「Business Insider」の原点回帰に見るメディアブランドのあり方【Media Innovation Weekly】11/20号

今のメディアの厳しい環境化では、無分別な肥大化ではなく、自らの強みに集中する必要がある、それを考えさせられるニュースが入ってきました。

特集 ニュースレター
「Business Insider」の原点回帰に見るメディアブランドのあり方【Media Innovation Weekly】11/20号

おはようございます。Media Innovationの土本です。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュースレター「Media Innovation Newsletter」 では毎週、ここでしか読めないメディア業界の注目トピックスの解説や、人気記事を紹介していきます。ウェブでの閲覧やバックナンバーはこちらから

会員限定のコミュニティ「イノベーターズギルド」を開設しました。Discordにて運営しています、こちらからご参加ください

★アプリも提供中です →AppStore/Google Play

今週のテーマ解説 「Business Insider」の原点回帰に見るメディアブランドのあり方

今のメディアの厳しい環境下では、無分別な肥大化ではなく、自らの強みに集中する必要がある、それを考えさせられるニュースが入ってきました。ドイツのアクセル・シュプリンガー傘下のインサイダー(Insider,Inc.)は、運営するメディアの名称を「Business Insider」に戻すと明らかにしました。

同メディアは2007年に「Silicon Alley Insider」(シリコンアレーはニューヨークのスタートアップ集積地を示す言葉)としてヘンリー・ブロシェット氏がスタート。スタートアップやテクノロジー報道を中心に人気を博しました。2年後には「Business Insider」としてビジネス全般に領域を広げました。2015年にアクセル・シュプリンガーが買収した後、総合ニュースメディアへと舵を切り2021年には「Insider」という名称に変更していました。

この間の浮き沈みはまさにデジタルメディアのこの10年の波を体現するかのようです。専門性の高いメディアとしてスタートして知名度を上げると、キュレーションスタイルでボリュームを増やし、分かりやすい文体で若い読者を捕まえ、ソーシャルでの拡散力を得る事で、ビジネスに限らない一般メディアへと脱却し、大量のトラフィックを集め、広告収益での拡大を図りました。一方で、2010年代後半からコロナにかけて、広告依存の厳しさが明確になると、有料のサブスクに注力するようになり、自然と専門性の低い一般報道のウェイトが減っていきました。

サブスクは必ずしも成功とは言えなかったのか、昨年後半には無料コンテンツにも注力する方針を示し、大幅な配置転換も行われたということです。従業員との軋轢も鮮明になり、労働組合は14日間にも渡るストライキを敢行しました。こうした状況下で、創業者のブロシェット氏がCEOを退任し(ただし取締役会長として残る予定)、さらに名称を「Business Insider」に戻すという決定が行われました。

「元の名前に戻したのではなく、『Business Insider』という名前にしたのだ」とグローバル編集長のニコラス・カールソン氏は声明で述べました。これは強がりのように思いますが、上手くいかなかった時に原点回帰するのは悪い事ではありません。自分たちが最も得意なこと、ブランドが想起させる価値を提供することに集中するのは、こうした難しい状況では特に求められる判断ではないでしょうか。

カールソン氏は「Business Insiderは万人向けの一般的なニュースサイトではない」と述べ、「急速に進化する世界で優位に立つための洞察を提供し、ビジネス・テクノロジー・イノベーションなど、わたしたちの未来を形作る分野を深く掘り下げる」としました。「グローバル市場と経済を牽引するトレンドとイノベーションをより深く掘り下げるストーリーであり、テクノロジーによって最も変貌を遂げるセクターに焦点を当てます」

新しくCEOに就任するバーバラ・ペン氏は「Business Insiderとしての未来は、ビジネス、テクノロジー、イノベーションが私達の重心であることを再確認します。私達は自分たちのルーツを受け入れ、これまで最善を尽くしてきたこと、つまり、魅力的で予想できない、常に役に立つストーリーテリングに焦点を当てます」と述べています

メディア企業は困難な局面にあります。今年のメディア企業でのレイオフは10月時点で2万人に上ったとチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスは調査結果を発表しました。 G/O Mediaがイザベルを休刊し、コンデナストが270人をレイオフ、ワシントン・ポストは240人の希望退職を募りました。コロナ初期のような公的な支援はもはや無い中で、立て直しは急務です(アクシオスの報道)。

