イスラエルとパレスチナの紛争、メディアはどう伝えているか【Media Innovation Weekly】10/16号

10月7日にパレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルに越境攻撃を踏み切ったのを受け、イスラエル側も報復攻撃を開始、既に数日間で数千人が亡くなったと伝えられています。

特集 ニュースレター

おはようございます。Media Innovationの土本です。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュースレター「Media Innovation Newsletter」 では毎週、ここでしか読めないメディア業界の注目トピックスの解説や、人気記事を紹介していきます。ウェブでの閲覧やバックナンバーはこちらから

会員限定のコミュニティ「イノベーターズギルド」を開設しました。Discordにて運営しています、こちらからご参加ください

★アプリも提供中です →AppStore/Google Play

今週のテーマ解説 イスラエルとパレスチナの紛争、メディアはどう伝えているか

10月7日にパレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルに越境攻撃を踏み切ったのを受け、イスラエル側も報復攻撃を開始、既に数日間で数千人が亡くなったと伝えられています。

イスラエルは地中海に面した国で、周囲をエジプト、レバノン、ヨルダンに囲まれています。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があり、長年紛争が絶えない地域です。イスラエルは第二次世界大戦後にユダヤ人国家として建設されて経緯があり、同地にいたパレスチナのアラブ人が排除され、その事が長年のパレスチナ紛争に繋がりました。

アラブ人はガザ地区とヨルダン川西岸地区に自治区を建設、国際的に認められている自治政府としてパレスチナ自治政府がありますが、基本的にヨルダン川西岸地区を統治しているのみで、ガザ地区は今回問題になっているハマスが実効支配しています。ハマスはイスラエルに対して度々ロケット砲などで攻撃を加えてきましたが、今回は地上軍を浸透させたことで、多くの被害者・捕虜を出す事になりました。

特に欧米メディアは多くの特派員を配置して報道を繰り広げています。これを巡るメディアの動きを追ってみたいと思います。

増える報道機関の犠牲者

現地でどの程度の数のジャーナリストが活動をしているのかを示す資料がありませんが、欧米のメディアを中心に多数のスタッフが入っているものと見られます。その中で、犠牲者も増えてきているようです。

ジャーナリスト保護委員会は13日、7日間で少なくとも11名のジャーナリストが死亡、2人が行方不明、2名が負傷したと伝えています。さらに14日にはAP通信が南レバノンの国境でイスラエル側の攻撃を受けロイター通信のカメラマンが死亡、6名のジャーナリストが負傷したと報じています。6名の中にはアルジャジーラ、フランス通信の記者も含まれていたということです。

また、BBCは同社の記者らがテルアビブの市街で警察に呼び止められた際、BBCのジャーナリストであると名乗り、記者証を提示したにも関わらず、銃を突きつけられ、暴行を受け、携帯電話を地面に投げつけられたと伝えています。イスラエル警察は正式な声明を出していません。

国連報道官のステファン・デュジャリック氏は「ジャーナリストは保護され、仕事をすることが許可される必要がある」と述べていますが、戦場で安全を確保するのは容易な事ではありません。

偽情報の氾濫、情報戦も繰り広げられる

CBSニュースのウェンディ・マクマホンCEOは、この戦争だと主張する1000本の映像を検証したところ、「使用できるのは僅かに10%だった」とアクシオスに対して述べています。WIREDもイーロン・マスク率いるXは偽情報の温床となっていて、信頼に足る情報は殆どないというOSINTO専門家のコメントを伝えています

ソーシャルメディアにおけるプロパガンダはこうした紛争において当然の戦術になってきたという背景もありますが、マスク氏が繰り返してきたXの方針転換が拍車を掛けています。同社は偽情報対策の人員の大半を解雇し、Blueの有料会員の投稿を優先的に表示するようにしました。当然ながら偽情報を発信したいプレイヤーにとって月数ドルは格安です。

Xはコミュニティノートという仕組みを作って、投稿コンテンツに対して他のユーザーがコメントを付け、誤った情報を指摘できるようにしていますが、それが表示されるまでには数時間がかかるといい、コミュニティノートが付く前に大量に拡散されてしまう状況にあります。

欧州連合はX、メタ、TikTokに対して紛争に関する違法コンテンツや偽情報に24時間以内に対処するよう書簡を送りました。EU当局はマスク氏に送った書簡で「同社が戦争に関するコンテンツに関して法的義務を果たしていなかったことが調査で判明した場合、数十億ドルの罰金を含む厳しい処罰を受ける可能性がある(今年成立したデジタルサービス法に基づくもの)」と警告しています(CNN)。各社は投稿やアカウントの削除に乗り出していますが、追い付いていないようです。

疑わしい情報は氾濫していて、暫くの間、特に批判的な目で物事に触れる必要があるでしょう。イスラエル軍、ネタニヤフ首相、バイデン大統領はハマスが乳児の首を切り落としたという衝撃的な事実を伝えましたが、ホワイトハウスはこの主張を撤回しました。世界で最も権威のある人達の言葉も今は誤りが含まれる懸念があります(Relieable Source)。

