2018年12月に「東洋経済オンライン」の編集長に就任した武政秀明氏は、大手自動車系ディーラーのセールスマン、日本工業新聞(現フジサンケイ ビジネスアイ)記者を経て、2005年に東洋経済新報社に入社。2010年からは東洋経済オンラインの編集部に移った後、2012年の東洋経済オンラインの大幅リニューアルに携わり、その後の大躍進に伴走してきました。

東洋経済新報社が発行する「週刊東洋経済」は120年以上の歴史を誇る、日本を代表する経済誌です。そこから派生した「東洋経済オンライン」は月間で2億PVを超える日本でも指折りの規模を誇るウェブメディアであり、その動向は常に注目の的となっています。新しい編集長の下、どのような展開を構想されているのか、聞きました。

自動車ディーラーとメディアの共通点

―――まず経歴から伺いたいのですが、キャリアのスタートは大手自動車系のディーラーで営業をされていたと聞きました

もともとクルマが大好きで、大学時代にアルバイトで貯めたお金を頭金にローンを組んでスポーツカーを中古で買うくらいでした。就職先を決めたのも単純にクルマが好きで、とにかくクルマに関わる仕事がしたいと。

ディーラーというのは、メーカーが作ったクルマを売るというのが仕事です。お客さんと色々な会話をしながら、どんな時に心が動いて、お金を出してもらえるのか、生の消費を最前線で見られた事はその後の仕事に大きくプラスになりました。

また、自動車というのは産業の王様で、機械、素材、電機、金融など様々な産業の集積体なんです。ここに携われた事で色々な産業の断面を知ったのも大きかったです。

―――なるほど、経済誌に繋がる経験が最初にあったわけですね

今から振り返るとそうですね。実際に社会に出て仕事をしていく中で、色々な矛盾や疑問を感じたのが、記者を志した理由です。単に内輪で愚痴ってるだけじゃなくて、社会の問題として指摘したり、提言したりできる立場のジャーナリストを目指そうという気持ちが生まれたんです。

実はクルマの営業も、メディア作りも通じるところが大いにあると感じています。クルマの販売を分解して考えると、クルマの商品力という要素と、ディーラーなどの販売力という要素の2つに分かれます。それぞれ同じくらい大事で、良い商品が作れても、販売力が無いとなかなか売れないんです。

―――メディアも良いコンテンツを作るだけでなく、どう適切な人に届けるかという流通力が問われます。これをいち早く実践したのが東洋経済オンラインでしたね。

東洋経済オンラインは2012年11月にリニューアルする前は、月間300万~500万PVくらいのメディアでした。それが今では2億PVです。もちろん当時から良いコンテンツを作っている自信はありましたが、リニューアルを機に届ける能力を磨いていきました。

ポータルサイトなどの記事配信先を増やして、ソーシャルでユーザーと繋がるための工夫を重ねて、記事タイトルやサムネイルをどう最適化していくかも研究しました。雑誌には書店という強力な流通網がありましたが、デジタルではそれを自ら構築しなくてはなりません。

もともと「週刊東洋経済」「会社四季報」という堅いけど有意義なものを作ってきた自負があります。こういう堅いものが根底にあるコンテンツをどう読まれるように届けるか、という試行錯誤を重ねてきています。

現在、2億PVを誇る「東洋経済オンライン」。日本の経済に限らず、インターネットメディア全体でも最上位に位置する規模

―――追っている指標はPVでしょうか?

色々な指標がありますが、PVというのは分かりやすい指標であることは間違いないですね。ただ、単純に今の2億PVについて、3億、4億と数的な拡大のみを目指していくと歪みが出るだろうと思っています。

外してはいけないのは、東洋経済新報社が創業時に掲げた「健全なる経済社会の発展に寄与する」という企業理念に沿っていくことです。その上で私は東洋経済オンラインの媒体方針として「経済のギモンに公平で明快な答えを探る」というコンセプトを掲げました。これらを自分たちの矜持として大切にする必要があると思います。

これからは、集合体としてのPVも引き続き大事ではあるのですが、メディアのファンをどれだけ作れるかということにチャレンジしていきたいと思っています。昨年から始めた「著者フォロー機能」はその一環です。読者がフォローした著者の新しい記事が配信されると、メールで通知が届く仕組みです。それを通じて読者との深い繋がりが出来ていきます。大きくソーシャルで拡散して、10万人が読んでくれたとして、その中で100人でも固定読者として定着してくれれば、これは非常に価値があります。

ソーシャルではFacebookやTwitterがメインですが、今後はLINEアカウントメディアも始めたいと思っています。それぞれファンと繋がる方法や、読者層、文脈も違ってきますが、それぞれに対応して、ファンになってもらう努力をしています。

―――読者との深い繋がりという点ではサブスクリプションモデルはどのように捉えられていますか?

非常に可能性が大きいと思っていますし、会社としての課題です。すでに「週刊東洋経済プラス」というサイトがあり、私の前任で今は「週刊東洋経済」の編集長を務めている山田俊浩がこちらも責任者を兼ねています。無料と有料では全く別の脳ミソが必要だと思いますので、私は「東洋経済オンライン」で引き続き無料モデルに全力投球しながら、新しい「週刊東洋経済プラス」に関心を持つ方を増やすことを、会社として取り組めればと思っています。

―――なるほど。今後も「東洋経済オンライン」は広告ビジネスが主軸でしょうか?

