無料・広告モデルのメディアが主流な中で、「cakes」と「note」という有料のコンテンツプラットフォームを立ち上げ、いち早くメディアにおける課金に取り組んできた株式会社ピースオブケイク。特にC2Cでコンテンツ販売ができるnoteは急速に成長し、現在ではMAUで1000万人を超える規模となり、コンテンツの流通金額も急拡大しています。

さらに3月から法人向けにnoteをベースにしたサイトを立ち上げられるパッケージとして「note pro」を提供開始。発表直後から問い合わせが殺到しているといいます。C2Cが好調な最中、敢えてB2Bのビジネスにも乗り出す背景には、個人やメディアだけでなく、これからすべての企業がメディア化していく未来を見据えていると、同社代表取締役CEOの加藤貞顕氏は話します。外苑前のオフィスに加藤氏を直撃しました。

※MAU・・・Monthly Active Usersの略で、月間でサイトに訪れるユーザー数のこと

―――ピースオブケイクを創業するまでの経緯を教えてください

子供の頃からコンピューターが大好きでした。小学4年生の頃に最初のパソコンブームがあって、当時はマイコンと呼ばれてたんですが、それを買ってもらって、ゲームをしたり、プログラミングしてましたね。で、大学生の頃がちょうど日本のインターネットの黎明期で、大学院生の頃にはAT互換機にLinuxをインストールして、自分のマシンで動くようにカーネルのソースをいじったりもしていました。

昨年も、東大が社会人向けに開催していたAIコースに参加してプログラミングしたりしていました。こうやってエンジニアリングの知識をアップデートしておくのは、会社経営に必要だからです。ピースオブケイクは、エンジニアが過半数を超えているテクノロジーの会社なので、ぼくが開発の知識がないといろんな意思決定に差し障りがあるので。

それからもう一つ、子供の頃から好きだったのが本です。大学院生の頃に、アスキーの「Linux Magazine」の創刊号に寄稿したこともあって、アスキーに就職し、主に雑誌の編集の仕事をしていました。その後、ダイヤモンド社に転職して、今度は書籍を担当して、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」などのヒット作に恵まれました。後半では電子書籍も手がけたのですが、本格的にコンテンツのデジタル化に取り組んでいくには独立した方がいいのではないかと思い、起業しました。

―――出版社でそこに取り組むのは難しかった?

そもそもコンテンツのデジタル化は、一社で取り組むべき課題ではなく、業界全体の課題だと思います。

出版業界が栄えたのは、取次という問屋システムと全国の書店という、コンテンツの流通とファイナンスを担う仕組みが秀逸だったからです。出版社は取次と契約さえすれば、全国数万点の書店に流通してもらえ、売れなければ返本されるとはいえ、前金で代金がもらえました。だから、出版社は本を作ることに集中すれば良かったんです。

他のメディア産業も同じです。テレビは電波で全国にコンテンツを流通させる仕組みで、ファイナンスは広告を通じて電通・博報堂が担っています。新聞も全国津々浦々に巡らせた販売店が強力です。なので、みんな作ることに集中できた。

でもインターネットは違います。流通とファイナンスにいい仕組みがないので、メディアがネットにチャレンジしようと思うと、そのための仕組みも自分たちで構築しなきゃいけない。既存のプレイヤーがデジタル化に苦戦したのは、これが理由です。

―――それでnoteに辿り着いたということですね

はい。かつてのコンテンツ業界が実現していたような、流通とファイナンスの仕組みをインターネットで実現しようというのがnoteです。なので、メディアというよりはプラットフォームという側面が強いですね。インターネットは、もともとコンテンツの流通はしやすいのですが、ファイナンスの部分は課題がありますよね。広告だけでは、十分な収益があげられないし、メディアのKPIもページビュー(PV)に偏りがちになります。だからまず、そこをなんとかするために、課金ができる環境を整備してきました。

