データとAIで「情報を世界中の人に最適に届ける」、Gunosy大曽根CDO

Media Innovationの1月特集は「AIでメディアはどう変わるか」。AIが普及し、誰でも利用できるようになったことによって、メディア作りはどのような変化をしていくのか。メディアにおけるAI活用で先頭を走るリーダーの皆様を直撃しました。1月29日にはイベントも開催、ぜ…

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データとAIで「情報を世界中の人に最適に届ける」、Gunosy大曽根CDO
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Media Innovationの1月特集は「AIでメディアはどう変わるか」。AIが普及し、誰でも利用できるようになったことによって、メディア作りはどのような変化をしていくのか。メディアにおけるAI活用で先頭を走るリーダーの皆様を直撃しました。1月29日にはイベントも開催、ぜひご参加ください。

株式会社Gunosyは、「情報を世界中の人に最適に届ける」をミッションに掲げ、情報キュレーションアプリ「グノシー」などサービスを展開しています。同社は創業者の福島良典氏に代表されるように、テクノロジードリブン、エンジニアリング主導の色彩が濃く、「グノシー」ではAIを活用した取り組みが数多く進められていると言います。

MIでは、同社取締役最高データ責任者(CDO)で、「グノシー」の事業責任者も務める、大曽根圭輔氏に、同社が取り組んできたAIとデータ活用について聞きました。

―――大学時代からAIを研究されてきたと聞きました。これまでの経歴を教えていただけますか?

大学は博士課程を修了しました。ゲームが好きというのがきっかけでAIの研究をしていました。ちょうどAIはブームの間の氷河期と呼ばれる時代で、あまり注目をされませんでしたが、卒業する頃にはビッグデータやクラウド、SNSの普及による画像などのデータの増加や、iPhoneなどのスマホも登場しました。スマホをIoTのセンサーと捉えて、得られた情報をAIで活用すると面白い事が出来るんじゃないかと思い、モバイルコンテンツが強かったサイバードに新卒で入社しました。

そうこうしていたら、ソーシャルゲームの大ブームがきて、サイバードもその波に乗りました。ビッグデータを使って売上を上げられないかという流れになり、データ基盤を構築して、成果を挙げる事が出来ました。ただ、ゲーム会社でゲームやコンテンツの分析を行っていると、プランナーにコンサルして間接的に支援するような仕事になっていました。もっと直接的にビジネスに携わりたいと考え辿り着いたのが、上場直後のGunosyでした。元々アカデミックな人たちが創業した会社ということもあって、水も合いました。

「情報を世界中の人に最適に届ける」 をミッションとするGunosy

―――CDO(Chief Data Officer)でありながら、「グノシー」の事業責任者も兼任しているというのは珍しい形ではないでしょうか。どういった経緯で今のポジションに就かれたのでしょうか?

最初は「ニュースパス」というプロジェクトがきっかけです。これはKDDIと協業で、「グノシー」から派生したニュースアプリを作るというものだったのですが、実はアプリとしての基盤は新しく構築されています。長年運用されてきた「グノシー」ではなかなか導入が難しかった新しい情報解析や、配信技術を用いたチャレンジングなプロジェクトでした。現状のパーソナライズのアルゴリズムも「ニュースパス」で先行して行いました。

この時は事業責任者とタッグを組んで、アルゴリズム向上やユーザー解析などをやっていましたが、事業サイドに深く入るようになりました。そのタイミングで、「グノシー」がさらに成長を目指していくということもあって、新しいチャレンジを、ということで事業責任者を任されたという流れです。エンジニアのバックグラウンドで事業をやっていくのは良し悪しあると思いますが、定量的な判断は非常に得意というのは言えると思います。

―――CDOというポジションは大曽根さんが初代だと聞きましたが、どういった狙いで新設されたのでしょうか?

Gunosyはプロダクト意識が強い会社なのですが、プロダクトが増えてチームが分散してきた弊害もありました。全社最適を考えた時に、データという観点でも中長期の旗振り役が必要だろうというのがCDOが新設された理由です。エンジニア組織も大きくなっていますので、取締役や執行役員レイヤーでは、CTO、CDO、VPoEという役職があります。CTOは技術全般、CDOは事業を技術およびデータ観点から牽引する、VPoEは技術組織のリーダーというような役回りです。

―――CDOとして現在取り組まれているのはどういったことでしょうか?

取り組みはデータの「収集」「整理」「活用」の3つのフェーズで分けられます。さらにデータの中身もこれまではテキストだけで、ユーザー情報とコンテンツ情報に大別されていましたが、これからは画像、動画、音声などとフォーマットが広がってきます。これらのデータを使って、ユーザーにより良いコンテンツをレコメンド(推薦)するというのが目指しているところです。

「収集」のユーザー情報では記事の閲覧情報に加えて、デモグラフィック(性別、年齢など)、ジオグラフィック(位置、移動など)、サイコグラフィック(心理状況など)などを集めようとしています。もちろん適切に許可を取った上で、です。また、レコメンドのためには個人を特定する必要は無いと思っています。この地域に住んでいる40代の男性はこういう行動を取りやすい、というような抽象化された個人像が導ければ実用に足ると考えています。

「整理」も非常に重要です。「Data is Oil」と言われることもありますが、燃料だけあって、ちゃんと取り扱える状態でないと意味がありません。また、今後は自社データだけではなく、他社のデータも含めて活用を考えていて、Gunosy DMPのようなものを構築しています。

最後の「活用」は多岐に渡りますが、より良いレコメンド(推薦)のために使うというのが基本です。「情報を世界中の人に最適に届ける」というのは会社としてのビジョンでもあります。新聞がユーザーごとに一面を決めるようなレコメンドは価値がありますが、それを複数用意するのは困難です。それがユーザーに応じて何万通りにも作るというのは人手では不可能です。AIでパーソナライズすることで、滞在時間などの増加が実証されています。

―――過度なレコメンドに対する批判もありますが、「良いレコメンド」というのをどのように捉えられていますか?

