11月10日、テック系ニュースメディアのThe Vergeは、報道における「情報源の匿名化(On Background)」への反対を表明し、倫理声明のポリシー変更を発表しました。これにより、大企業がThe Vergeに対して強制してきた情報源の匿名化は、余程のことがない限り受け入れられなくなります。同様に「オフレコ」に関しても同意なくしての成立はしないことも明言されています。
報道における情報源の匿名化とは
メディアが報道を行う際、報道内容における情報源の取り扱いにはいくつか種類があります。「オン・ザ・レコード」では、報道中の情報について引用元となる情報源がはっきり明記され、メディアにとって最も期待されている形式です。反対の「オフ・ザ・レコード(オフレコ)」では、情報源でなく情報そのものの引用が許可されず、表に出てくることはありません。上記のどちらでもない形式に「情報源の匿名化(On Background)」があり、これは情報の引用は可能とするものの、その出所を匿名化するよう要求されます。
The Vergeはこの「情報源の匿名化」を非常に大きな問題として見ています。その理由として、情報を編集する記者が明確な引用付けをせずに報道を行わないといけないこと、その結果として読者がメディアに不信感を抱く可能性があること、を挙げています。情報を提供する側はその報道責任が問われることはなく、メディア側に責任転嫁されてしまうことが問題ということです。
メディアへ強制される匿名化
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発表の中で、The Vergeは現実問題として「情報源の匿名化」が強制されていることを訴えています。具体的には、大手ハイテク企業による強制が顕著であると述べられています。記者へ情報を提供するが、その情報源の秘匿に合意させることが当たり前となっており、それが取材条件にもなっているようです。さらに、匿名化だけにとどまらず、情報の言い換えが要求されることもあると言います。
同社は発表の中で、「情報源の匿名化」を強いられた事例について、企業名は明かさず公表しています。例えば次のような例があったようです。
- フードデリバリー企業は鳥の手羽先が人気であることを「匿名化」したうえで話すことを要求した
- 複数の大手ハイテク企業は自社の広報担当者による発言を、その人物が著名なスポークスマンだったとしても「事情をよく知る関係筋」として公開することを要求した
- ある大手テック企業は新しいオペレーティングシステムのアップグレード要件について「匿名化」して公表することを要求した。さらにその要件は「匿名化」されたうえで何度も変更された
- ある大手配送企業のスポークスマンが「いつ黒字化するのか?」という質問をされたとき、発言を匿名化したうえで言い換えるよう要求した
The Vergeによるポリシー変更
こうした背景から、The Vergeは報道における情報源のポリシー変更を発表。新たなポリシーのもとでは、同社の記者や編集者に情報提供するときはいつでも基本的に「オンザレコード」となります。
「情報源の匿名化」を要求することは可能ですが、同社が適切な理由を読者に説明できる場合のみ、と条件付けがなされることとなりました。一方的な匿名化の要求は不可能となり、余程のことがなければ要求が通ることはないと言えるでしょう。
加えて、「オフザレコード(オフレコ)」についても、同意なくして受け入れられないことがポリシーに明記されています。特に、公的な場で発言する人物との会話については、特別な理由がなければオフレコに応えることはないと言います。
ポリシー変更は発表時点から有効になりました。他メディアがどのような動きをとるか注視したいとこ