【特集】もうすぐやってくるAfter Cookieの世界、メディアが直面する課題と好機とは?

インターネットにおける広告やデータ利用が曲がり角にきています。背景にはプライバシーへの懸念の高まりがあります。全てがデータで表現されるデジタルの世界では、データの収集や活用が進む一方で、その中身はブラックボックスとなっていて、過度なターゲティングなどの形で表出する事で世界的にユーザーからの批判を生んでいます。

その結果として2つの側面から規制が始まっています。一つは欧州のGDPRやカリフォルニア州のCCPAのような法規制です。日本でも2022年までには改正個人情報保護法が施行される予定です。もう一つは技術的な規制で、アップルやグーグルなど主要なプレイヤーがブラウザにおけるデータ利用を制限する計画です。どちらも広告やデータ利用に致命的な影響を与えると見られています。

一方でユーザーデータを活用した高度な広告は、その対価として様々なサービスが無料で提供される事を実現してきました。ニュース、ゲーム、動画や音楽、ソーシャルメディア、ツールなどありとあらゆる種類のコンテンツ、サービスがインターネットでは広告という存在によって無料で、誰にでも使える状態になってきました。単純な規制では、開かれたオープンなインターネットを大きく制限する事に繋がりかねません。

プライバシーを軸にした広告やデータ利用がこれからどうなっていくのか、概説してみたいと思います。

法規制の現状、日本ではどうなる?

まずは法的な規制です。既に欧州のGDPRやカリフォルニア州のCCPAといった法律が存在し、域内のユーザーを対象としたサービスでは留意する必要があります。どちらも個人情報に関する定義を広げ、その収集や利用に当たって「同意」を要求しています。「このサイトではより良いサービス提供のためにクッキーを利用しています、同意しますか?」といったポップアップを見る機会が増えたと思いますが、こうした法律への対応を目的としています。

日本でも昨年3月に改正個人情報保護法が成立し、6月に公布されています。公布から2年以内に施行される予定で、少なくとも2022年中には施行される事になります。GDPRやCCPAと比べると規制は緩いと言われますが、「提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データとなることが想定される情報の第三者提供について、本人同意が得られていること等の確認を義務付ける」など「同意」を要求する箇所が含まれています。

この事から少なくとも取得したデータを自社に限らず活用をしていこうとする企業は、「同意」のマネジメントが求められる事になります。このためのツールをコンセント・マネジメント・プラットフォーム(CMP)と呼び、様々なソリューションが提案されていっています。(後日、CMPを展開するPriv Techへのインタビューを掲載予定です)

個人情報保護法の一部を改正する法律について

技術的な制限、サードパーティクッキーとは何か?

一方、技術的な面では、アップルが提供しているSafariはITPという仕組みを順次強化し、一定条件下でサードパーティクッキーの無効化や削除を行っています。また、Firefoxでは既にデフォルトでサードパーティクッキーが無効化されています。これにブラウザのシェアで圧倒的な一位を誇るグーグルのChromeも2022年には追随すると発表されています。

そもそもクッキーとは何でしょうか? クッキーはブラウザが情報を保存する仕組みで、サイト運営者はこれを読み取って、ユーザー毎に異なるサービスを提供することができます。例えば閲覧履歴を保存しておくことで、特にユーザー登録などをさせなくても、以前読んだのと似たような記事をレコメンドする事ができます。クッキーはドメインやパスが指定されていて、もちろん当該のドメインで発行されたクッキーは、当該のドメインからでないと読み取れません。

ファーストパーティとサードパーティの関係を簡単に表した図。いま訪れているサイト自身から発行されたものがファーストパーティクッキー、そうでない第三者から発行されたものをサードパーティクッキーと呼ぶ

例えばAというサイトに、Bという広告ネットワークが掲載されているとしましょう。BはA以外の様々なサイトに広告を掲載していて、それぞれのサイトでクッキー(サードパーティクッキー)を発行しています。また、広告をクリックした際にもクッキーを発行してユーザーがどんな広告をクリックしたかを記録しています。この一連の流れで、BはAにユーザーが訪れた際に、A以外のサイトでの行動データも活用して広告配信ができたのが、サードパーティクッキーが無効化されてしまうと、Aに来たユーザー、という以外の手がかりがなく、効果的な広告配信が行えない事になります。

また、ユーザーの識別が難しくなる事は広告の成果計測にも影響があると見られます。現在の広告配信では単純に表示やクリックだけでなく、一定の期間の中(コンバージョンウインドウ)での成果地点への到達や、成果までの途中での貢献(アトリビューション)を測ったり、それを更にデバイスをまたいで計測する仕組みなどがあります。広告が発生させたアクションを広く把握できる事で、貢献を適切に評価して、より高単価を許容されるシステムを作り上げています。計測ができない事も広告単価の減少に結びつきます。

実際にどの程度の影響があるのか

サードパーティクッキーが利用できなくなると広告にどの程度の影響があるのか、パブリッシャーサイドの話ですが、グーグルが2019年8月に公開した「サードパーティクッキーを無効にした場合のサイト運営者の収益への影響」という文章が参考になります。

