パブリッシャーはポッドキャスト活用で新時代を築けるか・・・レポート「Media Moments 2021」

メディア界のニュースや見解を紹介している「Media Voices」と「What’s New In Publishing」は、2021年のメディア業界の動向をまとめたレポート「Media Moments 2021」を発表しました。前回の動画編に続き、今回はオーディオ編をご紹介します。

アップル社のポッドキャスト

世界中で市場調査やデータ分析としているYouGovの調査によると、ポッドキャストのリスナーの83%は、ポッドキャストを利用するために何らかの支払いをする可能性は「あまりない」または「まったくない」と答えたようですが、それでもパブリッシャーは試行錯誤を続けています。

以前は、有料ポッドキャストの提供に伴う複雑さが大きな足かせとなっていましたが、アップル社が夏に「Apple Podcasts Subscription」を発表したことで、状況は変化しました。発売当初はバグやデザイン上の欠陥に悩まされたようですが、現在では最も人気のあるポッドキャストのプラットフォームになり、広告なしバージョンやボーナスコンテンツ、早期アクセスなどの追加特典をパブリッシャーに提供することができるようになりました。このアップル社のポッドキャストの利用には、19.99ドルのアクセス料に加え、初年度は収益の30%、次年度以降は15%を支払う必要があります。

米国のNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)は、PRX社と共同で、アップル経由の有料会員に広告なしバージョンのポッドキャストを提供すると発表しました。これによってリスナーは、広告なしバージョンの月額利用ができ、また地元のNPR局の会員になれば、すべてのNPRポッドキャストに広告なしでアクセスすることができるとのことです。

また、ドイツで週刊発行される全国新聞「Die Zeit」は、夏にアップル社のポッドキャストを有料化。音声記事を追加し、プラットフォームを介して19の番組へのアクセスを月額5.99ユーロで提供しているとのことです。

その他のプラットフォームに関するニュース

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アップル社に続いて、Spotifyも11月に有料ポッドキャストをリリースしました。Supporting Cast、Acast、Supercast、Memberfulなどの既存のプラットフォームと組み合わせて、一箇所で公開できるようにするオープンアクセス技術の展開にも取り組んでいるようです。

また、2021年にはソーシャルオーディオアプリの「Clubhouse」が急成長。2月には週間アクティブユーザー数が1000万人に達しましたが、Androidアプリのリリースが遅れ、米国外のユーザーの獲得が難航しました。

TwitterはClubhouseの人気を受け、5月に独自のソーシャルオーディオ機能「Spaces」をリリースしました。Clubhouseの失敗から学んだことで、機能はより良く開発されており、その結果、ClubhouseのNFLとの独占契約を奪い、シーズン中に20のNFL公式Spacesが予定されているとのことです。

このオーディオの流れに遅れをとっていたフェイスブックは、6月にポッドキャスト製品とオーディオライブアプリの展開を開始。ポッドキャストでは、ホストが自分の番組のRSSフィードをページにリンクさせ、新しいエピソードのニュースフィード投稿を自動的に生成することができるようになったほか、Facebookアプリ内で直接ポッドキャストを再生できるようになりました。

Substackは7月、「Booksmart Studios」という新しいポッドキャストネットワークの立ち上げに出資し、購読者限定のポッドキャストを提供することを発表しました。Substackのハミッシュ・マッケンジー氏は、「購読モデルであれば、何百万人ものリスナーがいなくてもポッドキャストを持続可能にできる」と語っています。

また、YouTubeのポッドキャスト人気は続いており、特に米国ではそれが顕著のようです。パンデミックの影響で、動画ポッドキャストを作成・配信するためにZoomのようなツールを利用するポッドキャスターが増加したとのことです。

その他のオーディオについて

音声合成や音声記事は、パブリッシャーにとって大きな収穫をもたらし続けており、2021年の春には、「ワシントン・ポスト」が、文章をリアルな音声に変換するサービス「Amazon Polly」を自社の記事で展開しました。また、米国の出版社「マクラッチー」は、プレロール広告やミッドロール広告を使ったキャンペーンを実施し、音声記事の収益化方法を検証しているとのことです。

ニューヨークタイムズ社は、10月に「ニューヨーク・タイムズ・オーディオ」という実験的なアプリを公開しました。このアプリでは、ニューヨークタイムズのポッドキャストや音読サービスを提供するだけでなく、バズフィード、ニューヨーク・マガジン、ローリングストーンなどのパブリッシャーから厳選された音声記事も提供される予定です。

メディア編集者のマーク・スタインバーグ氏は、「ニューヨーク・タイムズが独立したオーディオ製品を作り、リピーターを獲得することに成功すれば、オーディオ業界の新時代を築くことができるだろう」と指摘しています。第三者のプラットフォームにあまり依存せず、ポッドキャストの選択肢も圧倒的に多いことから、自社で厳選した音声を消費者に提供できれば、非常に興味深いものとなると予想されています。

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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