コロナ禍で傷ついた飲食店や小売店の救済を背景として、一時クラウドファンディングが活況となりました。2020年度のクラウドファンディング国内市場規模は前年度比17.6%増の1,841億7,700万円(矢野経済研究所調べ)となりました。前年度比14.7%減の1,566億2,500万円となった2019年から大躍進しています。その波に乗ったのがクラウドファンディングプラットフォームを運営する株式会社マクアケ。2020年9月期の売上高は前期の2.4倍となる32億2,500万円、営業利益は前期の4倍以上となる5億1,000万円で着地しました。
■マクアケ業績推移(単位:百万円)


しかし、その後マクアケは失速します。2021年9月期の売上高は前期比43.3%増の46億2,100万円となったものの、営業利益は同35.5%減の3億2,900万円に留まりました。これはテレビCMを大量に投下し、広告宣伝費がかさんだことが起因しています。2022年9月期の売上高は前期比34.2%増の62億円、営業利益を同41.3%増の4億6,500万円と予想していますが、営業利益率は2021年9月期の水準とほとんど変化がありません。
■営業利益率推移

実はクラウドファンディングの市場は頭打ちが鮮明になっています。矢野経済研究所によると、2021年のクラウドファンディングの市場規模は 前年度比18.6%減の1,500億5,000万円となる見込みです。これは2019年を4.2%下回る水準です。
■国内クラウドファンディングの新規プロジェクト支援額(市場規模)推移

マクアケの業績は、テレビCMで認知度を上げて流通総額を増やさなければ、売上高の伸長が見込めないことを物語っています。クラウドファンディングブームが終焉を迎える中、マクアケと株式会社CAMPFIREの2台巨頭は、各々が独自の戦略を固め、業績拡大に向けて歩み始めました。この記事は両社の戦略の違いを解説する内容です。
STORESで小売りに参入するマクアケ
両社の戦略の違いは非常にシンプルです。マクアケは購入型を深耕するポジションをとりました。一方、キャンプファイヤーは購入型から融資型、株式投資型まで多角的にカバーする戦略を打ち出しています。
戦略の違いの前に、クラウドファンディングの分類について説明します。クラウドファンディングは大きく3つに分かれています。社会貢献を目的とした純粋な寄付をする寄付型、対価としてモノやサービスを受け取る購入型、利息や配当を受け取る金融型です。金融型は更に3つに分かれています。融資型、ファンド型、株式投資型です。先ほどのクラウドファンディングの市場規模は、すべてのタイプを含んだ金額です。
[MMS_Paywall]

マクアケはこの中でも特に購入型に固執しています。それを如実に物語っているのが、クラウドファンディングで商品化したものを流通させる「応援仕入れサービス」と、ECセレクトショップ「Makuake STORE」です。マクアケは2022年9月期から両サービスに注力する計画です。
仕入れ応援サービスは新商品の売れ行きを見ながら、スーパーや家電量販店、百貨店などの仕入れをバックアップするものです。通常、事業者は新たに作り出した商品を直接小売店などにプレゼンし、流通経路を確保しなければなりませんでした。この営業活動は労力のかかるものであり、製品開発に集中したい事業者にとって悩みの種になっていました。
マクアケを活用することによって商品開発にかかる費用を調達することができる上、商品が世に出る前にプロダクトの認知度を上げることができます。更にマクアケが流通経路の確保をバックアップしてくれることにより、事業者は商品のブラッシュアップや量産化に向けた取り組みに集中することができます。
マクアケはECセレクトショップ「Makuake STORE」も開設し、直接消費者に販売するチャンネルを設けます。
ポイントとなるのは、購入型のクラウドファンディングの利用者をどこまで伸ばすことができるかです。マクアケの流通総額は2021年9月期に前期比46.9%増の215億3,600万円となりました。大幅に増加していることは間違いありませんが、3カ月ごとの推移を見るとテレビCMに頼っている印象が拭えません。
■マクアケ4半期ごとの流通総額推移