また、noteの運営は「街づくり」に例えているのですが、クリエイティブなものが作られる雰囲気も大事です。たとえば、noteに投稿してすぐにネガティブなコメントが付いたら嫌ですよね? でもインターネットにはそういう場所が沢山ありますし、PVが広告収益に繋がるという仕組みはPV獲得目的の悪意や炎上、コピペやフェイクを助長してきたと思います。

noteには広告がないし、記事ランキングもありません。だから、単純に閲覧数を競いたいインセンティブが存在しません。課金というのも、やはり読者を深く満足させないと成り立たないものですから、自然と信用が大事になってきて、おかしな投稿は減ります。

また、多様なコンテンツを広めるために、レコメンドエンジンも工夫しています。人間の行動はアーキテクチャに従うところがありますし、そこが続くと文化になるので、ここは重要だと思っています。

文化といえば、最近、CXOの深津さんとぼくとで、弁護士の水野祐先生に著作権について話を伺う連載もはじめました。そもそも著作権は、クリエイティブを促進するためにある権利なのですが、バランスが難しく、権利保持者の保護をしすぎると新しいクリエイターが何もできなくなるという面もあります。みんなで権利と自由のバランスを考えようよという趣旨の連載です。ですから、年初に議論されていたダウンロード違法化の対象範囲の拡大については会社としても反対の声明を出しました

誰もがメディア化する時代のプラットフォームに

―――それにしてもここ最近の成長は目を見張るものがあります

一昨年にCXOが加わってから、数百以上の改善を行ってきました。それと大きかったのは、会社として「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。」というミッションを制定したことですね。それから、noteが成長するために大事なのは、「コンテンツ」✕「発見性」✕「継続性」であるというモデルを作りました。これによって、すべての施策が3つの考え方に整理できて、やることと目指すことが明確になりました。

現在、noteのMAUは1000万人を超えましたが、「クリエイターのホームグラウンド」にするにはまだまだだと思います。TwitterのMAUは4000万人を超えていて、Twitterくらいになるとクリエイターは誰もがアカウントを持っています。まずはそのくらいの規模を目指したいと思います。

現状、クリエイターはTwitterをやって、ブログをやって、Instagramをやって……と、それぞれバラバラに集客をして、本はAmazonで販売する、といった行為をしています。集客とクリエイティブとビジネスが、ぜんぶ別のプラットフォームで行われている状況なんです。これはうまくいかないですよね。

一方、日経新聞社はTwitterもFacebookもありますが、最終的にはすべてnikkei.comに集客して、そこで記事を見せて、課金も行っている。広告だって貼ってます。インターネットでビジネスをするにはこんなふうにしなくてはいけません。

同様にnoteでは、単にコンテンツを発信するだけでなく、ファンを集めることもできる、必要なら課金もできる。そうやって、クリエイターのホームグラウドにできるような場所を目指しています。

MAU、会員登録者数ともに急成長を続けている。画像は2019年1月のプレスリリースより

―――「note pro」の反響はいかがでしょうか?

お陰様で非常に大きな反響があり、問い合わせも殺到しています。

企業がネット上でユーザーに直接話しかけて、直接サービスを提供して、収益を上げていく。そういった企業のメディア活動のホームグラウンドとしても「note pro」は選んでもらえるようになりたいですね。

note proはメディアを立ち上げる際に課題となる、構築・集客・ビジネスを一気に解決するソリューションを目指す

―――企業の採用活動もメディア化するというのが「CASTER BIZ」との提携でしょうか

先日、「CASTER BIZ」を提供する株式会社キャスターさんと提携して、採用広報業務を一括でアウトソースできる「note pro for HR」をはじめました。企業が採用活動を大手サイトで行うと、どうしても待遇などの「スペック勝負」になってしまいます。そこで自分のメディアで、自分の言葉で語るメリットは非常に大きいのですが、やはりスキルや工数が必要です。ですので、これをアウトソースできるサービスを共同で開始しました。