グーグルの広告ネットワークを配信している世界のパブリッシャーで極少数のサンプルに対して、サードパーティクッキーへのアクセスを無効にしたところ、世界のトップ500のパブリッシャーで平均収益が52%減少するという結果が得られたということです。さらにユーザーに適した広告を届ける事ができないため、「✕」ボタンで広告を閉じるユーザーが21%増加し、その理由として「この広告に興味がない」が21%、「何度も同じ広告を見た」が29%、それぞれ増加したということです。

大きく収益を損なうパブリッシャーが多数という結果に

別の調査では、フェイスブックが同社が展開する広告ネットワークの「Facebook Audience Network」で、アップルがiOSで提供していたユーザー識別子であるIDFAの利用を辞めるとパブリッシャーの収益を50%も損なうと報告しています。IDFAは広告配信のターゲティングや効果測定で利用されていて、アプリにおけるクッキーのような存在です。(フェイスブック、広告ネットワークからIDFA利用を削除へ…開発者の収益は50%減の可能性もあると警告)

いずれも衝撃的な結果です。売上が半分になって耐えうるパブリッシャーは無きに等しいでしょう。

ただ、パブリッシャーが広告に依存しているのと同時に、グーグルも収益の大部分を広告に依存しています。パブリッシャーの収益が下がる事はすなわちグーグルの収益が下がる事に直結します。同社のChromeでもサードパーティクッキーが利用できなくなりますが、かといってグーグルが広告を殺すような事は考えられず、後述するプライバシーサンドボックスが本命視される所以でもあります。

次々に提案される代替案

クッキーはインターネットの広大な世界にいる膨大なユーザーを識別するための技術でしたので、代替案として考えられているのはクッキーに代わる共通IDを作ろうという動きです。主にアドテクベンダーによって提案されていて、既に実装が進められています。

共通IDはパブリッシャーが保有するファーストパーティデータ(メールアドレス)をキーにIDを発行し、暗号化したものを統合サーバーで管理し、ユーザーのマッチングに利用しようとするものです。世界的にはデータ接続プラットフォームを提供するLiveRampが提供する「LiveRamp ID」や、DSP大手のThe Trade Deskが提供する「Unified ID 2.0」などが提案されています。「LiveRamp ID」は既に実用化されていて、SMNが展開する「Logicad」とも連携が図られているようです。

一方でThe Trade Deskの「Unified ID 2.0」は業界標準のソリューションを目指し、システムをオープンソースで、かつ無償で提供し、さらに共通IDの管理もThe Trade Deskではなく第三者に持たせる事で中立的なエコシステムを構築しようとしています。同社ではユーザーIDを持っていないパブリッシャーでも参加できるよう、シングルサインオンの仕組みも無償で提供する計画です。DSPとして高いシェアを持つ同社の強みを活かして、既にPubmaticやIndex Exchangeが連携する事を表明するなど期待がかかります(The Trade Deskへのインタビューは後日掲載します)

メールアドレスをキーにした共通IDは精度100%のターゲティングを可能にしますが、ユーザーのメールアドレスを保有しているパブリッシャーばかりではありません。国内DSP最大手のインティメート・マージャーはここを解決しようとしています。「IM Universal Identifier」ではフィンガープリントの手法を用いて、ユーザーのデバイス情報等から一意のIDを生成し、それをキーにターゲティングを実現しようとしています。メールアドレスが用いる必要がなく、クッキーと同等の使い勝手を実現できそうです。(インティメート・マージャーへのインタビューも後日掲載します)

まだ不透明なプライバシーサンドボックス

グーグルはサードパーティクッキーを廃止する前提として、ユーザーのプライバシーに配慮しながら広告のエコシステムを成立させるためのプライバシーサンドボックスという仕組みをコミュニティと一緒になって開発しています。広告ビジネスはグーグルの根幹であり、いかなる形であれ、破壊される事は望まないだろうという楽観論もあります。ただ、より寡占が進む懸念はあります。

プライバシーサンドボックスでは様々なプロジェクトが走っていますが、提案されている主なAPIとしては、

  • Trust Tokens API ユーザーが機械ではなく人間である事を検証する
  • Privacy Budget API ユーザーがデータを渡すバジェット(予算)を管理できる機能
  • Click Throught Conversion Measurement Event-Level API 広告のコンバージョン測定
  • Aggregate Reporting API 複数サイトにまたがるレポートを実現する
  • Federated Learning of Cohorts (FLoC) 興味関心でクラスターを生成してターゲティングする
  • Private Interest Groups, Including Noise (PIGIN) 興味関心グループでユーザーを追跡する

といったものがあります。

これらはサードパーティクッキーを代替するソリューションというよりは、広告のエコシステムをサーバーからブラウザに移そうとする取り組みのように思えるところがあります。ユーザーデータはセキュアなChromeブラウザ上で管理され、サーバーには渡さず、広告プレイヤーはグーグルが提供するAPIを通じて必要に応じてデータを得るという仕組みです。

