クックパッド株式会社が、上場以来初の営業赤字となりました。2021年12月期の売上高に当たる売上収益は前期比9.8%減の100億400万円、26億3,200万円の営業損失(前年同期は1億5,100万円の営業利益)を計上しました。クックパッドは2019年12月期に9億6,800万円の純損失を計上し、上場以来初の赤字に陥りました。しかし、2021年12月期は本業での稼ぎである営業利益が出なかったことを示しており、事態は一層深刻です。
しかも2021年12月期は連結子会社CookpadTV株式会社の減損損失4億2,300万円を計上し、純損失は23億8,000万円となりました。2019年12月期と比較して損失額を大幅に膨らませています。
■クックパッド業績推移(単位:百万円)


営業赤字に陥った要因は、主力の有料ユーザーによる収益が前期比5.2%減、広告収益が同26.2%減となったことで、販管費を吸収しきれなくなったことです。

クックパッドは2014年1月にアメリカのレシピサービス運営会社ALL THE COOKS, LLCをアメリカの現地法人Cookpad Inc.を通じて孫会社化するなど、早い段階で海外展開をしていました。すでにロシア、レバノン、スペイン、インドネシア、イギリスに進出しています。
■クックパッド国内および海外子会社

海外事業の売上高は事業別の「その他」に含まれます。2021年12月期は10億円を下回っており、収益性は芳しくありません。これまでは本業の国内事業で利益を出すことができていましたが、カバーしきれなくなりました。クックパッドは事業や人員の大規模な整理が必要となる可能性があります。
レシピ需要が増加する中での有料ユーザーの離反
クックパッドの苦境が際立つのは、新型コロナウイルスの巣ごもりの影響によってレシピ需要は高まる中で、有料ユーザー数を落としていることです。下のグラフはGoogleトレンドの2004年1月から2022年2月までの検索動向です。外出制限が厳しくなった2020年5月をピーク(100)として、2021年2月が97、2021年5月は99と高い数値を示しています。
■Googleトレンドによる「レシピ」の検索動向

この期間はレシピ特需とも言える状況でしたが、クックパッドの有料ユーザー数は大幅に減少しています。2021年は8.8%減の183万2,000人となりました。
■クックパッド有料ユーザー数推移(単位:万人)

クックパッドの強力なライバルとなる企業がレシピ動画サービスkurashiruを運営するdely株式会社です。delyは2018年7月にヤフー株式会社(現:Zホールディングス株式会社)の株式保有割合が45.6%となって連結子会社化されています。実はこのdelyが絶好調です。
創立以来先行投資の赤字が続いていましたが、2021年3月期は19億4,800万円の純利益を出しました。
■dely純利益の推移(単位:百万円)

delyは2020年6月にInstagramのフォロワー数が300万を突破したと同時に、料理レシピ動画サービスの月間ユニークユーザー数、日本国内料理動画レシピアプリのダウンロード数が国内トップになったと発表しています。
国内のレシピ需要は増加し、競合が好調な中で業績及び有料ユーザー数を落としたクックパッドは、国内のシェアを失ったと考えるのが自然でしょう。クックパッドがシェアを失った要因は大きく2つあると考えられます。1つは「SEO×量」に頼るビジネスモデルに限界ができていること。もう1つはレシピ動画への参入が遅かったことです。
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クックパッドとkurashiruのビジネスモデルは、テキストか動画かという表層の違いではありません。クックパッドの主な流入チャネルは自然検索であり、一般ユーザー参加型で自由にレシピが公開できます。一方、kurashiruの流入チャネルは広告であり、プロ視点の質にこだわったレシピがセールスポイントです。
従って、クックパッドのレシピは玉石混合ながら膨大なレシピ数が担保されています。kurashiruはプロ視点の厳選されたレシピが並んでいます。
クックパッドの創業は1997年10月です。この時期は株式会社ぐるなびがサイトを設立したことからも分かる通り、世の中に散らばる情報を集約するポータルサイトの黎明期で、質よりも量が重視される時代でした。量を集約したサイトはGoogleの高評価が得られ、上位表示できる時代でした。また、当時はSNSのユーザーが限られていたため、情報源の多くはGoogleやYahoo!の検索に頼っていました。クックパッドは先行者利益が得られていたと言えます。しかも、ユーザー参加型のモデルを採用していたため、半ば手放しでも量の面でのコンテンツ拡充が図れたのです。
2016年にサービスを開始したkurashiruは、20~40歳の女性にターゲットを絞り、SNSを中心に広告を展開してユーザーを獲得しました。delyはコンテンツの質を高め、獲得したユーザーをファン化することに注力したのです。大量のユーザーをサイトに流し込んで一定の割合を有料ユーザー化していたクックパッドと、ファン化を狙ったdelyの戦略の違いが巣ごもり特需で明暗を分けたと言えます。
クックパッドはkurashiruのモデルを踏襲したCookpadTVを2017年12月に本格化させますが、kurashiruは2017年6月時点で有料会員を193.8万人抱えていました。今度はkurashiruが先行者利益を得る結果となったのです。
従業員1人当たりの売上高は40%減少
クックパッドがレシピ動画に参入するのが遅かった理由は明確です。2016年は海外展開に力を入れていたためです。クックパッドは2016年12月に英国のCookpad International Ltd.を海外事業のすべてを統括する第二本社を位置づけ、海外子会社の再編を実施しています。この時期、国内のユーザーが6,300万人、海外のユーザーが3,500万人で、海外展開に期待が持てました。しかしそれが収益化できなかったのは、見てきた通りです。
クックパッドが取るべき道は事業と人員の大規模な整理に尽きると考えられます。海外の子会社が赤字要因になっているのは明らかで、早々に売却または譲渡すべきでしょう。
人員整理も必要になりそうです。クックパッド全体の従業員数は2020年12月末時点で547人。売上高は段階的に減少している一方で、人員は増加しています。


当然、1人当たりの生産性は落ちます。2017年12月期は1人当たり3,400万円稼いでいましたが、2020年12月は2,000万円まで41.2%減少しています。
しかし、クックパッドがすぐに事業の整理へと動く可能性は薄そうです。理由は2021年12月末時点で自己資本比率が88.1%であり、極めて財務状況が安定しているためです。債務超過目前であれば事業再編への意識も高まりますが、自己資本にここまで厚みがあれば話は別です。
この状況とよく似た企業があります。ぐるなびです。
ぐるなびは2022年3月期第3四半期で34億8,300万円の営業損失(前年同期は62億3,500万円の営業損失)を計上しています。飲食店からの有料広告は回復していませんが、大規模なリストラには動いていません。ぐるなびも2021年12月末時点で自己資本比率が77.5%と高水準を維持しています。
両社ともに過去の高利益率ビジネスの恩恵で事業を継続する結果となりました。舵取りの難しい局面に立たされて