小規模パブリッシャーが広告で巨大プラットフォームに勝つ方法【Media Innovation Weekly】9/11号

最近は枕詞のように「広告が厳しい」と口に出してしまうのですが、出来ることはまだまだあるんじゃないか? と提言するレポートがありましたのでご紹介したいと思います。

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おはようございます。Media Innovationの土本です。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

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今週のテーマ解説 小規模パブリッシャーが広告で巨大プラットフォームに勝つ方法

最近は枕詞のように「広告が厳しい」と口に出してしまうのですが、出来ることはまだまだあるんじゃないか? と提言するレポートがありましたのでご紹介したいと思います(Media Makers Meet)。

10 Advantages - How Magazine and Hyperlocal News Publishers Will Win」(10の利点 - 雑誌や超ローカルパブリッシャーが勝つ方法)を提供しているのはケニー・カッツグロー氏。2012年にBroadstreetという超ローカルパブリッシャー向けの広告技術を提供する会社を立ち上げ、その後、ニュージャージー州に2006年に創設されたローカルメディア「RedBankGreen.com」の代表となりました。

同氏はLiving on a Prayerというブログでパブリッシャーが「グーグルに負け、グーグルのために稼ぎ、グーグルに依存している」パブリッシャーの現状を強く批判し、BroadstreetとRedBankGreen.comの2つの会社で、グーグルのようなプラットフォームに依存しない戦い方を提案してきました。広告市場の寡占を巡る司法省とグーグルの争いでは、双方から参考人に呼ばれるという経験もしたそうです。

プラットフォーマーができないこと

Broadstreetという広告技術を扱う会社を立ち上げた時、カッツグロー氏はアドテクの世界が、クリエイティブではなく、ターゲティングに支配されている事に気づいたそうです。技術進歩はターゲティングに偏り、クリエイティブは標準化が推し進められたと言います。プラットフォームとして規模を求める上では当然の選択ですが、パブリッシャーとしては標準化されるということは差別化を失い、無限の競争に参加する事と同義です。

グーグルやメタが提供する広告プラットフォームでは精緻なターゲティングと安い単価を両立することができます。レポートではパブリッシャーがこうした世界観を再現しようと泥沼にハマっていると批判します。超巨大サイトであってもセグメントを絞り込めば僅かなユーザーしかいません。僅かなユーザーしかいなければ請求できる費用も限られます。そして精緻に絞ってもプラットフォームの精度には敵わないのです。

カッツグロー氏はBroadstreetで超ローカルパブリッシャーに「編集可能な広告」を提供したそうです。といっても非常に単純な仕組みで、テンプレート化されたクリエイティブの中身を随時広告主が編集できるというもので、新商品やセールなどに合わせて更新してもらう事を目的としていました。ただそれでも、広告主にとっては新鮮で、さらに静的なバナーと比べても遥かに高いパフォーマンスを得られたそうです。

小さなパブリッシャーが持つ利点

プラットフォームに負けている部分ではなく、小さなパブリッシャーが持つ強みに焦点を当てて、それによって勝ち筋を見つけるべきです。レポートでは幾つかの強みを挙げています。

例えば「地域社会の支援と親和性」です。業界紙のようなモデルであれば業界との繋がりに置き換えてもいいでしょう。特定のコミュニティでは高い知名度を持ち、記者は地域で知られていて、身近な事を報道してくれます。広告主にとっても直接的な関係を持っている事はプラスに働きます。プラットフォームには持てない信頼関係を築くことができ、提案バリエーションも豊富にできます。成功に導くための個人的なサポートを提供することもできます。

Local Search Associationが中小広告主がプラットフォーム広告を辞めた理由に挙げているのは1位「悪い結果」、2位「サービスレベルの低さ」でした。プラットフォームは広告が企業の成功に繋がるところまではサポートしてくれません。中小企業では選任のマーケティング担当者がいないことが多く、予算を有効に活用するために信頼できる誰かを探しています。自分たちの成功のために本当に働いてくれていると信じてもらえれば大きな可能性があります。

とにかく差別化をすること

プラットフォームの標準化から逃れて、パブリッシャーは差別化された製品を提供する必要があります。レポートは言います「誰もが提供できる300x250や728x90のバナーを自身を持って売ろうというのは難しい。買わない方が馬鹿なんじゃないか? と思えるような製品を提供する必要があります

例えば、住宅リフォーム業者がデジタルに消極的で雑誌にばかり出稿していた頃にBroadstreetはグロッシー・ギャラリーという製品をリリースしたそうです。これは下記のような、単なる画像ギャラリーですが、300x250のバナーよりも遥かに表現力があり、雑誌の一面広告のような効果を出せたそうです。もちろん下記のサイズは一例で、ヘッダーにもっと大きく出す事もできますし、右メニューに縦長を配置するような事もできます。このクリエイティブは不動産、ゴルフ場、レストランなどでも好評だったそうです。

別の例ではイベント会場で近日開催予定の催しを伝える広告フォーマットもあるようです。インパクトが大きく、広告というよりは情報といった方が正しいでしょうが、ターゲットユーザーにとって価値のある内容を伝えていて、広告効果も高いだろうことが容易に想像できます。

さらに別の例では企業が運営しているソーシャルフィードを定期的に取り込んで広告クリエイティブに使用するバナーも提供しているということです。これであればソーシャルメディアを更新すれば自動的に反映され、ソーシャルでのフォロワーの拡大にも繋げることができます。広告まで運用しきれないというクライアントにとっては良い提案でしょう。

その他レポートでは、カテゴリタイアップ(コーナー別にメインスポンサーを付けていく)や、ネイティブ広告、ニュースレター広告などが紹介されていました。

興味深いなと思ったのはレポートの部分。レポーティングはプラットフォームとは異なる高い透明性を提供するものとして強調されていましたが、かなり細かいレポートを提供しているようです。日毎の数値や、地域別の結果のほか、広告クリックの1つ1つを時間・地域・プロバイダ情報を付加して掲載している部分もありました。これはローカルならではかもしれません。

カッツグロー氏は結びで以下のように述べています。

「あなたが広告主に対して提供できること、できないことを業界に決めさせてはなりません。小さなパブリッシャーには信じられないほどの自主性と柔軟性があります。そして、巨大なメディア組織にはできない、あるいはやろうとしないような価値を、顧客である友人やコミュニティメンバーに提供する能力があります。積極的に顧客のビジネス成長を助ける新たな手段を考えれば、あなた自身のビジネスを成長させることにも繋がるでしょう」

均質化する競争に参戦するのではなく、自らの強みを探し差別化を極めていく、ここには多くのヒントがありそうです。レポートはこちらから

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編集部からひとこと

先週のPianoのイベントで「いつもニュースレターを読んでます」と不意に声をかけられること多数。毎週頑張っていて良かったと思う反面、緊張感を持っていかねばと改めて思う次第です。

だいぶ涼しくなってきましたね。台風もきて秋が近づいてきました。(暑いのが苦手なので嬉しい)

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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