その他のあれこれ

BBCのスポーツ記者ノア・エイブラハムズ氏は同局がハマスを「テロリスト」と呼ばなかった事に対して抗議し辞任しました。英国政府はハマスをテロ組織と認定し、政府関係者からもBBCのスタンスを非難する声が上がっているということです。BBCは「私達は彼らをテロリストと呼ぶ人を何人も出演させていますし、英国政府の立場も報じています。ただ、私達の使命は読者が判断を下せるように、現場のありのままを伝える事です」と述べています(バラエティ)。

今回の戦争はテレビネットワークの視聴率にも影響を与えているようです。CNNとFOXニュースの視聴率が急上昇し、一方でMSNCBは急落したということです。MSNBCは元々国際ニュースに強くないという特性がありましたが、MSNBCの司会者らが、戦争に至った経緯についてイスラエルと米国の政治的決断にあると述べた事が不興を買ったという見方も伝えられています(Mediate)。

Deadlineは戦場で非情な現実に触れるジャーナリストらの苦悩を伝えています。頭上を飛び交うロケット砲やミサイル、廃墟とかした人家、床に飛び散った血、腐敗した人肉の匂い、こうした現実を無数に浴びながら、安全を確保し、事実をその目で確かめて、感情ではなく真実を伝えるのは簡単な仕事ではありません。ガザ地区はいま封鎖されていて、中から伝えられるのは戦争前から現地にいたジャーナリストだけです。こうした仕事に敬意を払いたいと思います。

今週の人気記事から ヤフーとLINEの広告事業はどう統合されるのか

LINEヤフーが統合後、初めての法人向けイベントを開催し、新会社におけるマーケティング領域の取り組みについて明らかにしました。両ブランドのサービスを組み合わせる事で、あらゆる顧客接点を一気通貫させ、LTVを最大化するプラットフォーム「Connect One」の構想を発表。これが新会社の中核になっていくようです。続きを読む

1.「LINEヤフー BIZ Conference」開催 統合後の広告事業戦略を発表

2.電通デジタル、AIを活用した企業の次世代マーケティング活動を統合的に支援するサービスを提供

3.脳科学的実証実験から、音声広告は映像広告と比べ3つの優位性

4.イード、映画メディア「シネマトゥデイ」運営会社と戦略的資本業務提携

5.朝日新聞出版、科学雑誌「Newton」発行のニュートンプレスを子会社化

6.FABRIC TOKYO、国内ファッションD2C分野で国内初の自動対話AIの実証実験を開始

7.NewsPicks Stage. が「ドキュメンタリーフィルム」制作 第1弾は富士通デジタルセールスに密着

8.PR TIMESの第2四半期、大幅増益も減収減益・・・プレスリリース件数は過去最高を更新

9.DACとTimeTreeがカレンダーシェアアプリを活用した広告配信「MIRAI_DSP」提供へ

10.メディアジーンとTNL、日本市場向けマーケティング支援プロジェクトを発足

会員限定記事から オンライン広告で温室効果ガスを年間720万トン排出

各業界で持続可能なビジネスにしていくことが求められていますが、オンライン広告がどの程度の二酸化酸素排出を行っているかという最新の調査結果が明らかになりました。それによれば年間で720万トンの温室効果ガスの排出があり、これは米国の家庭の140万世帯分に相当するということです。ちなみに1000インプレッションあたり約333グラムのCo2が発生するということです。続きを読む

1.【メディア企業徹底考察 #128】広告写真制作最大手のアマナが事業再生ADRに追い込まれた理由

2.消費されるメディアの82%が動画に・・・メタの調査レポート

3.独禁法で包囲されるアマゾン、FTCは勝てるのか?

4.オンライン広告の温室効果ガス排出量は年間約720 万トン、電力使用量は140万世帯を使用

5.B2Bメディアを立ち上げる、旅行専門誌「Skift」の実例【Media Innovation Weekly】10/10号

6.広告のために作られたサイトが世界の広告費の●●%を吸い込む【Media Innovation Weekly】10/2号

7.フランスの「ル・モンド」株式の大半を財団保有に

8.【メディア企業徹底考察 #129】広告収入が縮小のまぐまぐが計画比2割減収で着地見込み

9.バイトダンス、従業員による自社株買いで、評価額が一年前から26%減の2,235億ドルに

10.ワシントン・ポスト、240名の人員削減に踏み切る・・・今年は1億ドルの損失か

編集部からひとこと

最近、良く街で見かけるようになってきたLUUPという電動自転車・キックボードのシェアリングサービス。休日にたまたま家にいたら、その設置スペースを軒先に設置させて欲しいという営業がやってきました。「ふんふん」と話を聞いていたのですが、その設置対価はなんと1000円という提示。そりゃあまあ、こんな住宅地に置いても余り使われないとは思うけどさ。1万円くらい貰えるならと思いましたが、そんな美味しい話はありませんでした(笑)。儲かる軒先ビジネスを考える旅に出ます。ではまた

《Manabu Tsuchimoto》

関連タグ

Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

特集