企業による匿名の情報提供、The Vergeの提言【Media Innovation Newsletter】11/15号

おはようございます。Media Innovationの土本です。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュースレター「Media Innovation Newsletter」 では毎週、ここでしか読めないメディア業界の注目トピックスの解説や、人気記事を紹介していきます。ウェブでの閲覧やバックナンバーはこちらから

今週のテーマ解説 企業による匿名の情報提供、The Vergeの提言

バーティカルメディアを運営するVox Mediaが展開する、テック系メディア「The Verge」が倫理ポリシーを更新。その内容が話題になっています。

The Vergeは広報や、広報の専門家との関わり方をより明確にするために、倫理ポリシーを更新します。これは、特に大手テック企業が、多くの専門家を雇って日常的に、説明責任を果たさず情報提供をしようと試みたり、真実であるかのようにメディアに言わせたり、その企業の物語(ナラティブ)をコントロールしようとして、対処が困難となっているためです

このような状況は「バックグラウンド」という慣行が生み出しているとThe Vergeは主張します。「バックグラウンドとは記者に情報を提供することですが、記者がその情報を特定の人物に帰属させないことを要求します。多くの場合、企業はさらに事態を悪化させ、バックグラウンド情報を言い換える事を求め、具体的な詳細と、その出所の両方を不明瞭にさせます」。このような情報提供のスタイルが顕著に増えていて、それによってメディアがコントロールされ、読者に不明瞭な情報が届けられているというのが今回の趣旨です。例えば次のような事があるということです。

・多くの企業が「バックグラウンド」で製品ブリーフィングを開催するように。イベント中に自社の新製品について幹部が言った事を適切にレポートできない

・大手テクノロジー企業のPR担当者から、自社のウェブサイトへのリンクが「バックグラウンド」で送られてきた

・複数の大手テック企業がPRスタッフを「状況に精通した情報源」として引用するように主張している

・大手テック企業は、物議を醸している新しいプライバシーポリシーについて、一週間以上繰り返された「バックグラウンド」でのフォローブリーフィングで説明を試みた

(The Vergeは他にも沢山の事例を紹介)

こうした手法によって、企業は説明責任を追わずにメディアに自分の視点を提供することができ、その代わりにジャーナリストは魔法のように物事を知っているかのように振る舞う必要があり、読者は誰が信頼できて、誰が信頼できないのか推測しながら読む必要がでてきます。

この状況すら脱するため、The Vergeの新しいポリシーは「The Vergeと話す際のデフォルトは”記録が取られている”であり、バックグラウンドにしたいという主張は尊重するが、それは読者のために必要性があり、それに同意した場合のみである」としています。また、「バックグラウンド」「オフレコ」「取り扱い対象外」といったメールを送る事はできず、そうしたメールは使用されないと想定するべきだ、としました。

テック企業の情報提供のありかた

ニューヨーク・タイムズで活躍し、ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストのジュリア・アングウィン氏が運営するThe Markupは昨年、Amazonが自社の擁護のためにバックグラウンドを利用した例を紹介しています。

同社は調査報道に取り組むCenter for Investigative ReportingがRevealによる倉庫での負傷率の上昇に関する記事を受けて、”Amazonに帰属させることのできる”メールを送りました。メールでは同団体が負傷率のデータを誤って解釈していると述べただけですが、「バックグラウンドでRevealについて」という項目があり、「彼らは政府の透明性と親組合活動に焦点を当てた擁護組織で、客観的なジャーナリズムを実践していません」と主張しました。

The Markupはこう書きます。「Amazonが数々の受賞歴のあるニュースルームの信頼性を非難するメールを送るのを適切だと考えたことは、テック企業がいかに”バックグラウンド”ゲームに慣れ親しんでいるかを示していくす。ジャーナリストたちはテック企業の”バックグラウンドのみで情報を提供する”という条件に従うことが多いため、Amazonは尊敬されている報道機関の信用を落とそうとする舞台裏での攻撃が、自分たちに跳ね返ってくるとは考えなかったようだ

そして次のように述べています。「匿名性は標準ではありません。それは必然性がある時にのみ生まれる特権です。私達は、公益のために、私達に情報を提供することによって報復や過度な困難に直面する可能性のある人々のために匿名性を提供します。情報提供のために報酬を得ている企業のスポークスパーソンは匿名性が付与されるための条件を満たしていません

