ユーザベースは9日、投資ファンドのカーライルによる株式公開買付(TOB)を通じた完全子会社化、上場廃止について、取締役会で賛同意見を表明したと発表しました。TOBは10日から開始され、12月22日までが応募期間。9日の終値は871円に対して買付価格は年初来高値を上回る1500円となっています。
同社は2016年10月上場。ピークの2020年10月には4000円を超える株価を付けた事もありましたが、特にグロース市場の低迷など株式市況の影響もあり、先月には年初来安値606円を付けていました。1500円という株価は直近の株価からすると大幅なプレミアムを付けていますが、以前からの株主にとっては厳しい価格とも言えます。
カーライルによる完全子会社化を目指した理由についてユーザベースは、「長期視点で、経済情報強化等の投資を前倒しで行えること」「起業家精神と事業拡大を両立する経営システムを構築する専門性と執行力を有すること」「カーライルの投資先のZoominfoやDealogicなどのグローバル経営の知見及びネットワークが活用できること」の3点を挙げています。
ユーザベースの主要事業はNewsPicksを中核としたメディアと、SPEEDAやFORCASなどのSaaSで構成されています。いずれも経済情報が中核となっていて、個人の成長とビジネスの成長を両面で支援して「誰もがビジネスを楽しめる世界」の実現を掲げています。メディアとSaaSの両方の成長を実現してきた同社ですが、米Quartzの買収と海外展開が頓挫してからは、SaaSへの投資がより目立つ印象がありました。
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とはいえ、NewsPicksの独自の世界観やコミュニティ、質の高い情報提供によって培ってきたネットワークやブランドが、SaaSのビジネス成長にも直結してきたことは間違いありません。その意味で、SaaSが伸び続けているにも関わらず、NewsPicksのARR(年換算の継続売上)が2020年6月からほぼ横ばいで推移しているのは気になる点です。「長期視点で、経済情報強化等の投資を前倒しで」という言葉には、ここの強化も含まれているものと思われます。元編集長の佐々木紀彦氏が率い、大型の資金調達を受けながら成長するPIVOTとの競争も念頭にありそうです。
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同社は2022年12月期通期の業績予想を下方修正し、主要因はNewsPicksの売上高未達だと述べています。単体ではQ3までで1.8億円の赤字(EBITDAベース)となっていて、来期での黒字化を必達とするとしています。
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カーライルによる完全子会社化以降はカーライルから新たな取締役を指名する方針ですが、一方で現状の経営体制を維持する方針で、創業メンバーの稲垣裕介氏と、佐久間衡氏によるCo-CEO体制が継続されそうです。