ニュースレターを軸にパッケージを強化していく、Quartz Japan福田氏・・・メディア業界2021年の展望(13)

新型コロナウイルスによって平時と全く異なる一年となった2020年。みなさんにとってはいかがだったでしょうか? そして2021年に向けてどのような事を取り組んでいくのでしょうか? 今年もMedia Innovationで大変お世話になった皆様に今年の振り返りと来年への展望をお聞き…

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ニュースレターを軸にパッケージを強化していく、Quartz Japan福田氏・・・メディア業界2021年の展望(13)
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新型コロナウイルスによって平時と全く異なる一年となった2020年。みなさんにとってはいかがだったでしょうか? そして2021年に向けてどのような事を取り組んでいくのでしょうか? 今年もMedia Innovationで大変お世話になった皆様に今年の振り返りと来年への展望をお聞きました。「メディア業界2021年の展望」全ての記事を読む。

ニュースレターで展開されているユーザベースのQuartz Japan。同社が2年前に買収したQuartzの日本版でしたが、同社はQuartzを創業者らに譲渡すると発表。ただQuartz Japanは引き続きユーザベースによって展開されるということです。2015年にNewsPicksにインターンとして参加し、2018年に新卒入社。現在はQuartz Japanのプロダクトマネージャーとして携わる福田滉平氏に今年の振り返りと2021年の展望を聞きました。

2020年はメディア業界にとってどのような年だったでしょうか?

2020年は、「信頼できる情報」への要求がかつてないほど高まりました。新型コロナウイルスの世界的流行やアメリカ大統領選挙などを通じて、氾濫する情報をいかに交通整理し適切な形で社会に届けるかという役割が、あらゆるメディアに求められたように思います。そのなかでThe New York Timesによる、紙面デジタルが連動したビジュアル表現や、Financial Timesのチャート表現が注目されるなど、一次情報の流通を超えて、伝える情報に意味をもたせて社会をファシリテートできるメディアは特に脚光を浴びました。Quartz英語版でも、PCR検査の偽陽性の可能性について、インタラクティブなビジュアルを通じて解説した記事、「Coronavirus antibody tests aren’t as accurate as they seem」は、今年、最も広く読まれた記事の1つです。これまで、多様な表現を可能にするプロダクトは、実験的な「挑戦」として評価されることが多かったなか、今年はこうした表現が読者に届ける上で不可欠なものとして機能した初めての年だったと思います。

また、世界中が同じ出来事を同じ時間に体験するという、稀な年でもありました。BLM運動からステイホーム中の過ごし方まで、世界のアジェンダが日本のアジェンダになる例も数多く、社会の変化と身の回りの変化が世界で一様に広がりました。世界が物理的に閉ざされている一方で、世界で今起こっていることへの関心が非常に高まったと感じています。

パンデミックによる経済的打撃により、Quartzを含め、今年は厳しい1年を過ごしたメディアも数多くありました。特に安定した収入源となるビジネスモデルを完成しきれていないメディアにとって、広告収入の減少は大きな打撃となりました。新型コロナウイルスについての報道をリードしたメディアを見てみると、前述の2メディアなど、すでにサブスクリプションモデルを確立していたメディアが際立っていた印象です。これは、安定して情報を届けていくための体力の差が如実に出た結果だと思います。

これからのメディアに求められること、直面する課題はどういったことでしょうか?

財政面での安定性は、これからも大きな課題になっていくと思います。いかにして、安定した収入源を獲得するかという点で、世界でサブスクリプションモデルへの取り組みが本格化するなか、起きたのが今年のパンデミックでした。メディアにおけるサステイナブルな収入源への暫定最適解はサブスクリプションモデルとなっていますが、コンサルティングなど広告にとどまらないB2B領域の展開や高付加価値なプロダクトやイベントによるアップセル、また他メディアとの連携によるクロスセルなど、あらゆる可能性を模索しながらの、ビジネスモデルのアップデートとポートフォリオ・マネジメントは、引き続き各メディアが取り組むべき課題であると思います。

また、MediumやNote、Substackなどを利用した個人メディアが多く台頭する中、メディア名を冠した組織としてのメディアが存在する意義も、改めて求められてくるものの1つになると思います。メディア名における知名度が、求められる情報とイコールでなくなりつつある今、読者との信頼関係を、プロダクトを通じて、いかにして築くことができるかは、すべてのメディアが取り組むべき課題です。そして、その信頼関係こそ、サブスクリプションを裏付ける、メディアそのものの価値であり、個人ではできない、組織だからこそ可能なメディア運営と展開を見つめていく必要があると考えています。

2021年に取り組みたいと考えていることはどういったことでしょうか?

Quartz Japanでは、サブスクリプション型のニュースレターで、主に海外のニュースを読者にお届けしています。日本において、海外ニュースはメジャーな領域では決してありません。しかし、2019年の11月に開始したQuartz Japanですが、2020年の初頭に日本でも新型コロナウイルスによる外出自粛が本格化した際には、多くの読者の方に、新たにQuartz Japanを購読していただきました。今年、創刊から1周年を迎えることができたなか、世界で起こっていることを日本にお伝えするという役割に、確かな手応えを感じています。

このパンデミックの時期に、昨年から開始したサブスクリプションの購読者数が大きく成長したThe Atlanticのマイケル・フィネガン氏は、9月の発表文で「読者がサブスクライバーになる理由はたった一つ、優れたプロダクトのためである」と語っています。これは、Quartz Japanを1年間運営してきたなかでも、特に共感する部分です。Quartz Japanの強みは、Quartzの持つ世界中のニュースルームと直接連携した体制でお届けする、他にはないコンテンツと、ニュースレターで毎日届くという体験による、プロダクトのパッケージ感にあると考えています。2021年に向けては、米国に拠点を持つニュースルームとのさらなる連携に加えて、このパッケージの強化を進めていきます。

Quartzは、「ポストナショナル」な読者のためのメディアを標榜しています。ポストナショナルな読者とは、自分から遠く離れた世界に好奇心を持ち、ナショナリズム的なイデオロギーを否定し、あらゆる文化がグローバル経済にとって重要であると信じている人たちです。こうした読者の好奇心を満たすべく、まだ日本では身近でない世界中の変化の兆しをグローバルに直通したニュースルームからいち早くお届けしてきます。

サブスクリプション型のニュースレターという形は、アメリカの有料メルマガモデルの台頭をヒントに、Quartzが創刊時から続けてきたニュースレタープロダクト、「emails」を掛け合わせて採用したモデルでした。一方で、今年すでに、過去に配信したニュースレターのアーカイブを一覧できるページを追加し、ストックの価値も提供できるプロダクトにアップデートしたほか、コンテンツ面でも、無料のポッドキャストシリーズや会員向けのウェビナーシリーズを毎月開催したりと、ニュースレターだけにとどまらない展開を進めています。

来年もニュースレターを軸にしながら、さまざまなアップデートを計画し、世界で起こっていることを知るためのパッケージングをより強化するとともに、サブスクリプションモデルがぶち当たる壁である「読者の広がりづらさ」を乗り越えるためのアプローチを進めていきます。既存会員の方だけに閉じてしまっている各コンテンツを有機的なものへと変えるべく、プロダクト面でのさまざまなアップデートを実装して行きたいと考えています。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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