MIの11月特集は「メディアとコマース(EC)のいま」です。広告に留まらない収益源を模索するメディアにとって有望であると常に挙げられるのが商品の販売です。しかしその実現は困難であり、多くの失敗事例が生み出されてきました。いま改めて、メディアがコマースに取り組むには何が必要か。キーパーソンを取材しました。

サイバーエージェントとテレビ朝日が立ち上げたインターネットテレビ局「AbemaTV」が破竹の勢いで成長しています。ドラマ、アニメ、ニュースなどあらゆる番組がインターネット発で生み出されています。そんな「AbemaTV」の通販番組として、毎週木曜日23時から放送されているのが「買えるバトルクラブ」です。

二人の出演者が、自らがオススメする商品を持って、バトル形式で売れ行きを競うという、ハラハラ・ドキドキ、エンタメ性の極めて高い、通販番組として人気を集めています。なぜ「AbemaTV」は通販番組を始めたのか、その目指す姿は、メディアとコマースの未来は。番組を手掛ける株式会社買えるAbemaTV社の伊達学代表取締役社長に聞きました。

―――最初に「買えるAbemaTV社」を立ち上げるまでの経緯を聞かせてください

2002年にサイバーエージェントに新卒で入社して、インターネット広告の部門に長く在籍し、営業の責任者をした後、スタッフ部門の責任者をしていました。AbemaTVで通販番組をやるというコンセプトは「あした会議」という役員陣から若手が複数のチームとなって新規事業を企画しプレゼンする場で生まれたアイデアで、その実行者として私が選ばれました。

藤田(晋、サイバーエージェント代表取締役社長)の頭には、通販会社の立ち上げをドキュメンタリーとして視聴者を巻き込みながら放送すると面白いんじゃないか、というアイデアがあって、そこで奮闘する社長 兼 販売部長として私がハマるんじゃないかという事だったようです(笑)。営業の責任者でマネジメントもしていたのでリアリティもあるかなと。

―――伊達さんが「買えるAbemaTV社」の立ち上げに悪戦苦闘する様子はインターネットでも話題になりました

小さな営業会社のようなイメージで、販売部長がメンバーのハンバイヤーを募集して、歩合制で頑張って物を売って稼ごうとする、そんなストーリーを描いていく、というのが既存の通販番組とは違うアイデアでした。

確かに立ち上げは話題になり、初速はなかなかでした。ただ、通販会社の立ち上げストーリーというのは頑張って面白くしても地味でした。ストーリー性に一定のリピーターは付いたのですが、爆発的に商品が売れるという事もありませんでした。短期間で立ち上げるには厳しいという判断で方針変更しました。

―――それで現在の「買えるバトルクラブ」が生まれたのでしょうか

はい。着想はテレビ朝日の「フリースタイルダンジョン」でした。生放送を活かして、ユーザーを巻き込みながら、ヒリヒリ感があり、視聴者にも本気になってもらう、そういうことを考えていた時に辿り着きました。

「買えるバトルクラブ」は、2名のタレントさんに出演いただいて、自分が本気でオススメできる商品を持ってきてもらい、その販売個数を競うというものです。長いストーリーではなく、短く完結するものになりますので、大きな山を作るという点では一定の成果が出せていると思います。また、通販番組としてだけではなく、エンターテイメントとしても面白いモノが作れていると感じます。

タレントさんのファンの方は、勝って欲しいから買ってしまう、タレントさんの側も最初は気軽なノリで入っていても、やっていると負けたくなくて本気になってしまう、作られた物語ではないので視聴者もタレントも引き込まれてしまうのだと思います。出演者はかなり体力を消耗するようで、上手くいってもう一度依頼すると「とても疲れるので少し時間を開けたい」と言われる事もあります(笑)。

過去放送回(#)はこちらから視聴できる

―――放送回(#)によって視聴数や販売数は増減すると思いますが、成功する為の鍵はどういった要素だと考えられていますか?

鍵は「キャスティング」と「商品」だと思いますが、この2つは密接に関係しています。上手くいくのは、本人が愛用していることが映像を通して伝わる場合です。本気でおすすめしたいという熱量がある商品を用意できるかは成否を分けます。また、その人のキャラクターと商品がマッチしているともっと良いです。例えばコーヒーを愛飲していると普段からSNSに投稿しているタレントさんが、いつも飲んでいるコーヒーの特別版を販売するというような回は確実に視聴者に響きます。

可能であればオリジナル商品を制作して、それが無理でも、他のストアでは買えない限定版や、独自のパッケージを用意するようにしています。それから大事にしているのは、商品力が高い商品を用意するということです。番組を見ていて、ついつい引き込まれて買ってくれる視聴者も多いのですが、後で冷静になってみたら残念な商品だった、というのでは裏切りですからね。

―――「アベマショッピング」というECサイトも運営されていますね。これはどういった狙いで始まったのでしょうか?

