門の人材を獲得するなど、いよいよ本気を出してきたことがある。

同様に“デジタル・ライツファースト事業”の売り上げの伸びも顕著。集英社は電子書籍や版権などの売り上げが急伸し、2019年8月期決算では最終利益が98億円超になった。講談社は2018年11月期決算で電子などの事業収入の売り上げが400億円を超え、総売上の3分の1以上に到達。小学館も2019年2月期決算の「デジタル収入」が前期比16.0%増の205億3100万円に達し、「版権収入等」は同9.6%増の114億6400万円。合計金額は320億円近くになった。コミック主力の出版社では、デジタルや版権が、紙媒体以外の売り上げを抜く日も近いだろう。

新聞業界では、先行する日本経済新聞などに続き、毎日新聞もデジタルファースト型の編集体制へ移行した。コンサルティング会社のフューチャーアーキテクトと開発したコンテンツ・マネジメントシステム(CMS)の導入も同時に行い、記事の入稿から配信までをデジタルファーストで一気通貫管理する体制を整えてた。

新聞業界ではここ数年、デジタルファースト化に向けた各社の編集体制の再構築が急速に進んでいる。ただし、CMSなど基幹システムのレベルの対応本格化はほとんどの場合これから。2020年は、各社のシステム更新が相次ぐ年でもあり、毎日新聞などの先行事例を横目で見ながら、デジタルファースト化の取り組みが第2ステージを迎える年となりそうだ。

メディアビジネスDXの支援企業が相次いで上場

各社のDX投資増大やビジネスモデルの変革を象徴するように、INCLUSIVEやLink-Uなど新聞・出版各社のレガシーメディアのDXを支えるネット企業が相次いで上場した。

レガシーメディアのDX加速を象徴するように電子コミックアプリのand factoryは、過去3年で682.00%の高い成長率を達成。急成長企業として、「デロイト 2019年 アジア太平洋地域テクノロジー Fast 500」に選ばれ、「2019年 日本テクノロジー Fast 50」でも3位にランクインしている。同社は小学館や集英社などの出版社と相次ぎ資本提携を結んでおり、パートナーとしての地位も確立した感じだ。

2.サブスクリプションプラットフォーム採用の動き活発

2019年初め、ニュースメディアの関係者が最も期待した収入源が、サブスクリプションだった。

ロイター研究所が29カ国200人のメディア企業幹部を対象に行い、年初に発表した調査結果では、回答者の半数以上(52%)がサブスクリプション収入に最も期待すると答えている。

多くの新聞関係者を驚かせたのが、米New York Times(NYT)が2月に発表した「デジタル有料購読者1000万人計画」だ。同社はこの目標を2025年までに達成する予定だが、すでに12月の段階で定期購読者は500万人近くに到達。米大統領選を控えて契約者数の増加が予想されるため、計画は前倒しで達成されるとの観測もあるほど順調だ。

同社は英語メディアの強みを生かして、海外購読者も順調に増加させている。また、クロスワードパズルやレシピ配信など、ニュース以外のサブスクリプションメニューも充実させている。クロスセル/アップセルの戦略も巧みで、音楽定額配信サービスSpotifyとのクロスセルなど、契約メニューの多彩さでも他を引き離す存在となっている。

デジタル定期購読者の数では、英Financial Times(FT)も4月1日までに100万人を突破した。

FTの展開で興味深いのは、同社が蓄積したサブスクリプションビジネスの知見を生かす形のコンサルティングビジネスも立ちあげていること。Digidayによると、現時点でクライアントのほとんどがメディア企業というが、パブリッシングビジネス以外にもそのノウハウを提供して行く方針。サブスクノウハウを核に、従来型新聞社の枠を完全に超えるビジネスモデル確立を目指しているようだ。

もちろん、すべてのサブスク展開がうまく行っているわけではない。実際、ネットユーザーのサブスク契約における優先順位において、ニュースメディアがNetflixなど動画サービスの後塵を拝しているという状態は変わっていない。メディア業界に限ったことではないが、サブスク強化=サービス強化/メニュー強化でもある。NYTimesが「サブスク拡大のために」映画やテレビ番組のコンテンツ製作に取り組むよう、自社ビジネスの枠を超えた再編からは逃れられない。

日本のメディアにおいても、サブスクリプションビジネス拡大の動きは急だ。そんな中、テモナビープラッツなどの和製サブスクプラットフォームに加えて、海外からもZuoraPianoなどが相次ぎ日本に進出。ダイヤモンド社がZuoraの採用を発表したよう、これらのプラットフォームを使い始める日本メディアも徐々に増えつつある。

専門プラットフォームの利用で、より身近で使いやすくなったサブスクモデルは、メディアの周辺にも広がり始めた。たとえば電子チラシサービスの「Shufoo!」も2020年3月からサブスクモデルを採用する予定だ。販売・課金だけでなく、分野によってはメディアビジネスの全領域がサブスクプラットフォームを基盤に運営されるという時代がきてもおかしくはないほどの勢いで広がっているといっていいだろう。

メディアビジネスのサブスク化は、メディアビジネスの「会員ビジネス化」「サービスビジネス化」を促す。ABC公査部数を一気に4割も伸ばし、女性誌トップの座についたハルメクのように、メディアを中心にしたコングロマリットビジネスを志向する企業も今後は増えてくるだろう。

3.動画市場が一気に拡大。YouTubeファーストビジネス続々登場

2019年は、さまざまな分野で「YouTube起点」のビジネスが注目された年でもあった。音楽や映画の市場ではすでにYouTube起点のプロモーションが常識になっているが、それが出版など他のコンテンツに広がり、漫画動画など“YouTubeオリジナルの出版コンテンツ”の人気にも火がついた。

YouTubeで配信する漫画動画「フェルミ研究所」チャンネルの登録者数は12月25日時点で182万人に達している。4月には「米津玄師チャンネル」を上回るほどの人気を博した。フェルミ研究所に追随する形で、YouTube上には次々と「漫画動画チャンネル」が生まれ、視聴回数1000万超の人気コンテンツも輩出されている。

YouTubeファーストの波は今後コンテンツの違いを問わず広がっていきそうだ。東京広告協会が12月に発表した調査結果によると「大学生の4割がYouTubeで勉強することがある」ともいう。

あらゆるコンテンツ分野において、動画ファースト化/YouTubeファースト化が加速した。テキストと静止画、動画、音声など分野ごとに存在した垣根は、これにより着実に消失の方向へむかっている。

動画コンテンツ視聴者の増加を背景に、ネット動画広告の市場が急伸している。サイバーエージェントによると2019年の動画広告市場は2,592億円、昨年比141%の見通し。2020年に3,289億円、2023年には5,065億円に達する見込みという。2020年も引き続き注目のマーケットであることは間違いないだろう。

後編はこちら2019年のメディアトレンド(下)・・・浮上するCookie規制、メディアビジネスでのブロックチェーン実用化段階へ