◆ ◆ ◆

メディアへの情報提供のあり方に関する提言。The Vergeのようなテック業界をリードするメディアが打ち出したことは業界に大きな影響を与えそうです。業界に深くフォーカスするという性質上、企業との良好な関係を築く事は避けられないと思いますが、そこには一定の緊張感が必要、ということでしょうか。

今週の人気記事から 集英社が「集英社 XR」を立ち上げ、Nianticとも提携

今週注目したニュースは集英社がXR事業を推進するために「集英社 XR」を立ち上げたというニュース。公開されたトレイラーでは、漫画で描かれたキャラクターが拡張現実によってリアルな世界に表現される様子が映し出されています。『Ingress』『Pokemon Go』を開発してきた米Nianticの開発ツールを採用し、パートナーシップを結ぶという点も注目したいところです。

1.カカオジャパンが欧州子会社設立・・・フランス起点にウェブトゥーン事業展開

2.「集英社 XR」が発足…「ポケモンGO」の米Nianticと提携し、グローバル展開も視野に

3.電通とTBS、コネクテッドTVでの広告効果調査スキームを共同開発

4.カカクコムの2Q連結業績・・・食べログの回復で増収増益

5.Taboolaと「ニューズウィーク日本版」運営のCCCメディアハウスが複数年の戦略的パートナーシップを締結・・・高い収益およびエンゲージメント強化を実現

6.朝日新聞社とIAS、AI解析による「コンテクスチュアルターゲティング」を共同開発・・・ユーザーの心情・心理をくみ取り自然な訴求を目指す

7.大日本印刷がSNSと連動し地域情報をリアルタイムに提供するサービスを開発

8.「クラシル」がオーディエンスターゲティング広告を開始・・・ファーストパーティデータをもとに「潜在的な関心層」へ接触可能

9.Piano Japan、ウェビナー「サブスクビジネスのすゝめ〜データ戦略による成功へのウイニングロード〜」を11月10日に開催

10.Gaudiyとコミックスマート、「GANMA!コミュニティ」正式版をリリース・・・ファン向けNFTオークションに手応え

会員限定記事から ヴィレッジヴァンガード、復活なるか

遊べる書店として一斉を風靡したヴィレッジヴァンガードが新型コロナウイルスの逆風もあり、苦戦をしています。今期決算は特にコロナが厳しかった前年の赤字から黒字転換しましたが売上高は低迷が続いています。不採算店舗の閉鎖を続けているのも要因ですが、それにしても営業利益率は1%台と低いまま。その要因と復活に向けた取り組みについて考えました。

1.【メディア企業徹底考察 #31】「遊べる本屋」の限界が露呈したヴィレッジヴァンガード、ビジネスモデルの転換迫られる

2.Googleアシスタントが自動で音声ニュースを選ぶ「Your News Update」が”合理化”のために廃止される

3.Clubhouseが会話のリプレイ機能を発表・・・データのダウンロードやスピーカースキップも可能

4.有料サービス「Twitter Blue」が米国、ニュージーランドでもスタート・・・待望の「広告無しでの記事閲覧」機能も追加

5.「USAトゥデイ」のガネット3Q業績・・・有料サブスクスタートで2四半期連続の黒字

6.イリノイ州がメディア・リテラシー教育を米国で初めて義務化

7.メタ(旧フェイスブック)が顔認識機能を停止・・・10億人以上の顔認識情報を削除

8.英BBCの受信料、最大2年間値上げ禁止か・・・番組制作に打撃

9.ニューヨーク・タイムズの3Q業績・・・デジタル購読者が大幅増加し売上19%増

10.人気オーディション番組「The Voice」がメタバース版を開始・・・TikTok、3Dゲーム「Avakin Life」と連携

編集部からひとこと

またも野球の話題で恐縮ですが、両リーグでのクライマックスシリーズが終了し、土曜日から日本シリーズが開幕します。我らがスワローズは6年ぶりの出場。前回はホークスの前に圧倒されてしまいましたが、今回は良い試合ができるのを楽しみにしています。それにしても奥川が良かったです。ではまた。

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【10月12日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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