米アップルは9月1日、日本の公正取引委員会との合意に基づき、一部のアプリの決済方法に関するルールを緩和することを発表しました。「2022年初め」に、決済に関する外部サイトのリンクをアプリ内に掲載可能となるよう規約を変更するとしています。
このアップデートは、デジタルニュースメディアやストリーミングプラットフォームなどにとっては大きな前進となりますが、依然課題も残っています。
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プラットフォームの市場独占を巡る問題
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これまで、アップルの運営するApp Storeで配信されるアプリにおける課金・定期購読は、アプリ内での決済が義務付けられていました。アップルはこの決済に対し、30%(前年の収益が100万ドル以内のデベロッパーは15%)の手数料を課しています。このルールに対しては多くのデベロッパーが以前から不満を持っていました。ゲームアプリ「Fortnite」を配信するエピックゲームズは、手数料を回避するために独自の支払いシステムを利用。アップルは規約違反としてフォートナイトをApp Storeから排除し、訴訟に発展しています。
この一件をきっかけに、 「Coalition for AppFairness」(アプリの公平さを求める連合)という非営利団体が立ち上げられるなどデベロッパーによる反発の動きが大きくなりました。アップルと、同様に30%の手数料を課しているグーグルの2社を規制しようという動きは世界的に強まり、8月12日には米国上院に「Open App Markets Act」という法案が提出されました。この法案では、デベロッパーにアプリ内決済を強制することを禁止する内容が盛り込まれています。
韓国の議会では8月31日、アプリ内決済の強制を禁止する法案を世界で初めて可決。法制化まであと一歩に迫っています。
また、アップルも徐々に譲歩の姿勢を見せており、8月26日に「デベロッパーがユーザーにメールなどでiOSアプリ外部での支払い方法について情報を提供することを許可する」などの妥協案を発表しました(関連記事はこちら)。
日本の公正取引委員会の調査をきっかけに世界で規約変更へ
今回のアップルの発表によれば、規約変更後は、「ユーザーがアカウントを設定または管理できるように、アプリケーション内に自社ウェブサイトへのリンクを含めることが可能」になるとのこと。
対象となるのは、アップルが「リーダーアプリ(reader apps)」と呼ぶ、デジタル版の雑誌、新聞、書籍、オーディオ、音楽、ビデオを配信する一部のアプリです。フィナンシャルタイムズの報道では、Netflix、Spotify、Kindleなどが「リーダーアプリ」に含まれるとしています。また、サブスクリプション制を採用しているニュースアプリも含まれると考えられます。
なお今回の規約変更は、依然からこの問題を調査していた日本の公正取引委員会との合意に基づくものですが、日本だけでなくグローバルに適用されます。また、このアップデートによって公正取引委員会による調査は終了するとのことです。
規約変更は根本的な解決とはならないとの声
今回発表された新ルールについて注目すべきなのは、対象となるのはアップルが独自に「リーダーアプリ」と定義したアプリに限られるという点です。
アプリデベロッパーのSteven Troughton-Smith(スティーブ・トラウトン・スミス)氏は自身のTwitterで、「『リーダーアプリ』かそうでないかを決めるのは開発者ではなくアップルであることに注意が必要だ。そして、アプリ審査での却下や不透明なルールの追加など、アプリの動作に影響を与える手段として、(「リーダーアプリ」という定義を)ひそかに利用するだろう。」と指摘。
また、新規約の対象となるSpotifyのグローバル責任者 兼 法務責任者であるHoracio Gutierrez(ホラシオ・グティエレス)氏も、「Apple社がApp Storeのルールに選択的な調整を加えたことは歓迎すべきことだが、その内容は十分ではない。」とツイートし、前述の「Open App Markets Act」の法制化を待ち望む旨を表明しています。