メディアのみならず、幅広い業種がビジネスをサブスクリプション型に転換しようと躍起になっています。2018年12月に設立された一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会(サブスク振興会)は、こうした企業に機会と応援の場を提供しようと立ち上がりました。

サブスク振興会を率いる代表理事を務めるのは、テモナ株式会社の佐川隼人社長。4度目の起業で取り組んだサブスクビジネスが大きくドライブし、テモナは2017年に東証マザーズに上場し、4月から東証一部に昇格します。そんな佐川社長にビジネスをサブスクに転換する秘訣について聞きました。

―――まずは自己紹介をお願いします

元々はフリーランスのプログラマーで、エンジニア出身の起業家です。今の会社を設立したのは11年前(2008年10月1日)で、これまでに3回起業しており、4回目の起業になります。

今回、一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会を立ち上げたのは、自身がシステムの受託開発事業をやっていた経験から来ています。

テモナを設立したのはリーマンショックの頃ですが、主要顧客のプロジェクトが止まり、売上が半分になってしまったのですが、人件費は半分にはなりません。その時期はなんとか乗り切ったのですが、また景気の波がきて、その度に振り回されるのはどうなんだろうか、と悩みました。

その頃は周りにもストックビジネスというものが生まれてきていて、積み上げ型で安定的に経営できる手法があるのか、と気づき、定期購入専門の通販システム「たまごリピート」を作りました。これは顧客のサブスクリプションを支援するプラットフォームであると同時に、私達にとってもSaaSで顧客と収益が積み上がっていくサブスクリプションのビジネスになりました。

この転換から順調に売上が積み上がるようになり、2年前に上場することができました。

―――事業をサブスクに転換してよかったことはなんでしょうか

融資も受けやすくなったし、上場もできました。たくさんの恩恵を受けてきましたが、一番のメリットはストレスフリーな資金繰りです。受託開発事業では、来月にどれくらいお金が入ってくるのか、と常に心配していました。また強気に投資ができるようになったのも、大きいです。楽しく経営ができるようになりました。

―――サブスク振興会の設立目的を教えていただけますか

いまサブスクに取り組もうとしている企業が非常に多いのですが、取り組んでいくうちに直面する課題も少なくありません。テモナは幸いなことに、これを10年近くやってきましたので、サブスク振興会では我々のノウハウや事例も共有しながら、日本でサブスクビジネスがどんどんと立ち上がっていくための原動力になりたいと思います。

サブスクは事業者にとっては毎月積み上がっていくモデルなので、とても都合が良いんです。事業計画も立てやすい。でも、これを事業者都合でやってしまうというのが一番の失敗例です。継続的にお金を支払ってくれるお客さんはVIP顧客です。VIP顧客に対する明確な特別な体験を提供できないサブスクはまず失敗します。

サブスクであるが故に、毎月何らかのコンタクトが発生します。それはお客さんとの関わりが増えることであり、売って終わりではなく、定期的なフィードバックが生まれるし、それに応えるとサービスは良くなるし、お客様ももっと喜ぶ。そういう意味でもサブスクはとても良くて、一緒にサービスを作っていく関係が構築できます。

お客様と一緒に良いサービスを作っていくのが、サブスクの大切なこと、本質的に重要なことだと思っています。こういう事をサブスク振興会では発信し、情報交換を通じて会員企業と一緒に成長していきたいと思っています。

日本サブスクリプションビジネス振興会

―――今後サブスクはどんな普及過程を経ていくのでしょうか

サブスクは既に皆さんの身の回りに溢れています。健康食品などの定期購入は昔からありますし、ソフトウェアはSaaSで提供されるものが大半になってきました。数億人単位が加入するAmazon Primeのような巨大サービスもありますし、NetflixやSpotifyなどメディア視聴もサブスクが主流になってきました。

単純にモノを買って満足という世界ではなくなっています。消費者がモノ単体の価値ではなく、モノが提供するストーリーや体験を強く意識するようになってきました。事業者としても継続的にサービスを提供する必要が出てきており、ビジネスモデルとしてはサブスクになっていくでしょう。

事業者の側も優れたビジネスモデルであるサブスクをもっと幅広い領域に適用しようと努力をしていきますので、消費者もサブスクの便利さを実感できるようになりますので、ますます普及が加速していくでしょう。

―――どんな商品であればサブスク化できるのでしょうか

できない商品はないと思います。

先ほども言いましたが、毎月お金を支払ってくれるユーザーはVIP顧客です。彼らが何を望んでいて、何に悩んでいるのかを徹底的にリサーチして、彼らを満足させるサービスを作るのが大切です。

