株式会社朝日新聞社が2022年から展開する「AI短歌プロジェクト」が、一般社団法人AICAが新設した「AI Creative Future Awards(AICA)」の初回でAICA賞を受賞しました。
同プロジェクトは、短歌生成AIの開発と歌人との対話を軸に、「人間にとって短歌とは何か」を問い直す研究・実践として展開されています。AICA賞の審査では、LLM(大規模言語モデル)ブームにおける文章領域の革新を体現し、短歌という文化形式にAIがどう関わるかという批評的・文学的な視点が評価されました。
朝日歌壇の資産を活用したAI検索基盤
プロジェクトの中核となるのが、AI検索基盤「朝日歌壇ライブラリ」です。1995年以降の朝日歌壇入選歌約5万首を収録し、「恋」「寂しい」といった単語や作者名から目当ての短歌を探したり、AI検索エンジンで今の気持ちに寄り添う短歌に出会ったりすることができます。初代選者に石川啄木を据え1910年に開始した朝日歌壇は、投稿をウェブまたははがきで受け付け、4人の選者がすべての投稿に目を通して入選歌を選び、毎週日曜日の紙面に掲載しています。
歌人との協働で深める創作の本質
2022年7月には、朝日新聞のデジタル版特集「プレミアムA」で「俵万智×AI短歌 歌人と拓く言葉」を公開しました。短歌を生成できるAIに、「サラダ記念日」で知られる俵万智さんの歌集を学習させ、「万智さんAI」を制作。俵さんと一緒に、短歌とAIの世界を体験してもらう内容となっています。短歌AI開発者の浦川通がナビゲーターを務めました。
さらに連載「AIと歌人が出会ったら」では、俵さんや朝日歌壇選者の永田和宏さんに、短歌を生成するAIの世界を体験してもらいました。俳句や小説の話題も交え、創作とAIの関係について考察を深めています。
リアルイベントで読者とも対話
2023年、24年にはリアルイベント「記者サロン」を開催し、読者とも交流しながら「AIと短歌」について考察を深めていきました。
2023年10月には「歌人・科学者 永田和宏さん×AI短歌」を開催。AIが歌を詠み、鑑賞することはできるのか。そこから見えてくる、創作という営みの本質とは。朝日歌壇の選者で科学者でもある永田和宏さんと、AIとの「遊び」を通じて考えました。
2024年4月には「木下龍也さん×AI短歌 あなたのために詠む短歌」を開催。「こんな短歌を作ってほしい」というお題に生身の人間が悩みながら生み出す歌と、AIが瞬時に生成する歌はどう違うのか。誰かに向けて歌を詠むことの本質とは。気鋭の歌人とAI開発者、記者が語り合いました。
メディア研究開発センターの挑戦
「AI短歌プロジェクト」を担った朝日新聞社のメディア研究開発センターは2021年4月に発足しました。AIをはじめとする先端メディア技術と、新聞社ならではの豊富なテキストや写真、音声などの資源を活用し、社内外の問題解決をめざすとともに、自然言語処理や画像処理をはじめとした先端技術の研究・開発を進めています。
AI Creative Future Awardsとは
一般社団法人AICAが主催し、2025年に初回を開催したクリエイティブアワードです。テクノロジーとクリエイティブの関係を横断的に探求するクリエイター・研究者らを審査員として迎え、広告、アート、音楽、映像、ゲームなど、ジャンルを問わずAIによって新しい発想や社会的インパクトを生み出したプロジェクトを対象に審査を実施。AIによる表現が人の感覚や社会にどんな新しい可能性をもたらすのかを探るものです。12月17日にグランプリ作品とAICA賞23作品を発表しました。
朝日新聞社のAI短歌プロジェクトは、新聞社が持つ文化資産とAI技術を融合させ、伝統的な文学形式である短歌の新たな可能性を切り開く試みとして、今後も注目を集めそうです。




