オリコン株式会社の2021年3月期の売上高は前期比3.4%減の40億3,000万円、営業利益は同3.0%減の10億5,800万円となりました。1967年から刊行してきた音楽ビジネス情報誌「コンフィデンス」を2020年3月30日号を最後に休刊。これによって2020年3月期に2億900万円あった雑誌事業の収入がゼロとなり、売上高の下押し要因となりました。また、市場が縮小し続けるフィーチャーフォン向け事業の売上高が前期比17.0%減少。競争が激しいスマートフォン向け事業の売上高も6.8%減少しました。
■オリコン業績推移(単位:百万円)


ただし、雑誌を休刊したことで利益率は上昇しています。2021年3月期の営業利益率は26.3%。前期比0.1ポイントの上昇です。2022年3月期の売上高は前期比10.7%増の44億6,000万円、営業利益は同16.3%増の12億3,000万円としており、再び成長軌道に乗せる予想を出しています。予想通りに着地すると営業利益率は27.6%となって5期連続で営業利益率を引き上げていることになります。

オリコンは極めて安定的な経営を続けており、2021年3月末時点での自己資本比率は82.7%にも上ります。創業当初はレコードの売上ランキング誌「総合芸能市場調査」を創刊し、音楽のデータベースの提供を事業の柱としてきました。消費者のライフスタイルの変化に合わせ、2000年に入って「ORICON NEWS」などのWebメディアに主力事業を転換しました。そして今、稼ぎ頭は顧客満足度調査などのマーケティングリサーチへとシフトしています。
オリコンは派手なM&Aを仕掛けていません。エンタメ業界の主要なポジションを獲得していることと、ランキングに強いノウハウを持っていることを武器として、自力で事業を立ち上げ、成長させています。この記事では、追い風となっているマーケティングリサーチ市場の動向とともに、オリコンが成功している要因を炙り出していきます。
目次
巣ごもり特需でもメディア事業の売上高は頭打ち
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オリコンの事業は大きく4つに分かれています。
①コミュニケーション事業
②データサービス事業
③モバイル事業
④雑誌事業
①コミュニケーション事業は2つに分かれます。「ORICON NEWS」での広告収入を得るメディア事業が1つ目です。もう1つは顧客満足度調査事業です。これは、2003年に出版した「患者が決めた!いい病院」が発端となって事業化しました。世にある様々なサービスや店舗などの顧客にアンケートを実施し、結果をランキングにまとめるようになりました。近年ではそれを多角的に分析し、「調査・レポート」として提供。ランキングのノウハウを派生させ、マーケティングリサーチへと進出しました。
②データサービス事業は音楽の売れ筋をオリコンランキングにまとめ、データベースとして提供するものです。当初はこの事業が主力でした。
③モバイル事業はスマートフォンやフィーチャ―フォンに音楽配信を行うものです。オリコンは音楽週刊誌「オリ★スタ」を2016年4月4日号を最後に休刊。「コンフィデンス」も休刊したことによって④雑誌事業は消滅しました。
コミュニケーション事業が主力であることには変わりませんが、主役がメディアから顧客満足度調査事業へと移り変わろうとしています。
■事業別売上高推移(単位:百万円)

2021年3月期のメディア事業の売上高は前期比0.3%の増加に留まりました。2020年4月-2021年3月までの「ORICON NEWS」のPV数は、前年比22%増加しました。PV数は緊急事態宣言があった2020年4月から急速に伸びており、巣ごもり需要の影響を受けたことは間違いありません。YouTubeの公式チャンネル数は、2020年3月の登録者数は100万人に届いていませんでしたが、2021年4月に130万人を突破しました。
視聴者を引き付けるメディアになっているものの、肝心の広告収入が頭打ちに。特に得意としていたタイアップ広告の不振に悩まされています。新型コロナウイルス感染拡大によって営業活動が自粛に追い込まれ、企業が広告費抑制に動いたことが影響していると考えられます。旅行や宿泊、外食、公共交通機関の利用が正常化するにつれてタイアップ広告案件も回復すると考えられますが、新常態の経済活動は未知の部分が多く、予測をしづらいのも事実です。
一方、顧客満足度調査事業はコロナに左右されることなく、安定的に成長しています。2021年3月期の売上高は前期比5.0%増の13億7,100万円となりました。メディア事業との差は2,000万円ほどで、2022年3月期は事業別売上高でトップに立つと考えられます。
マーケティングリサーチ市場は拡大とともに寡占化が進む
オリコンは消費者から吸い上げたデータを企業に販売しています。消費者意識が変化するスピードは速く、多様化しています。企業はマーケティングの精度を上げるため、消費者調査や市場調査を活用するようになりました。日本マーケティングリサーチ協会に登録している調査会社の事業売上高は年々増加しています。

また、調査会社の寡占化が進んでいます。つまり、1社あたりの売上高は膨らんでいることになります。オリコンは、これまで積み上げてきたランキングのノウハウを活かす成長産業を見つけることに成功したと言えます。

オリコンは保険や証券会社、塾、結婚式場、ホテル、エステサロンなどの顧客満足度調査を独自に行ってメディアに掲載しています。その結果を企業が利用する場合、オリコンと商標利用契約を結ばなければなりません。オリコンランキングの結果が消費者のブランド選好度を高め、他社との差別化になるのは明らかです。ランキング調査を行い、データベース化してそれを活用する従来のビジネスモデルが、 顧客満足度調査事業に結実しました。それが会社全体の業績を牽引し、オリコンを新たなステージへと導きます。