サブスクにも幾つかのパターンがありますので、上手く設計するのは大事です。サブスク振興会にも本当に幅広い業種の企業が参加してくれています。

―――成功するサブスクと失敗するサブスクは何が違うのでしょうか

繰り返しになりますが、顧客に向き合うことでしょうか。その上で「便利」で「お得」で「悩み」が解決される、この3つの要素が必要だと思っています。

例えば秀逸だと思ったサービスに、美容院の月額制サービス「MEZON(メゾン)」というものがあります。ここでは「シャンプー・ブロー通い放題」サービスを提供していて、厳選した150以上の美容院と提携しています。新しい、知らなかった美容院への出会いを提供し、選択肢を増やしてくれる、忙しい女性にも魅力的なものではないでしょうか。

アマゾンが提供する「Amazon Prime」は月額料金を払えば、送料が無料になり、早く届けてくれるというサービスから始まりましたが、今では映像や音楽のサービスも統合され、これ一つあればデジタル購買の体験が完結します。これも「便利」で「お得」で「悩み」が解決するサービスになっていると思います。

気を付けなくてはならないのは、単なるVIP顧客に対する割引サービスにならないことです。より良い体験を提供することで、顧客単価を引き上げていく、これも必要なことだと思います。いま店舗のサブスクサービスが次々に誕生していますが、月額で食べ放題など、単に割引施策になっていることが多く、特に新しい価値を提供せず、一番大事なVIP顧客の顧客単価だけを下げていく事にならないか心配です。

―――日本と海外のサブスクサービスの状況は異なりますか

全然違うサービスが流行っていたりしますね。顧客に寄り添うのがサブスクの本質ですので、顧客の違いによってサービスが異なるのはある意味当然ですが。

例えばカミソリの替え刃が定期的に届くサービスがあり、アメリカではとても流行っていますが、アメリカではコンビニまで遠い地域も多く、全身の毛を剃るので、流行ったのではないでしょうか。代表例である「Dollar Shaver Club」はユニリーバが買収しました。ただ、これを日本で模倣しても難しそうです。

My Little Box」のように商品をボックスに詰めて、定期的に届けるサービスもあり、これも日本での成功事例は聞きません。これの価値は商品をボックスに詰めていることではなく、そのセレクションですよね。人気の女優が選ぶとか、モデルが身につけた商品が届くとか、セレクションの妙が必要そうです。

似たところで「エアークローゼット」という日本のサービスがあります。ファッションや洋服のレンタルです。彼らは、利用者のフィードバックをビッグデータで分析して、データをもとにコーディネーターさんが選んだ商品を提供しています。消費者の接点が多いのがサブスクの特徴ですから、フィードバックからサービスを磨いていくのはとても大事です。

―――メディアのサブスクについてはどうでしょうか?

海外での先行事例は多数ありますので、日本で出来ないということはないでしょう。

既にブランドがあるメディアでは容易にできると思いますし、スタートアップや中堅メディアでも、何を提供することがVIP顧客の価値になるのかという点を見極めることができれば可能性があると思います。

会員限定の記事が読める、いち早く情報を知ることができる、など色々な考えが出来ると思いますが、コンテンツだけが顧客の悩みを解決する方法ではないと思います。

―――サブスク振興会の今後の取り組みについて教えてください

早くも会員数は100名を超えました。年内には1,000名を目指したいと思います。

まずはサブスクに関する情報提供からはじめています。会員の方には、サブスクビジネスを立ち上げるための勘所を掴んでもらえるようにしたいと思います。

また、サブスクは損益分岐点に達するまで赤字を掘り続けるビジネスですので、資金面を協賛企業の金融機関がバックアップする、というようなこともできると面白そうです。純増数、顧客数、解約率を見れば、非常に事業評価しやすいのがサブスクの良いところでもありますので。

全てのビジネスがサブスクになることはありませんが、あらゆる業種でビジネスの幾らかの割合がサブスクに変わっていくと思います。日本全体の経済成長にとっても重要なモデルだと思いますので、サブスク振興会として全力で推進していければと思います。

【4月特集】サブスクリプションはメディアをどう変えるか?

4月特集に合わせて、オフラインイベント「Media Innovation Meetup #3 サブスクリプションはメディアをどう変えるか?」を4月17日(水)に開催します。

特集に登場するサブスクリプション総合研究所の宮崎琢磨 代表取締役社長、キメラ/CAMPFIREの大東洋克取締役COO、そしてメディアコンサルタントとして世界のメディア事情に詳しいソーシャルカンパニーの市川裕康氏にも世界のメディアのサブスク事情についても解説いただきます。

終了後には軽食と飲み物を用意した懇親会も実施します。

■概要
日時 2019年4月17日(水) 19:00~22:00
会場 〒160-0004 東京都新宿区四谷3-9 第一光明堂ビル 9F TIME SPACE 四谷 ※四谷四丁目駅から徒歩2分
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役/メディアコンサルタント 市川裕康氏
    ビープラッツ株式会社 取締役副社長 宮崎琢磨氏
    株式会社キメラ/株式会社CAMPFIRE 取締役COO 大東洋克氏
20:05 パネルディスカッション
21:00 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
22:00 終了

席に限りがございますので、Peatixより是非早めにお申込みください。