2020年9月期第3四半期はコロナ特需で46億3,200万円まで伸長。第4四半期はテレビCMで加速させ、2021年9月期に失速。それを補うように2回目のテレビCMを投下しています。事業を購入型に絞り込んでいるマクアケが流通総額を伸ばし続けるには、クラウドファンディングのシェアを獲得するというよりも、新たに市場を創造しなければなりません。そのためにはテレビCMのようなマス広告が必須となります。
マクアケは2025年に流通総額1,000億円を見込んでいます。しかし、クラウドファンディング全体の2021年度の市場規模が1,500億円程度だったことを考えると、あまりに高すぎる目標です。これを実現するためには今以上の広告費が必要となり、利益を圧迫するのは間違いありません。すなわち今の戦略をとる限り、マクアケは売上高が頭打ちになるか、利益率が下がる可能性が高いのです。
そうなると、M&Aによる同業他社の買収が視野に入ります。マクアケは2021年9月末時点で現金保有額が59億4,900万円となりました。2020年9月末と比較して2.2倍に増加しています。自己資本比率も66.2%で財務状況も安定しています。成長戦略にM&Aは折り込んでいませんが、将来的に大きく動く可能性は捨てきれません。
赤字を掘り続けるキャンプファイヤー
真逆の戦略をとっているのがキャンプファイヤーです。購入型だけでなく、融資型の「CAMPFIRE Owners」、株式型の「CAMPFIRE Angels」を運営しています。2019年11月にDANベンチャーキャピタル株式会社(現:株式会社CAMPFIRE Startups)を買収し、株式型へと参入しました。買収額は3億円程度とみられています。キャンプファイヤーは戦略的にクラウドファンディングの幅を広げてきました。
ただし、5期連続で利益が出ていません。事業の拡大を優先してきた結果と言えます。
■キャンプファイヤー業績推移(単位:百万円)

2020年12月末の段階で利益剰余金は26億9,100万円ものマイナスとなっています。財務体質を改善するため、2020年12月に資金調達を実施し、BASE株式会社や株式会社丸井グループなどから36億円を調達しました。日本経済新聞が2021年1月にキャンプファイヤーが上場準備に入ったと報じましたが、事業展開や調達額を見るとIPOは間近だと考えられます。ただし、金融型のクラウドファンディングは爆弾を抱えていることが多く、上場(または上場維持)は高いハードルとなる可能性があります。
金融型の難しさを露呈したのが株式会社maneoマーケットが運営する「maneo(マネオ)」です。マネオは太陽光発電所や収益物件などに出資する投資家を集めていました。マネオは2018年7月に金融庁から行政処分を受けています。理由は募集時の説明と異なる目的で資金が流用されており、それを見過ごしていたというもの。マネオは2016年6月に太陽光発電所などを開発するグリーンインフラレンディングと業務提携を結んでいました。グリーンインフラレンディングは、マネオを通して集めた資金を親会社であるJCサービスに貸し付け、出資対象外の事業に流用している疑いがあったのです。
2017年12月末時点で貸付残高は103億円に上っており、配当や償還が遅延していました。JCサービスは2021年10月に破産しました。負債総額は153億4,285万円に上っています。
ソーシャルレンディングは表面利回りが10%前後に設定されており、リートやETF、投資信託などの金融商品を購入するよりも高利回りが期待できます。その分、資金も集めやすいですが目的外に流用されるなどの不正が横行しやすいのです。法整備が追い付いていないために監査体制も弱く、元本の未償還や遅延が頻繁に起こります。上場企業でこうした問題は許されません。キャンプファイヤーが事業を拡大する限り、徹底的な管理体制が求められます。万が一、不正が発覚した場合、キャンプファイヤーの上場は泡と消えるでしょう。高いリスクを背負っていると言えます。
計画通り上場できれば、流通総額を増やしやすいキャンプファイヤーが有利だと予想できます。高いハードルをクリアできるかどうかが一番の課題であり、注目するポイン