電子コミックのレンタル「Renta!」を運営する株式会社パピレスの業績に陰りが見え始めました。2022年3月期第2四半期の売上高は前期比11.4%減の110億500万円、営業利益は73.1%減の3億2,800万円となりました。2022年3月期の売上高は242億1,500万円で、前期比4.6%減となる予想です。
■パピレス業績推移(単位:百万円)


パピレスは2022年3月期に「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」を適用するため、前期との比較はできないとしています。しかし、同じくマンガの電子書籍販売サービス「ebook」を運営する株式会社イーブックイニシアティブジャパンも同様の会計基準を適用しますが、2022年3月期の売上高は13.2%増(適用しない場合は前期比20.2%増の360億円)と予想しており、パピレスの業績は鈍化しているといえます。
■イーブックイニシアティブジャパン業績推移(単位:百万円)


売上高40%増という驚異的なスピードで成長してきたパピレスは、長らく電子書籍分野でも成長著しい企業として一目置かれた存在でした。その成長神話が終焉を迎え、パピレスは新たな道を模索するステージに入った可能性があります。この記事は、パピレスが失速した要因について分析する内容です。
獲得単価を下げて順調に会員を獲得
「Renta!」は2007年4月に誕生した電子書籍のレンタルサービスです。漫画、雑誌、ライトノベル、実用書など様々な書籍を扱っていますが、メインは漫画です。特にBL(ボーイズラブ)分野に強みがあり、女性ファンが多いことが特徴です。2015年9月に早くもスマートフォンに特化した縦読み機能を搭載しており、ユーザー視点に立って開発を進めてきました。
「Renta!」が成長するには2つのドライバーが必要です。1つは新規会員を獲得すること。もう1つは獲得した会員が有料サービスを利用する機会を増やすことです。
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パピレスはお笑い芸人のロバートの秋山さんを起用したテレビCMを長年放映し、認知度を高めてきました。最近では女優の古川琴音さんや俳優の神木隆之介さんをキャスティングするなど、利用者のすそ野を広げようとしています。2021年3月期の広告宣伝費は67億6,300万円で、売上高の26.6%を占めています。イーブックイニシアティブの2021年3月期の広告宣伝費は11億4,400万円、売上高に占める割合は3.8%です。「Renta!」は広告宣伝費に多額の費用を投じています。
問題はそれが新規ユーザーの獲得に繋がっているかどうかです。
パピレスは2017年2月に300万、2017年12月に400万、2020年11月に700万会員を獲得したと発表しています。およそ11カ月かけて100万会員を獲得しており、そのペースは大きく変わっていません。発表された数字をもとに筆者がグラフ化したものが下です。このまま成長すれば2022年3月末に852万人を獲得する見込みです。

このグラフをもとに、投下した広告宣伝費で何人の会員をいくらで獲得したのかを計算します。パピレスが2021年4月から9月に計上した広告宣伝費は36億2,500万円でした。この間に獲得した会員数は56万4,000人です。1人当たりの獲得単価は6,425円となります。前年はどうだったでしょうか。
2020年4月から9月の間に投下した広告宣伝費は35億4,100万円でした。獲得した会員数は51万4,000人です。1人当たりの獲得単価は6,885円となります。2021年は獲得単価が下がっています。
ドライバーの1つ目。会員を獲得することには、少なくとも前年と比較すると成功していると言えます。
会員が「Renta!」に使う金額は20%以上減少したか?
ドライバーの2つ目、獲得した会員が「Renta!」で消費する金額はどうでしょうか。
2021年4月から9月までの会員数の平均値は779万人、売上高は110億500万円でした。半年間で1会員が使用する金額は1,433円ほどと推定されます。前年同期(2020年4-9月)の会員数の平均値は669万人、売上高は124億2,400万円で1会員当たりの利用金額は1,878円となります。2021年の半年間の課金額は前年と比較して23.8%減少していることがわかります。
パピレスは2022年3月期通期の売上高を242億1,500万円と予想しています。2022年3月期の1人当たりの課金額が3,037円、2021年3月期の課金額は3,694円と推定されます。通期では17.8%の減少です。
パピレスは売上高の減少要因として、海賊版サイトにユーザーが流れたことを挙げています。2021年11月、集英社が海賊版サイト「漫画BANK」の運営者の氏名などを明らかにするよう米国裁判所に開示命令を出した通り、メディア各社がこれを問題視していることは間違いありません。しかし、海賊版サイトの影響だけではイーブックイニシアティブジャパンの売上高が落ちていないことの説明ができません。また、「Renta!」の会員自体は順調に獲得できていることからも、海賊版サイトに大量のユーザーが流れているとは考えづらいです。
パピレスは、ユーザーが以前のように課金しなくなったという根本的な問題を抱えている可能性があります。
「Renta!」の課金額が減少するという事象はもっと前から観測されていました。先ほどの計算式を当てはめると、2019年3月期の課金額が3,980円、2020年3月期が3,996円、2021年3月期が3,694円となります。2021年3月期から潮目が変化していたのです。

パピレスは今回の売上減が一時的なものであり、2023年3月期からは再び成長軌道に乗ると説明しています。しかし、課金額を高めるための具体的な取り組みについては示されていません。既定路線の枠に収まらない新たな戦略が必要とされているのかもしれ