2022年3月29日株式会社IMAGICA GROUPが、2022年3月期通期業績の予想を修正しました。770億円としていた売上高を3.8%増となる800億円に。20億円としていた営業利益を40.0%増となる28億円にそれぞれ修正しています。イマジカはコロナの影響を悲観的に見ており、当初の見込みよりも動画配信事業者向けのサービスなどが好調でした。
イマジカは長らく続いていた低収益体質を抜け、本来の力を取り戻したように見えます。
■イマジカ業績推移(単位:百万円)

今回の業績修正のポイントは、営業利益率が当初の予想である2.9%から3.5%へと大幅に改善されたことです。イマジカは2014年3月期の営業利益率が4.0%と堅調でしたが、2015年3月期に3.1%に低下。更に2016年3月期に0.9%まで落ち込んでいました。

イマジカはなぜコロナ禍で収益性を取り戻すことができたのでしょうか?
典型的な”高値づかみ”となったSDI
収益性悪化の主要因となっていたのが、2015年4月に子会社化した映像字幕・翻訳サービス世界最大手のSDI。イマジカと官民ファンドの株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)、住友商事株式会社は共同でアメリカのSDIをフランスの金融グループBNPパリバから買収しました。買収額は190億円と報じられています。日本の映像作品の海外輸出を加速させる狙いがありました。
しかし、買収後の業績は不調が続いていました。イマジカは住友商事、クールジャパン機構から株式を買い取って完全子会社化。事業再構築を進めていましたが、とん挫して2021年1月にスウェーデンに本社を持つIYUNO Media Groupに全株を売却する契約を結びました。
SDIの売上高は200億円程度あり、500億円規模だったイマジカの成長に寄与したことは間違いありません。しかし、買収後は一度も利益を出せませんでした。
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■メディア・ローカライゼーション事業(SDI)の業績推移(単位:百万円)

買収額と純資産の差額である”のれん”償却前は1~5億円程度の利益が出ていましたが、2019年12月期の利益率はわずか0.4%。極めて薄利の会社を巨額で買収したことになります。
2016年3月期からイマジカの売上高が急速に伸びた半面、利益率が悪化したのは利益率の低いSDIを高値で買ったことが原因でした。
イマジカがSDIを売却したのは2021年3月26日。2022年3月期はSDIが完全に切り離された状態になります。それでも売上高は800億円となる見込みであり、売上面での落ち込みは抑えられました。
Pixelogic買収で遅れを取り戻せるか
イマジカの事業は大きく3つに分かれています。1つ目は劇場作品やTVCMなどを制作する映像コンテンツ事業。2つ目は動画配信業者向けのエンコードや人材派遣などを行う映像制作サービス事業。3つ目は撮影機材などのハードを提供する映像システム事業です。
主力は映像制作サービス事業です。2021年3月期に売上高が急伸していますが、これはこの期にメディア・ローカライゼーション事業(前述のSDI)を取り込んで組織再編を行ったためです。


イマジカの映像システム事業は営業利益率が10%を超えており、極めて盤石です。コロナ禍の2020年3月期の利益率が13.2%、2021年3月期も10.4%でした。ただし、業績は横ばい状態が続いており、全体を下支えする役割を担っているものの、会社の成長を牽引するには至っていません。
イマジカが映像部門での成長と業績の安定化を狙ってSDIを買収し、失敗したのは見てきた通りです。
しかし、ここにきてイマジカは成長エンジンを見出しました。End to Endサービスと呼ばれるコンテンツのディストリビューションサービスです。世界中で動画配信が席捲していることにより、映像制作サービス事業が好調なのです。2021年3月期第3四半期において、海外の映像制作サービス事業は103億600万円の増収となりました。
■2022年3月期第3四半期売上高の増減要因(単位:百万円)

この事業は利益面でも大きく貢献しています。国内の映像制作サービス事業は21億6,900万円の増益、海外は10億7,400万円の増益効果がありました。
■2022年3月期第3四半期のれん償却前営業利益(単位:百万円)

動画配信は配信プラットフォームごとに多様な納品フォーマットが必要であり、高度なセキュリティが必要とされます。イマジカは動画配信事業者やハリウッドメジャースタジオ等にディストリビューションサービスを提供するEnd to Endサービスに注力していました。2020年10月に持分法適用関連会社だった米Pixelogic Holdingsの持ち株比率を39.9%から88%に引き上げて子会社化したのです。
Pixelogicは映画やTVドラマなどのコンテンツの原版が完成した後の品質チェック、データ作成、工程管理などを行っています。

映像作品は劇場からDVDなどのディスク化が一般的な流れでしたが、今後は主に動画配信サービスへと移行します。そのプラットフォームは複雑化し、配信先は世界各国となりました。映像フォーマットを現地化するイマジカの技術は今後の需要が更に高まる可能性があります。
なお、イマジカは2022年3月期第3四半期において、連結子会社PPC Creative Limitedの”のれん”8億3,000万円の減損損失を計上しました。劇場公開作品の予告編制作事業が苦戦したためです。これにより、通期の純利益は当初予想していた25億円から18億円へと28.0%引き下げられています。一見すると悪材料のようにも見えますが、むしろ将来の収益性悪化要因を早い段階で退治する動きと捉えられます。
事実、イマジカの株価は業績予想の修正を発表した3月29日の終値699円から、4月6日に805円まで15.2%上昇しています。イマジカは業績の不安定な時期を乗り越え、新たなステージに向かって