「数時間でAIがコピーした記事が出回る」ピンクスライムに注意【Media Innovation Weekly】4/1号

WIREDが今年2月、セルビア人の元DJ起業家が運営するメディアネットワークが、放棄されたメディアサイトのドメインを再利用し、大量のAIコンテンツを流し込んでプログラマティック広告で収益化している様子を伝えました。

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「数時間でAIがコピーした記事が出回る」ピンクスライムに注意【Media Innovation Weekly】4/1号

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今週のテーマ解説 「数時間でAIがコピーした記事が出回る」ピンクスライムに注意

WIREDが今年2月、セルビア人の元DJ起業家が運営するメディアネットワークが、放棄されたメディアサイトのドメインを再利用し、大量のAIコンテンツを流し込んでプログラマティック広告で収益化している様子を伝えました。その数はなんと2000以上。以前から放棄された価値のあるドメインに無価値なコンテンツを投入してマネタイズする例は多くありましたが、AIによってそれがより大規模になっている様子が伺えます。

こうしたメディアは「Made for Advertising」と呼ばれ、広告業界団体のISAは2023年のレポートで、このような広告収益を獲得するために作られた低品質なメディアに、プログラマティック広告全体の20%が吸い込まれている可能性があると指摘しています。低品質といっても、機械の目は一定欺くことができ、検索トラフィックを奪い、ユーザーの可処分時間を奪い、メディアを傷つけます。

さらに直近ではAIによってメディアの記事を巧妙にコピーして再公開するウェブサイトが増殖しているようです。

このようなウェブサイトは「ピンクスライム」(屑肉から作られたミンチを指す)とも呼ばれ、近年、懸念が広がってきました。特にローカルメディアが崩壊し、ニュース砂漠が広がっている米国では、それを埋めるかのように、低品質なコンテンツを大量生産するピンクスライムなサイトが問題になっています。それらは特定の政治団体に支援されているケースもあると言い、党派的な世論誘導を担っているとも見られています。

ピンクスライムもAIを活用していると見られます。メディア業界紙のポインターは「メディアのためのAI倫理ガイド」という記事を公開した数時間後に、Tech Gateという典型的なピンクスライムサイトにコピーされたと報じています。Tech Gateでゲームや仮想通貨などの記事を5分ごとに公開しているブルビザ・モハメドという人物の署名で書かれたコピー記事では、ポインターのロゴが使われ、ほぼほぼ同一の記事構成でしたが、殆どの単語は巧妙に書き直されていたそうです。

例えば原文が「食事の準備キットのようなものだと考えてください。殆どの作業は完了していますが、まだ袖をまくり上げて少し労力を費やす必要があります」とあったものが「これは食事の準備パッケージのようなものだと考えてください。多くの機能は完了しましたが、今でも袖をまくり上げて、少しだけ作業を行う必要があります」となっているということです。

AI倫理に関する記事までもAIによってコピーされてしまうというのは笑えない現実です。

ポインターはまた、リッチモンド・オブザーバーというローカル新聞の発行人であるチャーリー・メルビン氏から、彼の地元で活動しているピンクスライムのサイトを教えてもらったと伝えています。同氏はAIが大規模に活動することで、オリジナル記事の価値が低下するのではないかと懸念を示していたようです。オリジナル記事であってもAIによって容易にコピーされてしまうということです。

セマフォーは12月にInvesting.comという大手の投資情報メディア(これはちゃんとしている運営がいる)が、競合メディアが公開したスクープ記事から、同じソースを引用して後追いで記事を次々に公開していると報じました。これもAIを活用していると見られますが、オリジナルの記事よりも簡潔にまとまっている場合もあったとか。

個人的にメディアが生き残る道は、オリジナルのコンテンツでしかないと思っているのですが、これほどにAIによってテキストのコピー、それだけでなく付加的なコンテンツを乗せて制作する事さえも容易になってくると、単純なテキストだけの勝負では追い付かないのではないかと考えます。メディア独自の視点に、データベース、ビジュアライズ、コミュニティ、リアル接点などを掛け合わせて、総合力で価値の提供を考える必要がありそうです。

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編集部からひとこと

センバツは健大高崎が初優勝、おめでとうございました。そして野球のシーズン、金曜日は神宮球場に行きましたが、とてもしんどい試合展開ながら最後は良い結果で楽しめました。一気に気温も上がって、週末、上野を散歩したところ、チラホラと咲いている木もある、という感じ。とてつもない人の数にびっくりでしたが。今週は雨も降るようですが、花見したいですね~。

今日から新年度の皆様も多いかと思います。新しく社会人になるという方もいらっしゃるかもしれません。良い一年にしましょう!ではまた来週。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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