【メディア業界2024年の展望】AIがメディアOSとして活用される、コンテンツジャパン堀鉄彦代表

2023年に一番注目した出来事は何だったでしょうか?

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【メディア業界2024年の展望】AIがメディアOSとして活用される、コンテンツジャパン堀鉄彦代表
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Media Innovationでは毎年恒例の年末年始企画として、メディア業界の様々な方に、2023年の振り返りと、2024年の展望について寄稿いただきました。良いことあり、辛いことあり、という一年間の後に、どんな飛躍が待っているか、皆さんからのメッセージを順次公開していきますので、お楽しみに。

堀鉄彦
株式会社コンテンツジャパン 代表取締役
1986年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 日経イベント、日経パソコン、日経ネットナビなどの雑誌編集を経験後、独立し、2018年4月に(株)ブロックチェーンハブに参画。グループ内に(株)コンテンツジャパンを立ち上げる。ブロックチェーン×コンテンツのプロジェクトに取り組む。電子出版制作・流通協議会や電子書籍を考える出版社の会など複数のメディア系業界団体でデジタル系サービスの動向レクチャーを定期的に行っています。

2023年に一番注目した出来事は何だったでしょうか?

全体としては、やはり生成AIの登場と普及ということになるでしょう。調査会社のDaalroomによると、世界における2023年生成AI企業への投資は9月待つまでの推計でも前年の5倍近い、178億ドルに達したといます。2024年はその勢いがさらに増すことになるのではないでしょうか。

そして、23年後半には、AIとメディアの関係の今後を左右するような契約や合意、枠組み策定の動きがありました。AI規制の国際指針として「広島AIプロセス」(発信者特定を担保するオリジネータープロファイルの有効性も明記された)の合意内容が発表され、EUの「AI Act」が暫定合意、米国大統領令も発表となりました。日本でも、AI事業者ガイドラインの骨子が発表されて詳細内容の検討が進んでいます。テクノロジーに関する国際的な枠組みがここまでの速度で決まるのは初めてでしょう。

AI企業とメディアとの契約ではOpenAIとAxel Springerの包括提携、米俳優組合(SAG-AFTRA)全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)の間で取り交わされた生成AI関連の条件を含む合意内容が、今後に大きな影響を与えそうです。

 世界のプラットフォームが、生成AIをOSとして機能させるべく経営方針の大転換を行ったのが2023年だったといえるのではないでしょうか。

メディア業界で今後の焦点となりそうな事は何だと思いますか?

2024年はメディアにおいても、AIを起点としたプラットフォーム改革が本格化し、創作から流通、広告のすべてで生成AIの利用が本格化する年となるのでしょう。繰り返しになりますが生成AIが社会のOSとして機能し始めるわけで、これまでの仕事をどれだけ優秀なAIへ置き換えたかで、メディアの競争力に影響が出始めるかもしれません。

想定しておかなければならないことのひとつは、生成AIもたらすビジネスモデルの変化は、インターネットやスマホが引き起こしてきたディストリビューションやUIの革命とは異なる根本的なところに起こる可能性が高い点です。ネット革命とは異なり、個人個人の創作や判断プロセスの大幅な効率化をも実現し、部分的に人間の“頭脳労働”“創作労働”の代替を担おうとしていています。

直近の課題は、AIプラットフォームから得られる利益を共有する方法はいったいどのような形が考えられるだろうかということですが、それについては、Axel SpringerとOpenAIの契約などが一つのひな型となるでしょうし、OpenAIとMicrosoftに訴訟を提起したNew York Timesの裁判プロセスで、先端の議論の一端が明かされることにもなりそうです。

ただし、情報の多くが今の生成AIのUI経由で届けられるようになるかどうかは、いずれ大きな問題ではなくなるのでしょう。生成AIが、マルチモーダル型、そしてAGI(汎用人工知能)型へと進化していく中で、そうした、メディアのビジネスモデルもその進化の影響を大きく受けるわけで、ポストクッキーの戦略も、リテイルメディアとの関わり方、もっといえば生成AI企業と関わりにおいてもAIの活用が必須となる可能性があるのでしょう。

メディア企業にとってのチャンスはどこにあるのでしょう。一つはIPの活用です。生成AIは知財(IP)の生産革命でもあります。生成AI登場前に作った知財の価値は生成AI登場後に作った知財と違ってくる可能性も想定する必要があるのではないでしょうか。メディア企業やコンテンツ企業にとってIP戦略は今まで以上に大きな意味を持ってくることになりそうです。 

グローバル展開もおもしろいでしょう。分かりやすいところでは、Spotifyが実験を始めたPodcastの多言語自動翻訳があります。日本語コンテンツであっても、AIを活用することで世界へ売り込むことが容易にもなりそうです。このほか、インフルエンサーマーケティング、レピュテーションマネジメントなどもAIによって半自動化され、メディア企業が戦略を直接組み立てることが容易になりそうです。

全体として重要なのはAGI時代の到来を見据えたバックキャスティングの作業ではないか。Before AI時代とは違ったAfter AI時代のビジネスモデルのあり方を、Media Innovationの中でも伝えて行ければと思っています。

《堀 鉄彦》

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堀 鉄彦

1986年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 日経イベント、日経パソコン、日経ネットナビなどの雑誌編集を経験後、独立し、2018年4月に(株)ブロックチェーンハブに参画。グループ内に(株)コンテンツジャパンを立ち上げる。ブロックチェーン×コンテンツのプロジェクトに取り組む。2019年10月にビヨンドブロックチェーン(株)の取締役に就任。電子出版制作・流通協議会や電子書籍を考える出版社の会など複数のメディア系業界団体でデジタル系サービスの動向レクチャーを定期的に行っています

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