広告ビジネスはもちろん大事です。2億PVという規模もありますので、引き続き大きな柱となっていくでしょう。

一方、東洋経済新報社としては「週刊東洋経済」「会社四季報」「東洋経済オンライン」に加えて、書籍やセミナー事業なども展開しています。

例えば書籍では「SHOE DOG -靴にすべてを。」「LIFE SHIFT -100年時代の人生戦略」「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」などのヒット作がありますが、東洋経済オンラインでのプロモーションも一役買ったと思っています。セミナーも同様ですが、東洋経済オンラインが会社全体のマーケティングの場にもなるのかなと思います。

いずれも大ヒットとなった3冊。「東洋経済オンライン」ではこうした自社の書籍の他、他社の書籍のプロモーション支援も行っているといいます。

また、これは自社だけでなく、他の出版社の書籍やテレビ局の番組との連動企画も手がけています。経済やビジネスに関心のある相当数のユーザーが読者になってくれていますので、そういった読者にアプローチをしたい人や会社にとっては有益なプラットフォームとなっていると思います。

もっと身近な経済も捉えていくメディアに

―――編集部はどのような体制なのでしょうか?

編集部のメンバーは色んな世代に分散しています。私はいま43歳で、2人の副編集長も40代前後。後は20代、30代の編集部員が多いです。上意下達というよりは、だいぶフラットに、それぞれの編集部員が裁量を持ちながら仕事をしていますね。

インターネットの世代別の普及率を考えると、13歳~59歳は9割がインターネットにアクセスしていて、読者として想定できます。経済に対する見方や抱えている悩みは世代によって異なります。やはり自分の世代の関心事には強くアンテナが張れますので、作り手も幅広い世代が居るのは大事だと思います。

―――雑誌とはどのように連携しているのでしょうか?

基本的には別々の編集部があり、東洋経済オンラインに掲載されている記事の9割以上はオンラインの独自コンテンツになっています。これは最初からそうで、他の雑誌系のデジタルメディアとは異なるやり方だと思います。

雑誌はパッケージとしての世界観でお客様にお金を払ってもらうスタイルですので、その世界観を壊さない事が重要です。

―――コンテンツ作りとして動画はどのように捉えられていますか?

5Gの時代が来ると、より面白い存在になってくると思いますが、今はほとんど動画には手を出していません。

動画を視聴するという時間感覚は、記事をテキストで読むという時間感覚とは異なっていて、それが私たちのようなテキストを主体としてきたメディアにおける動画の難しさではないかと感じています。私自身もAmazon Primeなどの有料動画サービスを視聴していますが、時間がある時にじっくり映像を楽しみたいという気持ちで向き合っています。

どういうスタイルの動画であれば東洋経済オンラインに訪れている読者の時間感覚に合うのか。もし、動画に取り組むのであれば、自前にこだわらず、得意な会社と組むようなことも必要なのではないかと感じています。

―――気になるライバルはいますか?

アナログな時代は新聞、雑誌、テレビ、ラジオと明確に線引きがあったのが、デジタルになると全てのメディアがインターネットでつながって、いわば全てのメディアがライバルになりました。スマホゲームもライバルです。なので、伸びている媒体は全て気になります。

特にということであれば、やはり同じく雑誌や週刊誌系のメディアは気になります。我々もそうですが、単にストレートニュースを出すよりも、きちんと情報を深掘りして提供していくようなメディアのニーズが高まっているように感じていて、そういう意味では雑誌や週刊誌的な作り方が優位な環境になっていると思いますね。

―――最後に新編集長として、意気込みを聞かせていただければと思います

私達は東洋経済新報社という歴史のある会社で、どちらかというとマクロ経済、財政・金融政策、企業戦略など大所高所から経済を論じるということを得意としてきました。これはもちろん強みであって、大事にしていきたいと思います。

一方で私としては、経済というのはもっと広く捉えられるもので、個人の生活や仕事も経済を担う大事な存在であると考えています。ですから、もっと身近な経済も含めて「経済のギモンに公平で明快な答えを探る」を実現していきたいと思います。

それから、読者に良いものを届けるということを分解すると、編集者、書き手媒体力という3つの要素の掛け算ではないかと思います。

その起点は編集者です。編集者がどんな書き手と、何を企画するかというのが全ての始まりです。編集者が自分の強みや特性を活かしながら、世界を確かな目で捉え、何を届けるべきかを企画して、書き手と共に世の中に送り出していく。これによって経済という観点から世の中を少しでも良い方向に導いていく。これを実現することが使命だと考えています。

いま経済メディアが熱い

Media Innovationの2019年2月特集は「経済メディア」。主要経済メディアに直撃。各社の戦略や目指す未来について聞きます。(順次公開予定)

  1. いま経済メディアが熱い、新旧プレイヤーが入り乱れる経済メディアを大特集<予告編>
  2. 日産に「クーデターですよね」と聞く、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」金泉俊輔編集長インタビュー
  3. ミレニアル世代が向き合う社会課題解決型ビジネスが日本を面白くする・・・17カ国で展開する「Business Insider」日本版の浜田敬子統括編集長インタビュー
  4. 2億PVの国内有数の規模を誇るメディアはこれから何を目指すのか・・・「東洋経済オンライン」武政秀明編集長インタビュー
  5. データとビジュアルで世界の企業情報を分かりやすく発信する・・・「Stockclip」代表取締役CEO野添雄介インタビュー
  6. 「日経電子版」山崎浩志 デジタル編成ユニット長インタビュー
  7. Media Innovationでは、「Media Innovation Meetup」として毎月イベントを開催していきます。第一弾としてNewsPicksの金泉編集長を招いて「経済メディアが考えるサブスク時代のメディア作り」を2月13日(水)19時より渋谷で開催します。ぜひご参加ください。現在Peatixでチケットを販売中です。