ニュースアプリ「グノシー」を提供する株式会社Gunosyが設立から10周年を迎えました。スマートフォン時代の情報の取得方法としてニュースアプリは完全に定着した感がありますが、コンテンツの氾濫、AIの進化など課題と機会も残されています。
また、メディア企業は景気変動やテクノロジーの進化によって大きな影響を受けます。設立から10年を迎え、今後も長く企業として継続し、成長していくためにGunosyは何を考えているのか。代表取締役会長 グループ最高経営責任者の木村新司氏にお話を伺いました。
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株式会社Gunosy 代表取締役会長 グループ最高経営責任者
東京大学理学部物理学科卒業。株式会社ドリームインキュベータ入社後、2007年3月に株式会社アトランティス(現Glossom株式会社)を創業し、2011年にグリー株式会社に売却。2013年に当社代表取締役に就任、2014年退任。2016年6月にはAnyPay株式会社を設立し、2018年5月より同社取締役。2017年8月より当社取締役、2020年6月より代表取締役会長 グループ最高経営責任者に就任。
目次
テクノロジーの進歩と共に成長してきた10年
―――Gunosyが創業10周年を迎えました。今の率直な気持ちをお聞かせください。
私自身が設立から携わり、組織を離れてからも株主として関わっていましたから、10年続いたことは感慨深いです。規模としてはもう少し成長しておきたかったですが、2年前にGunosyに戻った時からいろいろな施策を講じてきたので、これからそれが花開き、さらなる成長が期待できると思います。
当社はスマホにニュースアプリが登場する前から事業を手掛けていましたが、今や電車の中でも新聞を紙で読んでいる人はほとんどいません。ニュースアプリを認知させ、情報を行き渡らせてきたという面では一定の役割を果たすことができたと感じています。
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―――貴社がここまで成長を遂げられた要因は何だと感じられますか。
創業当初から「数字は神より正しい」という行動指針に沿って数を分析し、データに従ってアルゴリズムでコンテンツを組み替え、プロダクト開発や経営に落とし込んできました。データを駆使した事業運営は、国内のどの企業よりも早く実行してきたと思います。
また、テクノロジーの進歩の後押しを受けたとも思います。10年ほど前からユーザー単位でのコンテンツ配信や広告のコントロールが可能になり、クラウドの登場でサーバーやメモリも簡単に増やせるようになるなど、様々な事が実現できるようになりました。事業が時代に合っていたのだと思います。
しかし今後はアルゴリズムだけでなく、プロダクトもブランドも「変わらないもの」を作っていく必要があると感じています。そのために、2021年に従来の行動指針「Gunosy Way」を「Gunosy Pride」へアップデートし定量的な部分だけでなく、定性的な部分も重要なのだという方向に変化しようとしています。ニュースアプリでいえば、よりコンテンツを重視するということです。
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―――その転換に至った背景をお聞かせください。
コンピューターのリソースは今や誰もが手に入れられるようになり、ある程度のアルゴリズムで最適化を行う会社も増え、差別化は難しくなりました。AIの能力も、言葉を絵でアウトプットしたり、精度の高い言葉のやり取りが可能になるなど今まで人が担っていたコンテンツ生成ができるまでに発達しています。今後はAIによって大量のコンテンツが生み出され、さらなる情報爆発が起こるでしょう。そうした時代のメディアには、情報最適化と同時に情報をどうまとめブランディングしていくかという流れが現れ、よりクオリティが求められるようになるはずです。
今は検索でも多数のサイトが出てきて本当に知りたいことへのアクセスが難しかったり、人の感情が入りすぎていたりする情報も多くありますが、AIはそうした「雑音」を除去し、綺麗に整えた状態で答えを出してくれます。今後はそうした雑音の少ないメディアが好かれていくのではないかと感じます。
―――プロダクトもキュレーション機能が強化されたものに変化していくということですね。メディア企業の舵取りにおいて、木村さんがもっとも重視するポイントは何でしょうか。
一番重要なのはコンテンツの信頼性、そして事業に携わるメンバー全員がその大切さを認識し、企業文化とすることです。いくらAIが情報を最適化しコンテンツを作れるようになろうと、ユーザーが情報を「信頼できない」と判断した瞬間にメディアの価値は失墜します。信頼性を担保するために当社ではトップニュースを手で運用することに決めているのですが、そうすると社員も信頼性の大切さを認識できますし、それを念頭に置いたコミュニケーションやディスカッションが生まれます。自分たちの手でコンテンツを作りユーザーの反応を受け止めることを継続しなければ、信頼性を重要視する企業文化は醸成できないと考えています。