米国で再びTikTok禁止に向けた動き、選挙を睨んだ動きか【Media Innovation Weekly】3/18号

今週のテーマ解説 米国で再びTikTok禁止に向けた動き、選挙を睨んだ動きか

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今週のテーマ解説 米国で再びTikTok禁止に向けた動き、選挙を睨んだ動きか

米国でのTikTokの禁止を巡り急展開です。

米国企業に売却がなされなければ、TikTokの利用を禁止するという法案が僅か4日の審議で下院を通過しました。バイデン大統領も支持している事から上院での審議を経て可決される可能性もあります。

この法案はアメリカ大統領選挙のある年ということもあって、中国に対して強い姿勢を見せたい議会の圧倒的な支持を受けていますが、様々な批判も受けています。どんな論点があるのか見てみましょう。

言論の自由を大きく損なう

法案は「ユーザーがコンテンツを共有するための大規模なプラットフォーム」で「外国の敵によって制御されている」ものに対して、大統領が「国家安全保障上の脅威」と判断した場合、禁止する事が出来ると定めています。もしくは6ヶ月の猶予が与えられ、売却先を探す事もできます。

TikTokが明らかにターゲットにされている一方、拡大の懸念が拭えません。サンタクララ大学のインターネット法教授であるエリック・ゴールドマン氏は「この法案の対象者が誰なのか、実際には誰も知りません。私達がTikTokに焦点を当てているのは明確な最初のターゲットだからですが、実際には誰の事を言ってる法案なのか分からず、影響範囲は不明確です」とギズモードに対して述べています。

憲法修正第一条に述べられている言論の自由は米国において特別視されています。また、その姿勢は米国のソフトパワーにおいて重要な要素となっています。民主党のサラ・ジェイコブス下院議員は次のように述べています

「このような前例のない一歩を踏み出すのは、世界中での米国の評判を損なう事になるでしょう。言論の自由を制限するフリーパスを持ちながら、他国に民主主義的な価値観を押し付ける事はできません。米国は過去にソーシャルメディアやプラットフォームの禁止や検閲を避難してきました。」

「そして、生活、ニュース、コミュニケーション、エンターテイメントのためにTikTokを利用している1.5億人のアメリカ人の自由を踏みにじる事になります。全てのアメリカ人は、どこでどのように自分自身を表現し、どのような情報を消費したいかを自分で決める自由を持つべきです」

安全保障への脅威はどこまでか?

TikTokに限らず、中国のウェブサービスは政府に対して情報を開示する義務を追っていて、利用情報が政府によって組織的に利用されている懸念を拭う事ができません。

米国政府は既に昨年初頭に政府機関が利用している端末からTikTokを削除するよう命令していて、先週には情報機関が議員への非公式なブリーフィングの中で、選挙への介入を含む、リスクについて説明したということです。

国産プラットフォームだから安心というわけではありません。2016年の選挙でロシアはFacebookグループを大規模に利用したと言われますし、元TwitterのXでもハマスがTwitter Blueを契約しながら誤った情報を拡散している事が分かっています。

買い手はいるのか?

法案では6ヶ月以内に売却をするか禁止されるか、という事が盛り込まれています。トランプ政権下でもTikTokの売却が模索されましたが、実現しませんでした。今回は手を挙げるプレイヤーがいるのでしょうか?

名乗りを上げているのは、前財務長官のスティーブ・ムニューシン氏や、ゲーム会社アクティビジョン・ブリザードのCEOだったボビー・コティック氏。ムニューシン氏はゴールドマン・サックスの共同経営者を17年間も務めたウォールストリートの大物。同氏であればパートナーや資金は集められるでしょう。

同氏はCNBCに出演し、TikTokについて「素晴らしいビジネスだ」と指摘する一方、「米国の企業が所有すべきです。中国も国内で米国企業にこのようなことはさせないはずです」と述べたということです。

1.5億人を敵に回す事は現実的か?

今年はなんといっても年末には大統領選挙が行われる年です。バイデン大統領は法案に前向きのようですが、トランプ大統領は「Facebookを利する事になる」という独特の視点で法案を批判しています。

TikTokを批判しながらも、選挙に向けてバイデン陣営が活用している事も「パフォーマンス的」という批判を生んでいます。2月には大統領自身がTikTokに出演する動画を公開し、インフルエンサー向けにもバイデン陣営の政策を説明する会を開催しています。

「2020年にバイデン大統領が勝ったのはTikTokのお陰です。彼を支持する若者が沢山いたんです」とTikTokでニュース動画を発信し、ホワイトハウスでのインフルエンサーイベントにも出席したことのあるV・スペハール氏は述べています。にも関わらず、バイデン大統領がTikTokを禁止しようとするのは不可解とも言えそうです。

◆ ◆ ◆

フィナンシャル・タイムズによれば、2023年のTikTokの米国での収益は過去最高の160億ドルに達したということで、1.5億人のユーザー数という点もそうですが、非常に影響力を持つ存在へと成長しています。

そんなTikTokが米国でどうなっていくのか。今後の動きもニュース等でお伝えしていきます。

今週の人気記事から 国内のポッドキャスト利用率は15.7%

朝日新聞とオトナルが定期的に実施している国内ポッドキャスト調査の最新版によれば、国内のポッドキャスト利用率は15.7%であり、特に15-19歳の若年層では3人に1人がポッドキャスを利用しているそうです。また、朝日新聞のポッドキャストを利用しているユーザーは他のユーザーと比べて新しいトレンドに敏感で、有料動画コンテンツの利用にも積極的だという事が分かったそうです。マーケティングにも活用できそうな有益なデータが公開されていますので是非チェックしてみてください。続きを読む

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編集部からひとこと

マクドナルドでシステム障害があり、世界で複数の店舗が一時営業停止となったそうです。筆者も会社のビルの下に入っているので、気合を入れたい時にたまに食べてますが、食べたい時にないと悲しい存在かもしれません。

では今週も頑張っていきましょう!

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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