その象徴的なプロジェクトとして「Turtle Dove」という実証実験が進められています。この仕組みでは、広告枠を持つウェブサイトにアクセスした際に、ブラウザに保存されているユーザーの興味関心データと、アクセスしたページのURL等の情報が、別々のリクエストとして広告ネットワークに送信され、両方のリクエストに対してオークションが行われ、最も高い入札を入れた広告主のJavaScriptコードがブラウザで実行され広告が表示されます。2つのリクエストは分離されていて、ユーザーを特定するような相関関係を見出す事はできません。

この手法では得られるデータはどの広告ネットワークも同様になり、差別化は難しくなると考えられます。まだ実証実験段階で、様々な提案がなされている状況ですので、どのように実現するか不透明ですが、データプライバシーに詳しいDataSignの大田祐一氏は「予定されていた2022年1月のサードパーティーcookie廃止には間に合わず、先延ばしされるのではないか、と考えています」と述べています

サードパーティクッキー廃止の時期についても議論されているようですが、十分な代替がないままにサードパーティクッキーが使用できなくなるという可能性もありそうです。

また、プライバシーサンドボックスを通じてグーグルがより支配力を強化するという懸念もあり、英国の競争当局が調査を開始したというニュースもありました。

ユーザーとの関係構築という原点に戻れ

法的、技術的な規制がかかってくる中で、パブリッシャーは何に取り組めば良いでしょうか? 関係者が口を揃えて言うのは、ユーザーと良い関係値を築く事の重要性です。

データや個人情報の利用にはユーザーの同意が求められるようになっていきます。同意が取れればファーストパーティデータを使って広告単価を効果的に上げる事ができるようになります。同意が取れる比率が高いのか、低いのか、というのはメディアの収益性に直結してくることになります。明示的に同意を与える必要があり、ユーザーがメディアを選好する程度が高まると考えられます。同じジャンル、テーマであってもユーザーとの関係値によって、1PVの価値が大きく異なるという状態になっていくでしょう。

ニューヨーク・タイムズでは大規模なアンケート調査からユーザーの興味関心データ(ファーストパーティデータ)を作成。それを機械学習で拡張したものを広告配信に活用する基盤を構築。サードパーティクッキーを使用した場合と同等の配信精度を実現できたということです(ニューヨーク・タイムズ、サードパーティクッキーなしの広告配信基盤を構築「精度は十分」)。これもアンケートに答えてもらえる関係値が無くては実現できません。

サードパーティクッキーを介した第三者データの利用が難しくなるという事は、ユーザーとの接点を持つメディアが持つデータの価値が高まるという事でもあります。日々の閲覧行動から得られる属性データや、メディアが持つコンテキストを与える力はより重要性を増していく事になるでしょう。メディアが日々の活動でどのようなデータを生み出していて、どのようなデータが価値を持つのか、ここは改めて見つめ直しながら、それを活用するための基盤を開発する必要があります。(パブリッシャーにおけるデータ活用については、ハースト婦人画報社、コズレのインタビューを掲載予定です)

メディアを支える広告収益への影響という喫緊の課題はありながら、改めてメディアはユーザーとどのような関係を築くべきか、長いパートナーとなれるようなお互いに負担のないバランスとは何か、こうした事を見つめ直す好機になるのではないかというのは前向き過ぎるでしょうか?

2021年1月特集 After Cookie~メディアと広告の未来像

  • もうすぐやってくるAfter Cookieの世界、メディアが直面する課題と好機とは?
  • 広告とユーザーの関係を正常化する大チャンス、Priv Tech中道社長
  • 株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長 簗島亮次氏
  • トレジャーデータ株式会社 Director of Business Development 小森康平氏
  • The Trade Desk Japan 株式会社 Director, Inventory Partnerships 白井好典氏
  • 株式会社ハースト婦人画報社 Hearst Data Studio 前西克哉氏、須藤摩耶氏
  • 株式会社コズレ 取締役サービス開発本部長 小川正樹氏

1月27日にはイベントも開催します!

毎月恒例のオンラインイベントでは今回の特集に登場いただいた皆様をお招きして開催します。

概要
・名称 Media Innovation Meetup #23 After Cookie~メディアと広告の未来像
・日時 2021年1月27日(水) 17:00~18:30(予定)
・料金 1000円 ※MIのライト会員以上のステータスの方は無料
・参加方法 登録すると参加するためのZoom URLがメールですぐに送信されます
・申し込み方法 このページの「申し込み」ボタンから。MIの会員登録、ログインが必要です

当日スケジュール
・17:00 イベント開始、主催者挨拶
・17:05~18:00 各社からAfter Cookieへの取り組みについてのプレゼンテーション
・18:00~18:30 パネルディスカッション、質疑応答

※本イベントは有料イベントですが、Media Innovation Guildのライト会員、プレミアム会員の皆様には無料で参加いただけます。月額980円からご利用いただけますのでこの機会にぜひご登録ください(詳細)。

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Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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