【メディア企業徹底考察 #61】moto社ののれんを全額減損したログリー、業績回復への道は未だ遠く

広告配信事業のログリー株式会社の業績が冴えません。2022年3月期の売上高は前期比32.3%減の26億8,100万円、6億7,700万円の純損失(前年同期は2,500万円の純損失)を計上しました。この期にWebメディア「転職アンテナ」を運営するmoto株式会社ののれんを全額減損。期首に1億1,300万円の純利益を予想していましたが、一転して赤字となりました。

■ログリーの業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成
※純利益の目盛りは右軸

のれんを潰したことで収益性が高まることに期待できますが、営業利益率は回復しきっていません。ログリーは本業の広告事業でも苦戦している可能性が高く、売上高、利益率ともに低迷する冬の時代を迎えそうです。現状を打破するためには、事業拡大に向けた大規模な投資が必要になりますが、身の丈に合わないM&Aを実行して失敗したログリーはその合意を取り付けるのにも苦労しそうです。

moto社の株式を担保として8億5,000万円を借り入れ

ログリーがmotoの全株を取得したのは2021年4月。取得対価は7億円(取得時に3,500万円のM&Aアドバイザリーフィーが別途発生)でした。ログリーは2022年3月期ののれんの減損損失額が5億9,600万円であると公表しています。

※「第16回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」より

また、この期に6,500万円ののれんの償却を行っています。のれんの償却額のほとんどがmotoのものだと仮定すると、ログリーは純資産が3,700万円の会社を7億円で買収したことになります。motoが不動産などの付加価値が高い固定資産を保有している可能性は低く、相当な高値でつかんでいることは明らかです。しかもログリーは株式交換ではなく、現金による買収を選びました。

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ログリーはmotoを買収する際に金融機関3行から8億5,000万円(このうち1億円はコミットメントライン)の借り入れをしました。担保はmoto社の全株。moto株の評価が著しく低下したため、ログリーは借入金の早期返済または別の担保を銀行に差し出す必要があると考えられます。

※「有価証券報告書」より

motoの買収、のれんの償却及びのれんの全額減損、借入金の早期返済の可能性が浮上するなど、M&Aの負の側面を見せつける結果となりました。

一方で、悪材料を出し尽くしたと見ることもできます。

のれんの償却がなくなってもわずか2%の営業利益

のれんとは純資産と買収額の差のことです。ログリーのように日本の会計基準を採用している場合、最長20年でのれんを償却します。ログリーは2022年3月期に6,500万円ののれんの償却を行っていたことから、10年ほどで償却する計画を立てていたのでしょう。

ログリーがmotoを買収する前の2020年3月期の営業利益は6,400万円。ここに償却費がのると赤字に陥ります。motoがそれをカバーする利益を出せれば良いですが、motoに限らずそこまで上手くいかないのが現実です。大型買収をした多くの企業が、買収後の重要な経営指標として営業利益から減価償却費を控除するEBITDAを採用するのはそのためです。すなわち、のれんの償却費は本業の稼ぎである営業利益を圧迫する要因になるのです。

ログリーはmotoののれんを全額減損したため、今後はmotoののれんの償却費は発生しません。つまり営業利益が出やすくなったのです。

しかし、2023年3月期の営業利益率は2.0%を予想しています。2022年3月期の0.9%から1.1ポイント上昇しているものの、M&A前の4期連続の営業利益率5.5%には遠く及びません。

決算短信より筆者作成

ログリーは本業の業績が回復しきれない根本的な問題を抱えています。

営業コストが嵩んで利益を圧迫か?

その問題点をわかりやすく示したものが下のグラフです。2022年3月期にCTRが低下しているのがわかります。

ログリーは広告配信事業を主軸とする会社。顧客(広告主や広告代理店)の成果の有効な指標となるのがクリック数(または率)です。ログリーは広告を表示させる回数を示すインプレッション数が2022年3月期から著しく高まっているものの、CTRが下がっています。CTRとはクリック率のことで、クリック数をインプレッション数で除した数値です。

ログリーは広告枠を買って、広告主や広告代理店に販売しています。CTRが低いということは、ログリーが広告枠を買って顧客に販売しているものの、顧客が求めるターゲット(消費者)に届いていないことになります。

広告主からすると、欲しいターゲットにクリックされる効率的な広告枠が欲しいと考えています。

2022年3月期の原価率は75.5%。2018年3月期から2020年3月期までの原価率の平均値76.5%と大きく変化していません。ポイントとなるのが販管費。2022年3月期の販管費率は23.6%。 2018年3月期から2020年3月期までの 販管費率の平均17.6%から6ポイント増加しています。

ログリーは2022年3月期において人件費率が増加していると発表しています。

これは予想になりますが、ログリーは営業コストが上がっている可能性があります。広告主からの支持が得られなければ新規顧客を開拓しなければなりません。そのためには、営業関連の人員強化が必要です。CTRが高ければ必然的に顧客との契約期間が長くなります。逆に低ければ契約期間が短くなり、営業コストが嵩みます。

次なる成長に向けた大型の投資としてM&Aが視野に入りますが、moto買収の失敗で株主からの反感を買うことも予想されます。当面は粛々と主力事業である広告のCTRを上げることに努力を傾ける必要があるのかもしれ

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