英テレグラフの買収に20社以上が関心、新聞買収に向けられる関心の背景は?【Media Innovation Weekly】10/23号

英国を代表する日刊新聞であるデイリー・テレグラフ(Daily Telegraph)と、雑誌のスペクテイター(Spectator)の売却プロセスが開始されました。

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英テレグラフの買収に20社以上が関心、新聞買収に向けられる関心の背景は?【Media Innovation Weekly】10/23号

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今週のテーマ解説 英テレグラフの買収に20社以上が関心、新聞買収に向けられる関心の背景は?

英国を代表する日刊新聞であるデイリー・テレグラフ(Daily Telegraph)と、雑誌のスペクテイター(Spectator)の売却プロセスが開始されました。両紙は2004年にバークレイズ兄弟が買収しましたが、買収資金の返済に苦しみ、債権者であったロイズ銀行が経営権を取得。売却に向けて動き出していました。

デイリー・テレグラフは1855年に創刊。タイムズやガーディアンと並んで英国を代表する高級紙と称されます。論調は保守中道で、やや右寄り、元首相のボリス・ジョンソンがテレグラフの出身である事でも知られます。

今回の売却では2004年に入札で破れた企業などや個人など多数が関心を示しています。ドイツのメディア・コングロマリットであるアクセル・シュプリンガー、デイリー・メールのオーナー家のジョナサン・ハームズワース氏、同じく新聞チェーンのナショナル・ワールド、ロンドンを拠点とするヘッドファンド創業者のマーシャル・ウェイス氏(現在取締役も務める)らが名乗りを挙げ、スペクテイターにはニューズ・コーポレーションも興味を示しているようです。

新聞のビジネスは世界的に苦戦していると伝えられますが、なぜこのように多くのプレイヤーが手を上げているのでしょうか?

政治に大きな影響

ガーディアンのジェーン・マーティソン氏はテレグラフの持つ政治的影響力について触れました。前述のようにボリス・ジョンソンがテレグラフから首相にまで上り詰めたように、同紙は保守党に強い影響力があると言われます。

オーナーになれば、経営と編集の独立という建前は当然あるものの、保守の論調を決める立場となり、有力な政治家とも交友関係を結ぶ事ができます。

さらに来年には英国で総選挙が予定されています。選挙に少なからず影響を与えられるだけでなく、もし保守党が敗北した場合、新しい党首を選ぶ際にも影響力を発揮することができます。

当然のことながら階級社会とも言われる英国で、新聞社オーナーという地位の高さも挙げられます。前オーナーのバークレイズ兄弟は小売や不動産で成功した億万長者でした。こうした成功者のトロフィーとしての一面もあります。

ビジネスとしての価値はいかほどか?

他方、実際のビジネスとしてはどうでしょうか? 新聞の発行部数は世界的に減少傾向にありますが、デジタルのサブスクリプションの成功によって切り替えしているメディアもあります。

テレグラフは上手くやっていると主張しています。8月に同社は有料購読数が100万を突破したと述べ、うち70%がデジタル版であるとしました。2022年の売上高は2.5億ポンド(約460億円)、EBITDAは4680万ポンド(約85億円)でした。2023年もこれを上回る予想をしています。

今回の売却額は7億5000万ポンドを上回ると予想されていて、それと比較すると約16年分という一般的に考えると非常に高い金額ではありますが、デジタルシフトが進んだ新聞は、安定的な利益が出せる資産になったとも言えます。

競合のタイムズやDMGTも数千万ポンドの利益を計上していて、ガーディアンも寄付モデルで成功を収めています。米国ではワシントン・ポストのレイオフも報じられていますが、英国は根強い新聞購読者が存在する良質な市場とも考えられます。

ある新聞社幹部は「もし5年前にテレグラフを買っていれば、今頃2倍の値段になっていただろう」とガーディアンに対して述べたということです。

果たして日本では

日本でも地方のラジオ局のオーナーが代わるというニュースが散見されるようになってきました。元ライブドアの堀江貴文氏は北九州のCROSS FMを、グロービズ大学院の堀義人氏は茨城放送を買収して経営に乗り出しました。

新聞社はまだこうした動きはありませんが、加速度的に紙の新聞の部数が減少する中で、地方からオーナーチェンジの流れが出てくる可能性もあります。その価値をどう捉えるか、気になるところです。

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編集部からひとこと

ブロックチェーンゲーム(BCG)の『Eternal Crypt - Wizardry BC -』を始めました。RPGの古典である「ウィザードリィ」をドリコムがBCGに生まれ変わらせました(いまウィザードリィの版権はドリコムが持っています)。BCGは「稼ぐ」がメインで、「ゲームとしての面白みは・・・」という風潮がありましたが、これは中々の出来。ポチポチゲーではあるのですが、地味にハマって、時間を浪費してしまいます。400ドルでNFTを買ってしまったので、回収できますよーに(祈)

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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