スマートフォンの登場と地図データの精度向上、位置情報アプリが提供する情報量が増したことにより、人々の地図の利用状況が変化しています。株式会社ゼンリンの「地図利用実態調査2018」によると、カーナビや紙地図、PC用インターネット地図の利用数は年々減少する一方、スマートフォン用インターネット地図と位置情報サービス・アプリの利用数は増加し続けています。
■1年以内に利用した地図や位置情報に関連するサービスの利用状況(2016年~2018年の推移)
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ローカルビジネスのマーケティング支援を行う株式会社エフェクチュアルが2021年3月に行った調査では、地図アプリの利用率は「Googleマップ」が87.0%で、「Yahoo!MAP」の35.8%を大きく引き離しました。地図アプリにおいてはグーグルが圧倒的なシェアを握っており、この勢力図は今後も大きく変わらないと予想できます。
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Googleマップは行き先を確認するためのものではなく、病院やコンビニエンスストア、ガソリンスタンドなど生活に必要なサービスを見つけるために必要な道具となりました。また、観光案内や飲食店探しのツールとしても活用されており、マップ内に広告を表示できるようになりました。グーグルが目下力を入れている分野の一つです。
国内の位置・地図情報関連は極めて有望な市場と言えます。株式会社矢野経済研究所は2020年11月に「位置・地図情報関連市場に関する調査」を発表しました。それによると、2021年度の市場規模は1,619億2,000万円で、2025年度に1,905億7,400万円(17.6%増)まで拡大する見込みです。
ただし、地図アプリはグーグルの独壇場。国内の企業がこの市場で成長するには、グーグルのサービスを活用するか、グーグルがカバーしきれない領域に特化するか、スマートフォン以外のサービスで勝負をしかけるか。いずれかの選択が必要になります。
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この記事は、紙の地図から事業が始まった地図メディア企業ゼンリンと株式会社昭文社ホールディングスを例にとり、今後2社がどのような事業に注力していくのかを予想するものです。
目次
自動車産業に根を張り将来性のあるゼンリン
ゼンリンは1948年4月に創業された観光文化宣伝社が前身。別府市内の観光案内事業を行っていました。1949年に観光客向けの案内書を発行し、地図情報が充実するようになります。1980年に住宅地図の発行を開始し、やがて地図のデータベース化に着手しました。これによって印刷物だけでなく、地図データを提供できるようになります。これが1990年にカーナビへと結実しました。
ゼンリンは徒歩による地道な調査で地図を作成していることが最大の特徴です。個人宅の家の建て替え状況まで把握するほど徹底しています。グーグルは精度の高いゼンリンの地図データを購入していました。しかし、グーグルは2019年3月にゼンリンとの提携を解消。独自に地図データを蓄積するようになっています。
ゼンリンの業績は主力の一つであるカーナビに左右されています。2021年3月期の売上高は前期比4.3%減の572億2,500万円、営業利益は56.5%減の14億3,600万円となりました。