バランスや倫理観は非常に重要だと思っています。興味深いデータがあって、実のところ、ユーザーは悪い記事を見せられることによってアプリから離脱してしまうというものです。これはサブスク文脈での議論ですが、Online News Associationのカンファレンスでの議論でも、PVや滞在時間を最大化すると、解約率が上がるという話がありました。「グノシー」でも、嘘っぽい記事や、思想的に偏りがある記事を読んだ読者が離脱する傾向は得られています。

パーソナライズという観点では、エコーチェンバー(同種のコミュニケーションを繰り返すことで、特定の信念が増幅される状況)やフィルターバブル(レコメンドによって自説に適合するコンテンツのみに出会うようになる状況)といった課題に対応するべく、異なる意見やカテゴリも含めて見せるように研究をしています。

―――フェイクニュースやクリックベイトに対する対策はありますか?

フェイクニュースやディスインフォメーションをAIで対処するのはまだ難しいのではないかと考えています。これは業界との連携で進めていく必要があると思います。クリックベイト(釣りタイトルなどでクリックを誘発する記事)に対してはある程度、見えてきています。クリックは定量化できるので、データを用いて継続的に対処しています。私達でも試行錯誤の段階ですが、PV以外の指標を作るのも重要な取り組みではないかと思っています。

―――離脱を促す「悪いコンテンツ」はどのように判別できるでしょうか?

まずはニュースも広告も価値を定量化していく事に取り組んでいます。どちらも非常に定性的な存在ですが、これを定量というデジタルの世界に落とさないとAIでも活用できません。例えば、野球が好きな人にとってはイチローのニュースが大事、その逆がどのくらいか表現できるようになればかなりの前進です。あるいは、地域への愛着が定量化されて、それによってレコメンドするか否かを決められるようになると面白いですよね。

広告についても定量化し、誰に何を配信するのかを決定することができるようになるでしょう。アドフラウドのような問題もありますが、かなり検知できるようになってきました。デジタルで仕組み化されると悪さをする人は常に出てきてしまいますが、撲滅に向けて大きく動いています。広告は博報堂DYメディアパートナーズさんとも提携して、様々な角度から展開を進めています。

―――メディアはどのようにAIを活用していくべきでしょうか?

幾つか観点があると思いますが、私達が取り組んできた事柄から考えると、記事を出すための業務の効率化は可能だと思います。例えば、データを蓄積することで、見出しを入力した際に、どういう層に、どのくらいのリーチがあるかは事前評価できると思います。また、世間的に流行っているワードや、関心を把握するためのツールは「グノシー」のデータから作れますので、外部にも提供する事を検討しています。

また、不要な業務は自動化されていくと思います。AIは人の能力の拡張と考えていて、モノを作ったり、クリエイティブに生み出したりする環境を作って、届くまでの過程を最小限にするということだと思います。

―――今後、GunosyのAIはどのようになっていくでしょうか?

今後も、検索がない世界を作るため、レコメンドを磨いていきたいと思っています。創業者の福島もよく言っているのですが、検索は難しい作業です。自分が欲しているものを言語化できないと解に辿り着けないのです。でも、これを特定するのが本当は難しい。AIやデータを活用することで、検索なしに「情報を世界中の人に最適に届ける」ために努力を重ねていきたいと思います。

1月特集: AIでメディアはどう変わるか

1. AIを軸にメディアからコンサル事業に拡大するレッジが考えるAI活用・・・株式会社レッジ「Ledge.ai」編集長 飯野氏
2. AIを使った「FakeRank」技術でフェイクニュースと戦い広告主を護る・・・AdVerif.ai Or Levi CEO
3. データとAIで「情報を世界中の人に最適に届ける」、Gunosy大曽根CDO
4. AI×サブスクは今後のメディアビジネスの鍵・・・テモナ取締役CTO、テモラボ社長 中野氏
5. AIでデザイナー品質の動画が誰でも作れるように・・・ソニーとベクトルの合弁・SoVeC上川社長
6. AIによる「報道の機械化」でメディアの課題を解いていく・・・JX通信社 米重社長
7. AIで世界中のニュースを分析し、ビジネス変革を推進する・・・ストックマーク森住氏

6社が登壇するイベントを29日(水)開催

1月29日(水)には、特集に登場する6社が集まるイベント「Media Innovation Meetup #11 AIでメディアはどう変わるか」も開催。AI✕メディアの領域の最前線で活躍するプレイヤーの話を直接聞けるチャンスです。チケットはPeatixで発売中ですので、ぜひご参加ください。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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