MIの9月特集は「食とメディアの未来」ということで、新しいメディアやテクノロジーによって変わる人と食との関係を掘り下げていきます。

家での食事を考えるとき、出前という古くて新しい世界があります。この領域を変革していっているのは、大型上場でも話題になったUber。彼らが展開するフードデリバリーサービス「Uber Eats」が日本でも急速に存在感を増しています。マクドナルド、吉野家、王将などのファストフード店の軒先ではUber Eatsのドライバーがひっきりなしに訪れ、商品をピックアップして、自宅にいるユーザーに届けています。

そんなUber Eatsの新潮流として「ゴーストレストラン」と呼ばれる業態があります。彼らは実店舗を持たず、Uber Eatsなどのフードデリバリーサービスのみで活動する、まさに”ゴースト”な存在。その実態はどのようになっているのか、筋肉飲料の安原 莞太代表にお話を伺いました。

―――どういう経緯で「筋肉飲料」というゴーストレストランに辿り着いたのでしょうか?

京都市出身で、同志社大学を出ました。大学時代からIT関係の仕事をしている仲間が多かったです。その当時の仲間とは今も繋がっていて、「筋肉飲料」を手伝ってくれているメンバーもいます。卒業後は普通の就職をして、愛知県のディーラーで働いていました。3年ほど働いたのですが、起業したいという想いもあり、退職。ただ、何をやろうかという具体的なアイデアはなく、石垣島に行ったり、オーストラリアに行ったり、放浪の旅をしていました(笑)。

―――旅でビジネスのきっかけを見つけたのでしょうか?

実はそうなんです。オーストラリアに1年ほど住んでいた時のルームメイトがプロテイン入りのスムージーを自作して飲んでたんです。街中やジムでも、プロテイン入りのスムージーはメジャーな存在でした。でも、調べてみると日本では殆ど普及していない。あったとしてもジムで提供されるくらいで、専門店は見当たらない。これは面白いんじゃないかと思い、帰国後に東京で始めることを企画しました。といっても素人が突然始めても成功率は低いだろうと思い、都内にあるスムージーの専門店で数ヶ月修行させてもらい、スムージーには何が必要か体験して学ばせてもらいました。

―――「筋肉飲料」というお店はどういったコンセプトのお店なのでしょうか?

「筋肉飲料」はUber Eatsや出前館の宅配だけで営業を行っている、いわゆるゴーストレストランです(一部、店舗でのピックアップも行っている)。様々なフルーツベースのスムージーに、プロテインを配合したプロテインスムージーの専門店で、好みの栄養素を追加するアドオンもあります。プロテイン(タンパク質)は体の健康を維持する為に非常に重要な栄養素ですが、意外に摂取するのは大変です。プロテインスムージーはとても飲みやすく美味しい筋肉飲料になっていますので、筋肉を付けたいという方だけでなく、すべての現代人に飲んで欲しい商品です。

筋肉飲料のウェブサイト

―――最初からゴーストレストランという形態を考えていたのでしょうか?

当初はキッチンカーを考えていました。オフィスビルの一階などに移動式で出店する店舗です。ただ、キッチンカー自体に400万円程度の投資が必要なのと、出店場所も抽選だったり、費用がかかったりと、通年で営業する事が難しそうでした。一方、路面店を出すとなると初期投資は1000万円近くになります。そこで、自然と選択肢に入ったのがゴーストレストランでした。独自の店舗は構えず、Uber Eatsなどの宅配サービスを専門にした業態です。こうした業態が徐々に出始めていたことは知っていました。夜間はバーを営業している店舗の昼間を借りて調理を行い、Uber Eatsのドライバーに商品を渡しています。この形を取ることで初期投資は50万円ほどに抑えられました。

―――なんと、そこまで初期投資を抑えられるのですね

店舗は、空き時間をマッチングするサービスで探して決めました。六本木駅から数分というロケーションを、昼間だけ借りているのですが、通常の店舗の賃貸契約をするのと比べると激安です。飲食店は多産多死と言われます。新しいオープンしたお店でも、1、2年で閉店してしまうのはザラです。ですので、そこまで初期投資をするのも怖いと思い、自然とゴーストレストランに辿り着きました。当時はまだ珍しい業態だったので、反応も大きかったです。

―――六本木というロケーションは意味があるのでしょうか?

理由は2つあります。

1つ目は顧客です。「現代人に不足しがちな”タンパク質”を補う飲料」として売り出していくに当たって、そこに共感してくれて、ある程度の所得がある顧客が集まっているエリアだということです。アクセスの良さを活かして、店舗での受け取りサービスも始める事が出来ました。

2つ目はUber Eatsのドライバー数です。Uber Eatsの配達手数料は配達難易度によってリアルタイムに変化します。ドライバーが少ない時間帯では高額になります。六本木や麻布十番といったエリアは十分にドライバーがいて、特にこの店の周辺には人気のお店があって、ドライバーの数が見込めました。配達手数料が高いと、プロテインスムージーのようなそこまで単価が高くない商品にとっては致命的です。

