FOX NEWS 対ドミニオンの訴訟はマードック帝国を破壊するか【Media Innovation Weekly】3/27号

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FOX NEWS 対ドミニオンの訴訟はマードック帝国を破壊するか【Media Innovation Weekly】3/27号

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今週のテーマ解説 FOX NEWS 対ドミニオンの訴訟はマードック帝国を破壊するか

米国のドナルド・トランプ前大統領はこのところ、「もうすぐ逮捕される」と述べ、支持者に団結するように呼びかけています。これは2021年1月6日の連邦議会襲撃を思い起こさせるものです。

2020年末の大統領選挙で敗れたトランプ氏は「大規模な不正投票によって選挙は乗っ取られた」との主張を繰り返し、立ち上がるよう促し、1月6日に支持者たちはワシントンで大規模なデモを敢行、そこから、まさに選挙結果を確定する作業が行われていた連邦議会を襲撃することに繋がりました。暴動は鎮圧されたものの数名の死者が出る事態となりました。

報道機関による名誉毀損は成立するか

この一連の騒動に巻き込まれたのが、投票集計システムを手掛けるドミニオン・ボーディング・システムズです。トランプ氏や支持者らは「ドミニオンのシステムがトランプへの投票をバイデンへの投票へと書き換えた」と主張しました。このストーリーに乗ったのが保守系のテレビチャンネルで、メディア王として知られるルパード・マードック氏が率いる「FOX NEWS」です。

これに対してドミニオンは2021年3月、「FOXは自らの商業的な目的のために、不正選挙のストーリーを流し、何度もドミニオンに損害を与えた」としてFOXを名誉毀損で提訴。16億ドルの損害賠償を求めました。

「商業的な目的のために」というのは補足する必要があるかもしれません。FOXはトランプ敗北を他の主流メディアと同タイミングで報じ、その事が視聴者から批判を浴びていました。トランプ氏は当然のこととして、NewsmaxやOANといったマイナーな保守系チャンネルもFOXの行動を非難して、一気に視聴者を奪われる、という流れがありました。これを取り返すため、FOXは「選挙が奪われた」という主張に乗り、過激な報道をするようになったというのがドミニオンの訴えるストーリーです。

ただ、FOXのような報道機関に対する名誉毀損が認められるハードルは非常に高いものがあります。報道の自由は憲法に保証されていて、米国では特にこれは重視されています。Hollywood Reporterは1964年のニューヨーク・タイムズ対サリバン事件で確立した原則があり、単なる間違いでは報道機関による名誉毀損は成立しないと指摘。その一方で、「メディアが名誉毀損から無制限に逃れる特権を得ていること」には批判があり、法改正を求める声もあると指摘しています。

ドミニオンは法廷に先立ち、関係者らの証言を集め公開。マードック氏ら経営陣から現場のキャスターまでが「トランプ氏の主張は無理筋で荒唐無稽」と認識していた事を裏付けようとしています。単なる間違いではなく、誤っていると認識しながら意図的に嘘を広めたということです。

ドミニオンが提出した資料では、マードック氏が選挙が盗まれたという主張に対して「本当にクレイジーなもの」と幹部に対するメモで述べたり、有名キャスターのタッカー・カールソン氏はトランプ氏を擁護する弁護士のシドニー・パウエル氏を「地獄のように危険」と批判し、同じくキャスターのショーン・ハニティ氏は「シドニー氏の主張を1秒たりとも信じた事はない」と述べたと伝えています。しかし彼らは番組でトランプ氏の主張を繰り返しています。

マードック氏のメディア帝国に与える影響

裁判は略式裁判が進められていて、両社の主張が判事によって検討されている状況です。両社はここで何かしらの和解をするか、さもなくば4月17日から開始される予定の本裁判に挑むか、という判断を迫られています。

16億ドルという巨額な裁判はマードック氏のメディア帝国にどのような影響を与えるでしょうか? 前提として、既に帝国は代替わりを進めている状況にあるということがあります(ルパード・マードック氏は既に91歳)。実際にFOXの会長兼CEOは長男のラクラン・マードック氏に譲られています(ただ、証言によれば、FOXの路線を決めているのは今も父親のよう)。

ガーディアンは16億ドルの賠償が命じられた場合、株主代表訴訟になり、マードック氏らの責任が問われる事になるだろうと述べています。それはラクラン氏へのスムーズな権限委譲のみならず、帝国の所有権にも関わってくる可能性があると指摘しています。また、ドミニオンの同業で投票システムを手掛けるスマートマティックも同様にFOXを訴えていて名誉毀損で27億ドルを求めています。

さらに、金銭的な代償はFOXにとって支払えない金額ではないものの、共和党に対して強力な影響力を与えてきた伝統は失われる可能性があるとも指摘されています。政治学者でヴァンダービルド大学教授のニコール・ヘマー氏は「まともな報道機関と見られなくなれば、アジェンダを設定して政治に強い影響力を与える事はなくなるだろう」と述べています。

ドミニオンが内部証言を提出したことは既に衝撃を与えています。幹部たちが荒唐無稽と分かっていながら選挙は盗まれたと商業上の理由から報じていたことや、番組のプロデューサーが事実を報道することと、視聴者が求める陰謀論との間で苦悩し「テロリストと交渉するようなものだ」と述べた事が明らかになるなど、報道機関として致命的な内部情報が暴露された事は現実にFOXにダメージを与えています。

◆ ◆ ◆

訴訟自体はどちらが勝つのか予断を許しませんが、本裁判の前に和解するという見方が多いようです。最後に触れたように、これ以上内部情報が暴露され、ダメージを負うとメディアとして再起が難しくなるからです。ドミニオンとしても「報道の自由」がある以上、完全な勝訴を望むのは難しいという事もあります。Hollywood Reporerは数億ドルで本裁判前に和解するのではないかと予想を伝えています。

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編集部からひとこと

火曜日、水曜日と早朝からWBCの熱い戦いで若干調子が狂った人です。メキシコ戦は厳しい状況からの鮮やかなサヨナラ劇、アメリカ戦は先制されてもすぐに追い付き、ピッチャー7人を繋いだリレー。最後は3番DHで出場していた大谷がクローザーとして登板してトラウトを空振り三振で世界一になるという漫画のような展開でした。とても楽しませて貰いました、ありがとうございます!そして今週からはシーズン開幕です。また「つらたのしい」日々の始まりです。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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