公益社団法人日本広告審査機構(JARO)は2025年12月23日、2025年度上半期の広告苦情レポートを公表しました。2025年度上半期に寄せられた苦情は7,088件で、前年同期の1.7倍となり、上半期としては過去最多を記録しました。
報道を契機に苦情が急増、認知拡大が背景
苦情急増の背景には、2025年6月に性的な広告に関する報道等があり、JAROが生活者にとって「広告への声を届ける手段」として認知されたことが大きく影響しています。これにより苦情が全体的に急増し、特に「気持ち悪い」「汚い」といった表現、性的表現、猟奇的・ホラー的表現など、広告表現に対する苦情が増加しました。
月別に見ると、6月の報道後に苦情件数が急増し、7月から8月をピークに徐々に減少傾向にあります。下半期はさらに落ち着いてきている状況です。ただし、2025年度通期では2020年度の11,560件を上回る可能性があり、過去最多を更新する見込みです。
特定広告主への苦情集中が顕著に
前年同期に比べ、苦情が集中する広告・広告主が目立ちました。特に医薬部外品などをECで扱う事業者1社に479件もの苦情が寄せられました。内容はバナー画像が「気持ち悪い」「汚い」といった不快感や、GIF動画が「鬱陶しい」などというものです。この1社で医薬部外品全体の約4分の3を占めました。
広告主が特定できた2,188社、6,709件を広告主別に見ると、上位5社(全体の0.2%)の苦情合計が1,263件で、構成比18.8%を占めました。前年同期は246件、6.4%だったため、今期は一部事業者への集中がより進んだ結果となりました。
JAROは8月および9月の計2回、当該広告主に対して苦情情報提供を行いました。それ以外では、シミが簡単に取れるとうたうクリームや、ホワイトニングをうたう歯磨きの誤認させる表示などがありました。
性的広告への苦情は1,355件、幅広い声が寄せられる
今期、性的な広告に対する苦情は1,355件(19.1%)寄せられました。2024年度は上半期274件、通期705件だったため、大幅な増加となりました。
6月はじめに、JAROに性的苦情が多数寄せられ、電子コミックの業界団体が自主的な対応を行ったことが報道され、JAROが生活者に「広告への声を届ける手段」という認識が広がったこと、「アダルト広告」について国会で取り上げられ省庁が連絡会議を立ち上げるなど社会的に話題になったことなどが要因として考えられます。
また、そうした状況により、消費者は不快感を表明しやすくなったと思われることや、JAROに苦情を伝えるという行動につなげる人が増えたことも背景にあると考えられます。
月別に見ると、2025年4月から5月は若干減少していましたが、6月の報道により苦情が急増した後、8月ごろから徐々に落ち着いてきています。苦情の内容は、従来同様に「(ご自身が)不快に感じる」「子どもの目にも触れる場所に掲載されている」といったものが中心でした。
対象となった表現は、裸や性行為を描いたもの、着衣ではあるが性的なシチュエーションのもの、性的な言葉を含むものなど幅広い声がありました。苦情対象の画像が裸から着衣へ変わるなどの変化があり、徐々に件数も減少しています。2025年度下期となる10月以降は150件以下となっています。
子どもや未成年に言及する苦情も相当数あります。「子ども」「未成年」「青少年」「ゾーニング」などのキーワードを含むものは、1,355件中594件ありました。
業種では、電子書籍・ビデオ・音楽配信では電子コミックのウェブ広告のほかVODサービスの番組CM、オンラインゲームは女性が裸で腰を振るGIF画像などで特定の1社に83件寄せられました。医院・病院はED・包茎治療などで性的なサービスをするかのような女性の表現など、健康食品は精力増強をうたったものなどがありました。
JAROでは苦情が多いケースや、件数が少なくても必要と判断したケースは、広告主に苦情情報提供を行っています。今期は電子コミック2社(4回)、オンラインゲーム2社、クリニック1社、計7回(苦情430件分)を実施しました。
また、苦情の多かった電子コミックとオンラインゲームは業界2団体に計4回、苦情情報提供を行いました。電子コミックについては業界団体が2025年4月から全裸や性行為などの表現を含む広告は全年齢向けサイトに掲載しないという自主ガイドラインを策定し運用を開始しており、当該団体の会員企業の苦情は大きく減少しました。オンラインゲームについては7月に業界3団体から共同声明が公表されました。
表現への苦情が2.4倍、「不快」「汚い」が増加