「買えるバトルクラブ」は毎週木曜日の1時間の番組です。番組放送中にスマホで購入できる受け皿として「アベマショッピング」を用意しており、現在では番組放送で紹介した商品以外も販売しています。また、良い商品であれば、それ自体がインターネットやSNS上で話題になって売れていく、ということもあると思います。

また、売れている商品においては、定期便(サブスクリプション)のサービスを行っています。すでに「アベマショッピング」では歯ブラシや美容パック、フェイスパックなど複数の定期便でお届けするアイテムを提供しています。

アベマショッピングでは放送で紹介されたアイテムが購入できる

―――3ミニッツと提携したインフルエンサープロデュースブランド「mewen」(ミューエン)はどういった狙いでしょうか?

「mewen」はZ世代に支持される6人の女性インフルエンサーが共同でプロデュースするアパレルプロジェクトです。「mewen」では、コラボするインフルエンサーを3カ月に1回入れ替え、多くのインフルエンサーとコラボ商品を販売しています。商品は、女性インフルエンサー6人が本当に着たいと思えるような全身コーディネートを1スタイルずつ販売しています。

3ミニッツと買えるAbemaTV社のコラボレーションで誕生した「mewen」

D2Cはこれからの成長の鍵だと思い、積極的に取り組んでいきます。「買えるバトルクラブ」では毎週色々なタレントさんが出演してくれているので、上手くいった商品を、より踏み込んでオリジナルブランドとして育成していく動きをしていきます。販路もインターネットだけに限らず、リアル店舗にも広げても良いと考えています。。AbemaTVを使った発信力と、毎週新しい商品をプロデュースしてきたノウハウや知見も蓄積され、、売れる商品・売れない商品の見極めもできるようになってきました。今後はこれを活かしてD2Cのブランドを増やしていければと思っています。

―――「買えるアニメ放送局」も面白い取り組みですね

まずはアニプレックスさんと組んで「鬼滅の刃」のオリジナル商品をプロデュースしました。もともとAbemaTVにおいて、アニメチャンネルで様々な作品の権利を獲得して放送をしています。そこで、放送に加えて商品化権も合わせて取得して、オリジナル商品を作っていくという戦略です。

オリジナル商品を作るという観点では、タレントさんやインフルエンサーさんの商品を作るというのとさほど大きな違いはなく、同じ流れで取り組んでいます。アニメチャンネルでは幅広いラインナップを展開していますので、アニメコマースも広げていきたいと思います。

―――メディアやコンテンツを通じて商品を販売していく(メディアコマース)にはどのような可能性があると考えられますか?

立ち上げ当初から、商品力があるのは前提にしながら、でも商品力があるからといって売れる時代ではないんじゃないかと考えてきました。売り手への共感のようなヒト消費、番組の中に一緒に入っていく体験としてのコト消費、というような考え方が求められるのではないかと感じています。それを自然と実現できるのはメディアとしての強みではないでしょうか?

テレビ局の放送外収益として、通販番組は1つのビジネスモデルになっています。当社の株主でもあるテレビ朝日グループのロッピングライフさんもその一つですが、各局が通販会社を持っています。この通販での売上は各局とも約100億円前後があり、メディアと通販事業の相性の良さを表している数字だと思います。

モノづくりという観点でも、日本のOEM業者のレベルはかなり高く、その他のコマースをするための環境も整っていっているので、参入しやすいように思います。一方で商品を軸にメディアを作っていくのは難しいと思うんです。どうしても商品軸でメディアを考えると、その受け手は限られてきてしまいます。なので、メディアが情報発信力や収集力を活かして商品を販売するという流れが今後より強くなっていくと思います。

―――買えるAbemaTV社としての今後の目標を教えてください

創業から2年が経ち、マーケットを見定め、いい商品を作る、というところまでは一定の手応えを感じることができました。ただ、事業としてはもっと成長をしていかないといけません。

今後もAbemaTV上でのライブコマースを主軸に、そこから派生した商品のD2C化や定期購入の仕組みで既存のECから脱却した新しい消費体験を提供していきたいと考えています。また、AbemaTVの成長と共に、メディアならではのコマースの形を作っていければと思っています。

11月特集: メディアとEC(コマース)の展望

1. “購買に寄与する”メディアに進化した「GIZMODO」・・・メディアジーン芹澤執行役員に聞くコマースへの取り組み
2. 出版社のECを全面サポート、富士山マガジンサービスとイードの合弁会社イデアの松延秀夫CEOらに聞く
3. 集英社はいかにデジタルメディアとECを成功に導いたか・・・デジタル戦略を率いてきた小林常務に聞く
4.応援購入が生み出すワクワクのプロダクトたち、「Makuake」中山社長に聞く
5. 「AbemaTV」が提供する新しい消費体験、買えるAbemaTV社 伊達社長に聞く
6. 株式会社フラクタ 河野貴伸 代表取締役社長 河野貴伸
7. 株式会社ヤプリ 金子洋平 執行役員CCO