コミュニケーションにおける「信頼」が鍵に、TOKYO FM杉本氏・・・メディア業界2021年の展望(7)

新型コロナウイルスによって平時と全く異なる一年となった2020年。みなさんにとってはいかがだったでしょうか? そして2021年に向けてどのような事を取り組んでいくのでしょうか? 今年もMedia Innovationで大変お世話になった皆様に今年の振り返りと来年への展望をお聞きました。「メディア業界2021年の展望」全ての記事を読む。

日本を代表するラジオ局であるTOKYO FMで経営戦略を担う杉本氏。今年はデジタルの音声市場が大きな注目を浴びた一年でもありましたが、杉本氏はどのように捉えているのでしょうか。「信頼」をキーワードにこれからのメディアの立ち位置について話してくれました。杉本氏には4月の「Media Innovation Meetup #15 音声メディアのいまをキャッチアップする2時間」にも出演いただきました。

杉本 昌志
株式会社エフエム東京 経営管理局 経営管理部 専任部長
福岡県久留米市生まれ。1998年、株式会社エフエム東京入社。企画営業、営業管理、ライブ&コンサート企画、などを経て、2013年より新規事業開発に携わり、経営企画業務を中心に資金調達等を含むコーポレート全般を担務し、関係会社の経営企画室長、取締役を兼務。その後、営業推進管理部門長、デジタル事業部門長等々を経て、現職。

2020年はメディア業界にとってどのような年だったでしょうか?

これはメディア業界に限ったことではありませんが、なにより新型コロナウィルス感染症拡大に翻弄された一年だったと感じます。

メディアビジネスのベースともなる広告費については、緊急事態宣言期間を含む第1四半期の落ち込みがすさまじく、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」(広告業)によると、テレビ・ラジオで前年比70~80%台、雑誌等では6月に前年比50%を割り込みました。

これに対して、日本新聞協会の調査では「新型コロナウィルス報道以降のメディア接触頻度が増えた」とする人が、テレビ・新聞(電子版)・ニュースサイト等で50%を超えた他、radikoのMAUは2月のおよそ750万から3月には900万へと急増する等、視聴者・読者・ユーザーのメディア接触は拡大しました。

しかしながら、博報堂DYMP メディア環境研究所の調査では、緊急事態宣言解除後のメディア接触(時間量)は「横ばい」であり、体感的にも一時的な拡大・増加であったことは否めないと感じます。ただ、これを契機として、新たなメディア体験を得た方も多く、一部が視聴者・読者・ユーザーとして、残り続けていると考えられます。

電通の「マスコミ4媒体広告量」調査も参照すると、単純には「広告費は減って、メディアリーチは拡大した。すなわち広告単価が下がった」とも言えそうですが、視聴者・読者・ユーザーのコンテンツ体験の内実は、”お気に入り”のヘビロテが顕著となる等、これらをハブとしたコミュニティ~特定のメディアにおけるフリークエンシーの伸長が際立っており、マス・マーケティングの困難さが浮き彫りにもなったものと感じます。

これまでも進んでいたメディア変容の方向性自体に大きな変化はないものの、コロナ禍によってスピードが一気に加速した、そんな1年であったかと思います。

これからのメディアに求められること、直面する課題はどういったことでしょうか?

2020年に観測されたメディアへの態度変化のキーワードはひとつに「信頼」だったと思います。先にも述べたとおり、従来型のテレビ・ラジオ・新聞といったマス・メディアへの接触が拡大した一方、メディア環境研究所の調査では「インターネットの情報は、うのみにはできない」とする回答が84.1%となる等、社会的な不安が先行し、人々の態度は、慣れ親しんだメディア、安心・安全へと傾きました。

では、その「信頼」を支えるのは、いったい何でしょうか。有名な「コミュニケーションの二段階の流れ」が示すように、メディアが発した情報よりも、身近な人を介した情報によって、人々の態度は変容します。また同時に、人間の認知能力には限りがあり、常に人は情報取得に選択的です。故に、これらの条件を満たすこと、高関与刺激を前提に、情報源の信頼性を担保することが、最低限求められるでしょう。

これをいまの文脈に沿って考えると、”お気に入り”コンテンツをハブとしたコミュニティ的ネットワークに対して、いかにアプローチして行くかが、これからのメディアに求められることのひとつになると思います。ハブとなるコンテンツの提供に留まらず、ネットワークのノードや流れる信号、トラフィック等、総体としてバランスの取れたデザインが必要だと感じます。すべてを突然現出させることは不可能ですから、どこに強みを発揮出来るのか、どこから手を付けるのか等々、全体のエコシステムをイメージした戦略立案が必要でしょう。

また、マス・コミュニケーションに最適化されてきたトラディショナルなメディアにおいては、デジタル・ネイティブなメディアとは違って、抱えたアセットを支えられるだけの収益を、前述のアプローチによって獲得するには、戦略的・組織的な制約を乗り越える必要もあり、相応の時間を要します。既存のメディア・リーチを活かした「金のなる木」である事業の深化とととも、新たな事業機会の探索とも言えるアプローチをバランスさせ、コンピテンシートラップに陥らないマネジメントも課題となるでしょう。

メディア”業界”という壁はとっくに溶け落ちています。デバイス・セントリックから抜け出し、真にヒューマン・セントリックな、思考も含めたR&Dに取り組んで行くべきではないでしょうか。

2021年に取り組みたいと考えていることはどういったことでしょうか?

弊社では、2020年、新たにブランドプロミス”Life time audio 80.0″を掲げました。ラジオは「ながら聴取」と言われるように、人間のあらゆる行動に重ねることができるメディアです。このことは、常に人に寄り添えると言うことであり、メディアに求められる人間理解に大きく貢献します。radikoの伸長は、この作用を、特にデータ面で、促進するでしょう。デジタル・オーディオ・アドの領域も盛り上がってくると予想します。

とはいえ、広告主が求めるのは、データそのものではなく、メディアによる人間理解に基づく、適正なコミュニケーション支援だと考えます。この理解力と解釈を伴う支援のノウハウこそが競争力の源泉ではないでしょうか。

日々の生活をともにすることでコンテクストを共有し、高度な共創型コンテンツを産み続ける、そんなリスナーと広告主とが一体となったコミュティ形成をお手伝い出来るメディアとしての持続的成長には、さらなる知見の磨き込みと不断の努力が不可欠です。そのためのヒントの多くは、業界の外に散らばっています。これらを丁寧に拾い集め、研磨の材料としていく、非力ではありますが、そんな取り組みに臨んでいきたいと思います。

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Manabu Tsuchimoto
Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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