苦情は内容別に表示、表現、手法の3つに分類されています。表示は価格・品質・成分・効能効果など、商品やサービスの機能、性能、特徴に対して、虚偽、誇大、まぎらわしい等と主張する苦情です。表現は広告の表現物が不快、差別的、社会的・倫理的に問題、子どもへの影響などに意見を表明する苦情です。手法は頻度、音量、映像の点滅、表示する仕組みなど広告のやり方に対する苦情です。
今期は全体的に増加していますが、特に表現が4,097件(前年同期比242.0%)となりました。前述のとおり性的な広告が急増したほか、「気持ち悪い」「汚い」表現、画面が回転する表現、暴力的・ホラー的表現などがありました。
手法も件数自体は多くないが前年同期比185.7%と増加しました。インターネット上のものでは画面いっぱいに広告が掲載されることやオプトアウトしても何度も表示されること、メッセージが届いているという紛らわしい表示などに対して、テレビ・ラジオについては冠婚葬祭や士業広告の放送頻度などに対して寄せられました。
表示の上位は医薬部外品、医院・病院、通信販売でした。医薬部外品はシミが簡単に取れるようにうたうものや定期購入ではないと表示するが定期購入契約させるものなど、医院・病院は脂肪が消滅などとうたうものや安い料金をうたって実際は高額となるというもの、通信販売では無料でもらえるとうたうが後から条件が分かりもらえないというもの、などがありました。
媒体別ではインターネットが2.1倍、テレビも1.4倍に
報道等の影響により苦情が増えたことで、多くの媒体の件数が増加しました。インターネットは前年同期比211.2%、テレビ142.2%にも上りました。
媒体のインターネットで多かった業種は、①電子書籍・ビデオ・音楽配信636件、②医薬部外品576件、③オンラインゲーム403件、④医院・病院224件、⑤通信販売178件でした。いずれも前年同期より増加しており、前年同期比209.4%(通信販売)から467.6%(電子書籍)と倍以上に増加しました。このほか著名人の動画を生成AIで作成した詐欺広告など証券・債権・投資その他が457.1%(21件→96件)となりました。
テレビは、①クレジットカード227件、②電子書籍・ビデオ・音楽配信216件、③買取・売買82件、④医薬部外品72件、⑤加工食品65件で、クレジットカードは25倍(2522.2%)、電子書籍・ビデオ・音楽配信は15倍(1542.9%)となりました。
性的な広告については、多くがインターネット(1,140件)であり、テレビは190件、交通広告10件、屋外広告6件、新聞広告5件などがありました。インターネットと交通広告は電子コミックとオンラインゲームの広告、テレビはVODの番組CM、屋外広告はビル壁面の3D広告に水着姿の女性が映し出されたオンラインゲームの広告、新聞広告は健康食品の広告に対するものでした。
業種別では上位4業種が大幅増加
上位4業種の苦情件数推移を見ると、電子書籍・ビデオ・音楽配信、医薬部外品は急増し、オンラインゲーム、医院・病院は増加傾向にあります。医院・病院は前述のED・包茎治療を行うクリニックのほか、シミ・クマ取り・脂肪吸引などで誤解させる料金表示などがありました。
今期は、広告表現が「不快」「好ましくない」などといった苦情が増加し、多くの業種が前年同期比100%超となりました。
苦情対応は広告主への情報提供29回、見解9件を発信
今期対応した苦情は、広告主への苦情情報提供を29回行いました(対象の苦情は1,211件)。これは、苦情件数が多いもの、あるいは件数が少なくても深刻・危険と判断したものを広告主に対して事実として伝達する対応です。また、業界全体に関わる場合には業界団体にもコンタクトを取っており、今期は2団体に計4回実施しました。
委員会で審議した結果をJAROの意見として広告主に伝える「見解」は厳重警告3件、警告6件の計9件で、委員会での審議を経ずに発信する「事務局からの文書発信」は3件でした(前年同期は厳重警告8件、警告2件、要望1件の計11件、事務局からの文書発信は8件)。
厳重警告・警告の内容を見ると、エステティック(脱毛)では事実と異なり、下着や水着姿の女性が性的サービスをするかのような表現やギフト券6万円がもらえるかのように表示、機能性表示食品ではインスリン近似成分、内科でも販売しているなどと表示、健康食品では糖尿病や高脂血症などの生活習慣病を挙げ、当該商品を摂取すれば長年病気を患わないかのように表示、などがありました。
警告では、医薬部外品・化粧品・雑貨でアロマ関連のシリーズ商品で、香りが自律神経系のストレスを低下などと表示、Webデザイナー講座では実際には条件により限られるにもかかわらず、受講料0円、受講料無料キャンペーンなどと表示、通信販売ではアプリのダウンロードや購入時のポイントを1万円分貯めるなどの条件があるのに、動画をクリックするだけで1万円分のポイントがもらえると表示、などがありました。









