【解説】メディアが考えるべき7つのCMSトレンド

Media Innovationの2022年8月企画は「メディアを支える大黒柱、進化するCMSについて考える」と題して、メディアを運営するためのプラットフォームであるCMSについて取り上げます。8月31日にはオンラインイベントも開催。ぜひご参加ください。

世の中には様々なCMSが存在します。パブリッシャー向けに特化したものでも多彩な選択肢があるというのは前回お伝えした通り。そしてCMSの役割が拡大する中で、搭載されている機能も多岐に渡っています。ではどんな観点でCMSを考えれば良いのか? ということで、昨今のCMSのトレンドについてまとめてみました。

(1)多様なコンテンツフォーマットへの対応

20世紀はパブリッシャーが自社サイトでテキストと画像を提供していれば済んでいましたが、現代は膨大なプラットフォームが存在し、それらに対して多彩なコンテンツフォーマットを提供しなくてはなりません。1つのコンテンツを様々なフォーマットに最適化して配信していくような機能が現代のCMSには求められます(新聞社や出版社であれば紙面の管理との連携も含む)。

欠かせないのはTwitter、Facebook、Instagramなどのソーシャルプラットフォーム、YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームへの配信機能です。それぞれ最適な文字数が異なり、画像や動画の画角が異なりますので、それぞれに最適化しながら、最高の結果が出せるように配信していく機能が求められます。

高いエンゲージメントを得るためのコンテンツフォーマットも模索されています。BuzzFeedが活用したクイズフォーマットや、イベントのリアルタイムレポートなどで活用されるライブブロギングのような機能もCMSで提供されるケースがあります(Forbesの「Bertie」、ロサンゼルス・タイムスの「GrapheneCMS」には内蔵されているそう)。ただし、単体の機能としてSaaSとして提供されているLive Blog24LIVEBLOGのようなツールも存在します。

24LIVEBLOGの画面。これ自体が高度なCMSを提供している

(2)筆者と編集者のコラボレーション

ポストコロナの働き方においては、遠隔地であっても緊密なコラボレーションを実現することが求められています。デザインの世界では伝統的にPhotoshopやIllustratorのようなツールも依然として人気ですが、Canvaやfigmaのような誰にでも使い勝手が良く、全員のコラボレーションを促進するツールが勢いを増しています。CMSにおいてもUI/UXの向上と、コラボレーションの為の機能は重要になっていくでしょう。

ニューヨーク・タイムズは自社CMS「Scoop」でリアルタイムで複数の筆者や編集者が共同作業ができるエディターを2019年に導入しました。これはオープンソースのテキスト編集ライブラリ「ProseMirror」を導入して開発されたもので、ちょうどGoogleドキュメントのリアルタイム編集のような動作をします(詳細解説記事)。

ワシントン・ポストの「ArcXP」には「Websked」という出稿スケジュール・業務フロー管理・ダッシュボードが備わっています。ここでは作成予定の記事や記事内容、タスクなどを確認することができます。また、担当者にタスクを依頼したり、カテゴリの編集者に記事を推薦するといった機能も含まれています。こうした機能は編集部の生産性向上に繋がると考えられます。

ワシントン・ポスト「ArcXP」のWebskedの画面(DAX/ArcXPサイトより)

(3)高速化によるユーザーと編集者のエンゲージメント向上

ユーザーの回線環境が改善していく中でも、ページの読み込み速度はユーザーのエンゲージメントに直結しています。2017年と少々古いデータですが、グーグルの調査によれば、ページの速度が1秒から3秒に増加すると直帰率(他のページに遷移せずにブラウザを閉じる割合)が32%増加し、5秒になると90%も増加してしまうということです。

つまり同じコンテンツを提供していたとしても表示速度によって結果は変わってきてしまうということです。メディアサイトでは広告がボトルネックになるケースも多いですが、キャッシュ・マネジメントやCDNとの連携で高速化を図るのが定石です。「ArcXP」はジェフ・ベゾスのAmazonの提供するEC2をサーバーとして活用していて、その徹底的なチューニングによる高速化を実現していると言います。

同時に見逃されがちですが、バックエンドのコンテンツ編集画面の高速化も生産性アップという観点では重要です。操作の反応、画像アップのスピード、画面遷移の速度などバックエンドを高速化することによってストレスを軽減して高い生産性を実現できるはずです。

(4)AIを活用した効率化、ユーザー体験の最適化

OpenAIが提供するGPT3のようにAIを使い記事を自動生成するような取り組みが始まっています。既に、決算発表(日経新聞)、スポーツ試合の結果(AP通信など)、天気予報など定型パターンが頻発する領域ではAIでコンテンツを自動で、しかも大量に生成する施策がスタートしています。

コンテンツ自体を自動生成せずとも、文章の校閲・校正を行うというのはAIの得意分野です。CMSで対応している場合も多いABテスト(複数のタイトルやキャッチ画像をテストして結果の良い方に収束させていく手法)の結果を機械学習で蓄積していけば、より効果的なタイトルを推薦し編集者を手伝ってくれるようなAIも登場してくるでしょう。

