越境ECを手がける株式会社ジグザグが2025年2月25日に上場承認され、3月31日に新規上場します。
海外カスタマー向けに日本のECサイトでストレスなく買い物ができる「WorldShopping」や、日本のECサイト事業者に向けに海外カスタマーの購入代行サービスを行う「WorldShoppingBIZ」を提供する会社。2期連続で経常利益を出しており、2025年5月期(2024年6月1日~2025年5月31日)も黒字を予想。利益率は20%近くあり、堅調に拡大しています。
ジグザグと似た事業を展開する会社がBEENOS株式会社。越境ECの「Buyee」は成長を下支えしており、将来性のある領域だと言えるでしょう。
取扱高は40%超のペースで拡大中
海外のECサイトでユーザーが購入する場合、3つの問題点が生じます。言語、決済、物流です。ジグザグはこの3つを解決するサービスを提供しており、「WorldShopping」はユーザーとの間に入って多言語サービスを展開。Alipayや海外版Amazon Pay、PayPalなどの決済手段も提供します。また、ユーザーから商品代金と配送手数料などを受け取り、商品を届けるところまでをフルサポートしています。
BEENOSは日本のユーザー向けにeBayの購入代行サービス「セカイモン」を提供しています。ジグザグの「WorldShopping」はその逆バージョンで、日本のオウンドECサイトと海外のユーザーを繋いでいるところに特徴があります。
海外のユーザーは日本のECサイトを利用したいと考えても、個人輸入代行サービスを探すなど面倒な手続きが必要でした。信用力もないため、不安を覚えるユーザーも少なくありません。「WorldShopping」は各決済サービスから公認も得ているため、安心して買い物ができるというわけです。
日本のEC事業者向けの「WorldShoppingBIZ」は、サイトにJavaScriptタグを1行追加するだけで利用可能なサービス。事業者側は国内オペレーションそのままで、海外に対応できるという特徴があります。このサービスは初期費用が3万円、月額5千円というストック型。ジグザグの安定した収益基盤となっています。
2024年5月期の売上高は前期比37.9%増の11億600万円、経常利益は5.7倍の1億7,700万円に急増しました。経常利益率は3.9%から16.0%に上昇しています。

※新規上場申請のための有価証券報告書より筆者作成
コロナ禍の2021年5月期に売上高が前期の3.3倍に拡大。黒字化を果たします。翌期は人材採用などの積極的な投資を実行して赤字に転落しましたが、その後は持ち直して利益を出し続けています。2025年5月期の売上高は前期比29.0%増の14億2,700万円、経常利益は同60.5%増の2億8,400万円を予想。2022年5月期から2025年5月期(予想)までの売上成長率は平均で36.4%。
売上が伸びているのは取扱高が拡大しているためで、2024年5月の取扱高は49億9,500万円でした。こちらは平均43.8%のペースで伸びています。取扱高に対する売上比率は2割ほど。大きく変化していません。市場の拡大ペースに乗っていると考えられそうです。

※新規上場申請のための有価証券報告書より筆者作成
円安と旺盛なインバウンド需要も追い風に
ジグザグは越境ECプラットフォームの単一セグメントのため、事業領域の拡大を目的としたM&Aを実施しない限り、市場の伸長に合わせて成長することになるでしょう。越境ECは市場規模が少ないようにも感じますが、マーケットとしては巨大。経済産業省によると、アメリカ人が日本のECサイトを通じて購入した額は2023年の推計値で3,768億円。前年比5.8%の増加でした。中国は440億円あり、12.3%増加しています。2国間合わせて4,000億円を超える市場があるのです。
国内で4,000億円を超える規模を持つものにミネラルウォーターやビスケット、スパゲティなどがあり、アメリカと中国の越境ECだけで日常的に目にするものと同規模の売買がなされていることになります。

※経済産業省「電子商取引に関する市場調査」より
経済産業省のレポートによると、訪日後に越境ECで気に入った商品をリピート購入したいか、という質問に対して思うと答えたのは54.7%、やや思うが29.7%と高い比率を占めています。2024年の訪日外国人観光客数は3,686万人で過去最高を記録しました。前年比でおよそ1.5倍に急拡大しています。
来日時には美容・化粧品やファッションアイテムなどの購入比率が高く、ECによるリピート購入には期待ができます。インバウンド需要が旺盛な点も、ジグザグにとっては追い風となるでしょう。
足元でジグザグが得意としている領域がファッション。中長期的にはエンタメ・ホビー関連へと手を広げ、エリアはアジアから北米の強化を図る計画です。エリア別の売上高では、アジアが54%、北米が31%となっています。経済産業省の調査の通り、アメリカは有望な市場と見て間違いないでしょう。円安基調であることもビジネスを拡大しやすい好材料の一つです。
円高基調になったら要注意
BEENOSのグローバルコマースは好調そのもの。2024年9月期(2023年10月1日~2024年9月30日)における同事業の売上高は前期比20.7%増の145億9,300万円、営業利益は同20.8%増の44億2,600万円でした。営業利益率は30.3%。流通総額は同27.4%増の900億円となり、1,000億円台が視野に入りました。BEENOSは2025年9月期の流通総額を1,000億円と予想しています。
2025年9月期第1四半期(2024年10月1日~2024年12月31日)の売上高は前年同期間比22.7%増の41億7,900万円、営業利益は同10.7%増の10億800万円でした。勢いは落ちていません。
BEENOSのグローバルコマース事業は主に購入代行サービスの「Buyee」と、海外配送を手掛ける「転送コム」で構成されています。ジグザグの事業内容と似ており、成長性を比較する対象として最適でしょう。
越境ECの一番のリスクは為替変動。仮に円高基調になると、急速に勢いを失うことになりかねません。事実、「eBay」の購入代行サービスである「セカイモン」の流通総額は四半期で10億円を切るようになりました。このサービスの流通総額は、2020年ごろに四半期で13億円を超えていました。
BEENOSは国内ユーザー、海外ユーザーのどちらも対象にした事業を展開してリスクヘッジを図っているものの、ジグザグは越境ECの単一セグメント。中長期的にはこの弱点を克服する必要に迫られるのではないでしょうか。