ニュースパブリッシャーがサブスクユーザー引き留めのためにすべきこと・・・解約間際のユーザー特定と加入初期のオファーがカギ

ニュース業界を支援する非営利団体American Press Instituteは、ニュースパブリッシャーがサブスクユーザーを引き留める(Retention)ための戦略を独自調査結果をもとに報告しました。大小問わず米国内の133のパブリッシャーに対して、9つに分類された引き留め戦略について聞き込み調査を行い、各社が感じるそれぞれの重要性と習熟度を明らかにしました。その中でも同団体が極めて重要と判断した「解約間際のユーザー特定」と「加入初期のオファー内容とその効果測定」について本記事では紹介していきます。

調査の目的と9つに分類された戦略

今回の調査と報告をまとめたAmerican Press Institute(API)は、ニュースパブリッシャーの支援を目的として設立された非営利団体であり、約2000のパブリッシャーから構成される業界団体News Media Allianceの支援を受けています。APIは調査の目的を「パブリッシャーの収益向上を支援するために、サブスクユーザーを引き留めつつ、解約を減らすための方法を見極めること」としています。そのために代表的な引き留め戦略を9つに分類し、それぞれの戦略に対して各社が「重要性」と「自社の習熟度」をどう感じているか聞き取り調査しました。

  • 新たなサブスクユーザーのオンボーディング(加入支援)
  • 顧客の興味と振る舞いに対する研究
  • 加入更新への積極的な奨励
  • 解約間際のユーザー特定
  • 解約分析のための指標活用
  • 加入初期のオファー内容とその効果測定
  • サブスクユーザーの購読内容へのトラッキング
  • クレジットカードの期限切れへの対処
  • サブスク加入者限定のオファー

調査の結果、パブリッシャー各社が戦略を最も必要としている項目として「解約間際のユーザー特定」があり、次点として「加入初期のオファー内容とその効果測定」があることが分かりました。

重要戦略①:解約間際のユーザー特定

解約間際のユーザー特定は解約への対策に必要不可欠です。パブリッシャーに対する重要性の理解と習熟度の調査の結果、84%がそれを重要であると考えている一方、52%がその戦略の習熟度について「あまりない」、「全くない」と回答しています。この大きな乖離は、この戦略がパブリッシャーが今後重点的に取り組むべきものであることを表しています。また傾向として、大きな組織が小さな組織よりもこの戦略に習熟していることも分かりました。これは利用できる技術とリソースのギャップによるものであると同団体は分析しています。

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さらなる深堀りとして、この戦略のための代表的な2つの方法について、各社の実施有無も調査されています。それは

  • 自社のコンテンツへのアクセスがないユーザーの特定
  • 自社の他の製品やプラットフォームへのアクセスがないユーザーの特定

であり、調査の結果、それらを片方でも行っているパブリッシャーは40%程度と、半数もいないことが分かりました。その理由は、各社が上記2つの方法に当てはまらない独自の方法を使っているためということでした。例えば、「多数の入力に基づく解約予測モデルがある」、「支払いパターンが通常と異なるユーザーをトラッキングしている」などです。

一方、同団体は上記2つが戦略上不可欠であり、全サブスクユーザーの識別子とオンライン上のエンゲージメントを紐づけるCRM(顧客管理)ソフトウェアの導入が必要であると主張しています。これにより解約モデルも構築することが可能という見解も示しており、さらなる応用として解約したユーザーの過去の履歴を分析することも重要であると述べています。

重要戦略②:加入初期のオファー内容とその効果測定

新規加入者を増やす極めて有効な方法が初期の割引オファーです。しかし一方、高い割引価格で加入したユーザーは、そうでないユーザーよりも更新率が低い可能性があり、より引き留め戦略が重要となっています。どのような初期オファーが有効であるのか、その効果測定を行うことの重要性は、調査によると80%のパブリッシャーが認識しているようです。しかし一方、多くのパブリッシャーが効果測定を行えておらず、有効な戦略を立てられていないことも分かりました。前項と同じく、大きな組織で習熟度が高く、小規模では低いという傾向は変わらず、デジタル版のみを提供するパブリッシャーに至っては「全く習熟していない」との回答がほとんどであるようです。

代表的な戦術として同団体は

  • 初期登録価格の割引
  • 決済間隔変更オプション
  • 無料トライアル

の3つを挙げ、それらに対する効果測定実施有無を調査しました。「初期登録価格の割引」に対しては69%が測定を行っていることが分かりましたが、同団体はこの割引価格の効果測定は引き留め戦略のために非常に重要であると主張します。まだ、実施していないパブリッシャーは測定を行うことで必ずメリットを享受するであろうとも述べています。価格の表示方法もまた重要であり、1カ月を4週間と見せたり、1ドルを99セントと表示することでもユーザー心理は変化すると言います。

「無料トライアル」への効果測定は41%でしたが、これも重要な要素を含んでおり、例えば無料トライアル中におけるクレジットカード決済登録の有無が挙げられます。登録を要求することでトライアルの加入者は減るかもしれませんが、有料プランへのコンバージョンが向上する可能性があります。他にも方法はありますが、いずれにしても採った方法に対する効果を確認することが重要であると同団体は強調します。

「決済間隔変更オプション」は59%が効果測定を行っていましたが、デジタル版のみを提供するパブリッシャーは17%しかこのオプションを導入していないことも分かりました。各ユーザーが最適と判断する間隔は多様であるため、このオプションが存在することはそれ自体は良い戦略になると述べられています。例えば、年単位など長期間での決済を行うユーザーは加入を継続する傾向にあるため、追加割引などを導入し、長期間決済に誘導することで効果的な引き留め戦略を行うこともできます。

この記事で紹介した戦略と調査結果はごく一部です。全てを確認するためにはこちらで全文を確認してみてく

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デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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