メディア界のニュースや見解を紹介している「Media Voices」と「What’s New In Publishing」は、2021年のメディア業界の動向をまとめたレポート「Media Moments 2021」を発表しました。その中で、現在のメディア業界において、ニュースレターやメールマガジンがいかに中心的な役割を果たしているかについて指摘しています。レポートでは、出版社はメールマガジンを利用して読者とのエンゲージメントを促進し、ウェブサイトへのトラフィック数を増やし、そこから収益化に繋げていると述べています。
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高まる「ニュースレター」への関心
レポートでは、ニュースレターが収益の多様化に加え、自社のWebサイト訪問者が何を求めているかを見抜く上でも主要な役割を果たすと述べられています。2021年、Substackなどのニュースレタープラットフォームを利用して、著名人やジャーナリストらがニュースレタービジネスを立ち上げました。元ザ・ヴァージ編集者のケイシー・ニュートン氏は、同メディアを辞めてからわずか1年で、無料購読者リストを2万4,000人から4万9,000人以上に増やすことに成功したとのことです。
Media Voicesは、パンデミックが読者のニュースレターへの関心を高めたと指摘しています。マーケティングおよび出版業界の上級幹部200人を対象としたIndustry Pulseの調査では、出版社やマーケティング担当者の87%が電子メールに積極的に投資し、94%が2021年に電子メールプログラムの規模を拡大すると述べたとのことです。
ライターの奪い合い
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2021年の終わりにかけて、記者や執筆者たちが会社を辞めて独立していくのを目の当たりにした大手出版社は、自社のニュースレターサービスを強化したり、個人のクリエイターを自社ブランドの傘下に入れたりといった戦略を取っています。
自社のスタッフが他のプラットフォームでニュースレターを制作することを嫌った米「ニューヨーク・タイムズ」は、代わりに同紙のニュースレターでコンテンツを発信することを奨励。加えて、独立したニュースレターライターをスタッフとして迎え入れました。
「アトランティック」は、既にビジネスを成立させている独立系ニュースレターライターに対し、給与とは別に購読料の一部を支払うことで、読者ごと取り込むという手法を取りました。
英「テレグラフ」の取り組み
2021年にデジタル有料会員数を30%増加させ、10月に50万人を達成したイギリスの新聞「テレグラフ」は、コンバージョン率を上げるため、ニュースレターのメニューをあえて減らしているとのことです。
同社のニュースレターは、同社のデジタル成長戦略の中心的な役割を果たしており、有料会員に転換する登録ユーザーの第一の供給源となっていると述べられています。ニュースレターによる登録者は、平均的な購読者と比較して、3ヵ月後の保持率が30%、12ヵ月後の保持率が50%以上向上しているとのこと。テレグラフのニュースレターチームは、新規購読者を惹きつけるためにメールの選択肢を増やすのではなく、より少数の、より焦点を絞ったニュースレターの方が実際に購読者数をより早く伸ばすことができると考え、数を減らしています。
来年の動向について
Media Voicesは、今後ニュースレターのプラットフォームが普及することで、個人によるニュースレターの作成が促進されると予想。フェイスブックとグーグルもニュースレターの分野に挑戦しようとしてるものの、今年の1月にニュースレター配信サービス「Revue」を買収したツイッター社が、ソーシャルネットワークの中で勝利を収めるのではないか、と指摘しています。
また、アップルがメールのプライバシー設定を変更したことで、ニュースレターの測定基準や収益に支障をきたすのではないかと言われていましたが、ほとんど注目されませんでした。この変更によってEメールのトラッキングに焦点が当てられたことで、長期的には、ニュースレター開発におけるパーソナライゼーションの役割が強化されることになるかもしれない、と指摘しています。
レポートでは最後に、今後も広告市場の回復に伴い、ニュースレターが広告媒体として発展することは間違いないものの、ニュースレターの最大の収益要因はこれからも購読者向けの商品自体にあるだろう、と述べています。