ニューヨーク・タイムズはペイウォールにAIを活用しているそうです。同社は有料登録する前に毎月一定の記事を無料で読めるメーター制を採用していますが、このメーターの上限はユーザーによって異なるそうです。メーターは有料契約を最大化しつつ、ユーザーのエンゲージメントを最大限引き出すようにユーザーごとに最適化する仕組みを取っているということです(解説記事)。

コンテンツのレコメンドにAIを活用するのは一般的になりました。Social FlowEchoboxなどのパブリッシャーで採用されることの多いソーシャルメディアの管理ツールではAIを活用して、コンテンツが拡散する最適なタイミングを図って投稿していくような機能も搭載されているそうです。

(5)読者との関係構築

パブリッシャーが読者と直接繋がり、読者から収益を上げる事を特に意識するようになっていることから、CMSにおいても読者との関係を構築するための機能が求められるようになりました。

会員管理やサブスクリプション管理は非常に高度になっていて、PianoZephrとの連携を提供する場合もありますが、ここも含めてCMSで一体的に管理する機能を搭載したものも存在します。会員を獲得した後には、メール配信と連携してニュースレターを配信することも重要です。あるいは、プッシュ通知のようにより気軽にユーザーにメディア側からリーチできる手段を提供するCMSもあります。

Pianoが提供する読者との関係構築のための一連の機能

(6)ポストクッキー時代の収益化支援

サードパーティクッキーの終焉が近づく中でパブリッシャーの収益にはプレッシャーがかかっています。CMSにおいても収益化をどうサポートしていくかは重要になってきています。Vox Mediaの「Chorus」は運用型広告を最適化し、自前のプレミアム広告を管理するためのアドサーバー機能を提供しているほか、連携する広告プロダクト「Concert」を提供し、プレミアムパブリッシャーだけが参加できるマーケットプレイスを構築しています。

PC、ゲーム、自動車など趣味のメディアを多数運営するFutureが自前で開発するCMS「Vanilla」には様々な収益化モジュールが付属しています。中でも効果を発揮しているのが「Hawk」と呼ばれる、アフィリエイトコマースを最大化するモジュール。AmazonやWalmart、BestBuyなどの在庫データを一括管理して、ユーザーに最適でバリューのある商品をレコメンドして収益拡大に貢献しているそうです。

Futureは45のサイトをVanillaで展開しているそう

(7)CMSを中心としたコミュニティの存在

幅広く利用されているCMSを採用する際のメリットはコミュニティが存在していることです。世界の1/3のウェブサイトで利用されているWordpressであれば、あらゆる利用用途に関するハウツー情報が利用できます。WordpressのAutomattic社がプロのメディア向けに展開している「Newspack」というプロダクトも、ユーザーコミュニティとしてSlackを展開していて、活発なやりとりがされているそうです

明確なコミュニティがなくとも、多くのユーザーがいるCMSは、それらの声を聞きながら開発がされているはずですので、ある意味、自然とメディア運営のベストプラクティスを取り込むことに繋がります。この利点は大きなものだと考えられます。

◆ ◆ ◆

以上、7つのメディアCMSのトレンドを取り上げました。これを見れば分かる通り、CMSのトレンドはまさにメディアのトレンドに他になりません。少しメディアの未来も見えたような気がしませんか?

最後にCMSの開発に役立ちそうな海外メディアのエンジニアリングブログを紹介してこの記事を閉じたいと思います。ぜひメディア作り、CMS作りの参考にしてもらえればと思います。

NYT OpenWashington Post EngineeringForbes Digital GroupTelegraph Media EngineeringVox Media Product(残念ながら更新されてなさそう)

2022年8月特集 メディアを支える大黒柱、進化するCMSについて考える

1. 【序章】メディアを支える大黒柱、進化するCMSについて考える
2. 【解説】メディアが考えるべき7つのCMSトレンド
3. 【解説】米国メディアを支えるCMSの動向(続)
4. 【インタビュー】note株式会社「note pro」について
5. 【インタビュー】株式会社日本ビジネスプレス「MediaWeaver」について
6. 【インタビュー】HOUSEI株式会社 CMSについて
7. 【インタビュー】株式会社スマートメディア「Clipkit」について
8. 【インタビュー】デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社「ArcXP」について

【8月31日(水)開催】Media Innovation Meetup #34 メディアを支える大黒柱、進化するCMSについて考える

・日時 2022年8月31日(水) 17:00~18:30
・会場 Zoomによるオンライン開催
・価格 1000円(Media Innovationライト会員、プレミアム会員は無料)

登壇されるのは、出版社やデジタルメディア企業など幅広い顧客を持つ国産CMSの雄「Media Weaver」を展開する日本ビジネスプレスの執行役員・長島章夫氏、クリエイターが自ら発信するプラットフォームでビジネス向けの「note pro」をCMSとして展開するnoteのマーケティングチームリーダーの津隈和樹氏、多くの新聞社のDXを支援するHOUSEIの執行役員・川田京三氏、それからSEOに最適化したメディアを簡単に立ち上げられる「ClipKit」を展開するスマートメディアです。

※本イベントは有料イベントですが、Media Innovation Guildのライト会員、プレミアム会員の皆様には無料で参加いただけます。月額980円からご利用いただけますのでこの機会にぜひご登録ください(詳細)。

イベントの詳細はこちらから

2,779ファンいいね
226フォロワーフォロー
2,474フォロワーフォロー

【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

最新ニュース

Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

関連記事