最近発表されたグーグルやメタを始めとするプラットフォーム企業の決算によれば、広告は回復しているようです。これはメディア企業の実感と外れたものであると思います。つまり、メディアに流れる広告が減っている(市況全体ではなく)という事です。この困難な現実を直視し、事業を立て直す必要があります。その鍵はやはり、自らの強みに焦点を当て、ブランドへの期待を体現する事ではないかと思います。何のためにこれをやっているのか、という原点に立ち返るのは思考のスタートとして有益ではないでしょうか。

今週の人気記事から OpenAIのサム・アルトマンが解任

週末はこの話題で一色でしたね。ChatGPTなどのプロダクトでAIをリードするOpenAIで、CEOのサム・アルトマン氏が解任されました。その理由は曖昧ですが、ビジネス優先のアプローチと、エンジニアリング・安全性重視のアプローチでの対立があったと見られます。記事は土曜日掲載ですが、日曜日にはアルトマン氏のカムバックに向けた動きが表面化しました。このニュースレターが皆さんに届く時には結論が出ている可能性もあります。続きを読む

1.ジモティー、運用型広告配信プラットフォーム「ジモティーAds」を開始

2.中京テレビと三井物産グループのエクオルが「StudyJam」提供へ 独自のプロセスでZ世代のファン化をサポート

3.OpenAI創業者のサム・アルトマン解雇、ビジネス拡大とAIの安全性の対立か?

4.スマートニュースとドコモが業務提携、新たなマーケティングソリューション開発へ

5.オールアバウトの2Q業績、検索影響でPVが減少、広告も苦戦

6.生成AIとCM好感度を組み合わせたプロンプトエンジニリング サービスの概念実証を開始

7.訴求力の高い商品を展開するECサービス「livedoorショッピング」が2024年春スタート

8.スポーツジム、フィットネスクラブ事業者向けにドコモデータを活用した広告メニューを提供

9.リーガルテックグループのJAPAN MADE社提供の「HyperJ.ai」がフェイクニュース対策として活用可能と発表

10.朝日広告社とCM総合研究所がプロンプトエンジニアリングサービスの概念実証 生成AIで好感度の高いCM企画に

会員限定記事から ジモティーが運用型広告プラットフォーム「ジモティーAds」を展開

地域情報サイトのジモティーが、独自の運用型広告プラットフォーム「ジモティーAds」をスタートしました。これまでは外部の広告ネットワークを活用していましたが、より精度の高いターゲティングを求める広告主のために、ジモティー独自のデータも活用して配信できる仕組みを整えました。自らの媒体の価値を高めようとする取り組み。独自にセールスする難しさはあるでしょうが、成否を見守りたいところです。続きを読む

1.破産したVICEその後・・・ニュース番組を終了し、新たなレイオフ、事業を2部門に統合

2.ブランドセーフティがニュースメディアを殺す【Media Innovation Weekly】11/13号

3.データが教えてくれるニュース回避という課題、それを避けるためにコンテンツの多様化に取り組んだ事例

4.【メディア企業徹底考察 #133】Web調査アスマークがスタンダードに上場、労働集約型のビジネスモデルを脱せるか?

5.ニューヨーク・タイムズ、第3四半期決算を発表・・・総契約者数1,000万人を達成

6.【メディア企業徹底考察 #134】「推しの子」効果でKADOKAWA映像事業の利益が42倍に

7.英リーチが再びリストラ・・・450人が解雇され、一部の地域サイトは閉鎖

8.Airbnb、Gameplanner.AIを2億ドル弱で買収・・・Siriの創設者によるAIスタートアップ

9.CBS、ディープフェイク等AIによる誤情報を調査するファクトチェック・ユニットを発足

10.フォーブス、Google Cloudを活用した新しいAI検索ツール「Adelaide」を発表

編集部からひとこと

アジアプロ野球チャンピオンシップで日本が二連覇!スワローズファン的には吉村投手の勝利が嬉しい(タイブレークから1点取られちゃったけど)。殆ど見てなかったですが、この季節まで野球があるのはいいですね。

《Manabu Tsuchimoto》

関連タグ

Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

特集