誰もがメディアになっていきますが、発信するというのは簡単なスキルではありません。ですので、同様のパッケージを色々な領域で作っていくつもりです。例えば将来的には、noteのクリエイターが企業へ行って社員の写真撮影をするようなサービスもありえるでしょうし、noteのクリエイターがコンテンツ作りに参加するようなサービスもあるでしょう。もちろん、お互いにやりたい、やってもらいたいと思える出会いが作れればですが。

―――noteでのサブスクリプションで上手くいくクリエイターの特徴などはありますか?

noteだから、という話はそんなにないと思います。よく売れる八百屋は、お客様がほしいものをちゃんと提供している八百屋だと思うんです。なので、そんなに難しい話ではないと思います。

シバタナオキさんの「決算が読めるようになるノート」は成功例の一つだと思いますが、彼はシリコンバレーで企業経営していて、趣味で決算書をたくさん読んでるんです。元々、Facebookで書いていたものを、noteで課金をしてみたら売れたというわけです。得意なことを自然とやっていたら、それが商売にもなったという例です。

あるいは、エッセイのようなエモーショナルなコンテンツでも、よく売れているものがあります。

まとめると、「役に立つか」「エモーショナルな感情を呼び起こすものか」ですね。これは書籍も一緒ですが。ただ、noteの方が、多様性があり、ニッチなものでも成り立つ可能性があると思います。より掘り下げたものがウケる傾向があって、それはやっぱりインターネット的ですね。5000部売らないと成立しない書籍とは異なります。

ただ、お金はゴールではなく継続のための手段だと私達は考えています。現状、noteをやっているのも表現したいことがあって、仲間が見つかって、幾らかのお金が得られることによって継続できれば嬉しい、という人が多いように思います。確かにサブスクリプションで上手くいけば大きく収益が得られる可能性もありますが、お金を稼ぎたい人はコンテンツよりもっと良い商材はあると思いますよ(笑)。

―――最後にnoteが目指す世界を教えてください

これから、ほとんどのビジネスはメディアになっていくと思います。

例えばECは既にデジタル化がすすんでいますが、単に商品を並べていくだけではAmazonには勝てません。Amazonに対抗しようとすると、思想や意図を表明してストーリーで売る必要が出てきます。これはまさにメディアです。

それ以外でも、多くのビジネスがデジタル化と同時にメディア化していくと思っています。金融もそうですよね。フィンテックは金融をテクノロジーで変えようという取り組みですが、それだけでは差別化が出来ません。メディアとしてお金を介在させた物語を提供していく必要があるでしょう。藤野英人さんの会社の「ひふみ投信」などはまさにその代表例だと思います。

「個人」→「メディア」→「企業」が順にデジタル化、メディア化していくという流れで、メディア産業がいまその佳境にいます。その先はあらゆる企業がメディア化していく。その時にインフラとして一番の選択肢に「note pro」が選ばれるようになりたいと思っています。

【4月特集】サブスクリプションはメディアをどう変えるか?

4月特集に合わせて、オフラインイベント「Media Innovation Meetup #3 サブスクリプションはメディアをどう変えるか?」を4月17日(水)に開催します。

特集に登場するサブスクリプション総合研究所の宮崎琢磨 代表取締役社長、キメラ/CAMPFIREの大東洋克取締役COO、そしてメディアコンサルタントとして世界のメディア事情に詳しいソーシャルカンパニーの市川裕康氏にも世界のメディアのサブスク事情についても解説いただきます。

終了後には軽食と飲み物を用意した懇親会も実施します。

■概要
日時 2019年4月17日(水) 19:00~22:00
会場 〒160-0004 東京都新宿区四谷3-9 第一光明堂ビル 9F TIME SPACE 四谷 ※四谷四丁目駅から徒歩2分
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役/メディアコンサルタント 市川裕康氏
    ビープラッツ株式会社 取締役副社長 宮崎琢磨氏
    株式会社キメラ/株式会社CAMPFIRE 取締役COO 大東洋克氏
20:05 パネルディスカッション
21:00 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
22:00 終了

席に限りがございますので、Peatixより是非早めにお申込みください。