メディア界のニュースや見解を紹介している「Media Voices」と「What’s New In Publishing」は、2021年のメディア業界の動向をまとめたレポート「Media Moments 2021」を発表しました。前回ご紹介した「ニュースレター」編に続き、今回は、サブスクリプション(新聞や雑誌などの定期購読)についての見解をご紹介します。
昨年は、コロナ禍での世界的なロックダウンにより、多くの人々が重要な情報を信頼できるニュースソースに求めるようになったため、サブスクリプションビジネスを展開する出版社では、予想外の登録者数の増加が見られました。今年は、多くの国が復興への道のりを歩み始めたことから、日常生活が徐々に戻ってくる中で、どのように購読者を維持していくのかに注目が集まっているとのことです。
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既存顧客の維持
米国の人気雑誌は、このような危機的状況でも発行部数の95%を維持しており、印刷版とデジタル版の読者数の増加によって「Vanity Fair」、「Vogue」、「The New Yorker」などは過去12ヶ月の間も収益を伸ばしているとのことです。雑誌ブランド上位50社では、印刷版の購読者数は7%減少しましたが、デジタル版の購読者数は過去2年間で70%も増加しました。しかし、紙媒体の新聞の状況はあまり芳しくないようで、米国の大手新聞社の上位25社は、コロナ危機が始まって以来、平日の印刷部数が20%も下がっており、以前から下降傾向にあった部数が、ロックダウンによって更に減少したと述べられています。
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デジタルニュースに精通した出版社では、緩やかではあるものの購読者を増やし続けている出版物もあり、「The Atlantic」の有料読者数は、2021年8月までの1年間で28万人以上増加し、現在の総発行部数は833,410部となっており、164年の歴史の中で最も多くなっているとのことです。CEOであるニコラス・トンプソン氏は、値引きをすることなく有料読者が急増したと述べており、購読者ごとの平均価値は、2019年前半から45%という驚異的な伸びを示しているとのことです。アトランティック社が次に注目しているのは、購読者数を増やすための手段としてのニュースレターライターで、2021年末、9人の有名ライターと新しいプログラムを契約したと明かしています。
英国雑誌「The Economist」は、9万人の新規購読者が加わったことで、1年での増加数は過去最大となり、2021年の夏に112万人の購読者を達成したとのこと。これらの新規購読者の大半は、デジタル専用のようです。一方で、ブルームバーグ社は目標を達成できなかった出版社の1つで、2021年末までに40万の購読者数を達成すると予想していましたが、CEOのジャスティン・スミス氏はこれが未達成で終わることを認めています。
サブスクリプションを強化するプラットフォーム
TwitterやFacebookなどのプラットフォームは、サブスクリプション(定期購読)サービスを展開する上で不可欠であると述べられています。Twitterは、月額2.99ドルで、ツイートの取り消しや、広告なしの記事を見ることができる有料サービス「Twitter Blue」を米国で発売しました。また、ニュースレタープラットフォーム「Substack」は、11月に有料会員数100万人を達成したことを明かしています。Substackは、お気に入りの作家のコンテンツに直接お金を払いたいという視聴者の意思を示す意味で、意義深いものとなっている、とレポートでは述べられています。
これに負けじと、Facebookも独自のニュースレター配信サービス「Bulletin」を開始し、ライターが購読者から料金を受け取ることができるようになり、また、アップル社はポッドキャストの有料配信を開始しました。
今後の展望について
定期購読に依存している出版社の大半は、コンバージョン率を向上させ、既存の購読者についてより深く知るために、データ分析に注目しているようです。最近の分析によると、ローカルニュースのデジタル購読者の約半数は、月に1回以下しかウェブサイトを訪れない読者=「ゾンビ」であるとのこと。これらの読者たちは、現時点では出版社にとってそれなりの収入源であるかもしれませんが、将来を築くための基盤としては弱い存在です。そういった「ゾンビ」をいかに惹きつけるかが、持続的な成長の鍵であると指摘しています。
また、今のところ、読者はサブスクリプションサービスに満足しているようで、実際に一部のコンテンツでは、有料であるかどうかにかかわらず、それらを支援する傾向が強まっているようです。Substackのライターであるジャッド・レガム氏は、昨年3月にコンテンツのペイウォールを完全に廃止。コンテンツにアクセスするためではなく、レガム氏の活動を支援するために支払いを求める形となりましたが、購読者数に目立った変化はなかったとのことです。その代わりに、現在はコミュニティ形成のためのツールや、購読者限定の特典サービスを充実させることに焦点を当てています。