―――Uber Eatsのシステムに合った戦略というのが求められそうですね

それは間違いないですね。ただ、プラットフォームの上で戦う難しさというのもあります。

一番苦労したのはユーザーの顔が見えないということです。私達の仕事は商品をドライバーに渡すだけで、その先にどういうお客さんがいて、どう消費されているかは推測でしか無いというのは辛い点です。Uber Eatsで知れるのは、お客さんの下の名前くらいなんです。そこで、初期にはチラシを同封してQRコードからアンケートに答えてもらっていました。あるいは、TwitterやInstagramではエゴサで商品を買ってくれたつぶやきを探して、お礼を書いたりしてコミュニケーションを取るようにしています。

売り手の顔が見えないというのはお客さんにとっても同様のもどかしさだと思うので、今はメッセージカードを同封していて、買ってくれたお礼や、自分たちの目指すコンセプトについて伝えるようにしています。ソーシャルメディアも店舗名と私の名前も出して、中が見えるように発信しています。

―――Uber Eatsの中でのマーケティングというのは工夫の余地があるのでしょうか?

Uber Eatsの中でもSEO(検索エンジン最適化)のような要素はもちろんあるでしょうが、開示されている情報は殆どありません。注文数、レビュー数、購入率などの要素が順位に影響すると考えられますが、特別な工夫はしていません。

残念ながら現状は食事を探している方が大半で、飲料の市場は小さいのではないかと考えられますし、巨大なハンバーガーショップと対抗しても勝ち目はありませんので、地道にプラットフォームの外でのマーケティングをしながら、きちんと良い商品を作って、顧客と向き合いながら、お店を継続していくというのが正解なのではないかと思います。

―――ゴーストレストランをやっていて大変だったのはどんなところでしょうか?

失敗談は数限りなくあります。例えば初期はインフルエンサーマーケティングのようなものを試してみましたが、余り効果はありませんでした。インフルエンサーは全国区の人気ですから、六本木を中心に配達エリアに制限がある状態では向いてないかもしれません。むしろ、「筋肉飲料」という物珍しさがある商品なので、試飲は積極的にやった方が良かったかもしれません。最近は時折、店舗前でサンプリングをやっています。

笑い話で言うと、一日中キッチンでスムージーを作って、それをドライバーに渡すという仕事になって、殆ど人とコミュニケーションが無いので、精神的には結構病みます(笑)。あと、ドライバー頼みです。手数料が高くなるだけでなく、ドライバーがいなければUber Eatsは注文を受け付けてくれません。梅雨の時期はドライバーも少なく、全然注文が入らないと思って調べてみたら、ドライバーがいなくて注文ができないと、あれは悲しかったですね・・・。

プロテインスムージーを作る安原代表

―――ゴーストレストランという業態を今後考えられる後進にアドバイスがあればお願いします

幾つかあります。1つ目は、3~4種類のアイテムを扱うのが良いのではないかという事です。「筋肉飲料」ではプロテインスムージーを提供していますが、ここに並行して筋肉弁当、サラダ、カフェを扱う事を計画しています。プロテインスムージーのピークは朝と夕方で、午後の時間帯は余裕がある、というパターンがあり、複数のアイテムを扱う事でピークを平準化できるのではないかと思っています。スムージーとお弁当を同じ店舗で買ってもらえれば、お客さんにとっても配達手数料の節約になります。

2つ目は法人営業を取ることです。やはり定期的に注文をしてくれる大口の顧客というのはビジネスにとって重要です。先日、WeWorkに宅配を行ったのですが、飲料を定期的に発注する法人顧客というのは珍しいです。でも、弁当であれば可能性があります。そこから着想して、筋肉弁当というアイテムを検討しています。

3つ目は当たり前の事ですが、計画はきちんと立てることです。ゴーストレストランでは数十万円の投資で事業を始めることができますが、それでも勝算があるであろうプランを立てないと、あっという間に資金は底をつきます。地味にでも経営を続けられれば、新しいチャンスも掴めると思うので、飲食店の世界では何とか継続できるだけの利益を上げ続けるというのが何より大事ではないでしょうか。

―――ゴーストレストランはこれからも存在感を増していくでしょうか?

初期投資も抑えられますし、数はどんどん増えてくるのは間違いないと思います。簡単に飲食店が立ち上げられるようになったことで、多種多様な店舗が楽しめるようになるでしょう。ただ一方で、そこまで簡単に立ち上げられるお店も限られますので、実店舗と同じように淘汰もされていくのではないでしょうか? それから、「筋肉飲料」もいずれは路面店を構えたいと思っているように、ゴーストレストランが”ゴースト”ではなくなる事例もどんどん出てくるように思います。

―――今後の展開を教えてください

先程も挙げたように、弁当、サラダ、カフェを並行して展開するというのは検討しています。直近の展開では、ボクシング フィットネススタジオの「b-monster」さんとコラボした新商品を9月13日から販売開始します。ボクシングで体を動かすのと、プロテインスムージーはとても相性が良いので、ぜひ一緒に試してみて欲しいです。

9月特集: 食とメディアの未来

  1. メディアとテクノロジーの進化で変化を続ける「食」のカオスマップを公開!
  2. 店舗を持たずにUber Eatsで躍進するゴーストレストラン「筋肉飲料」安原代表インタビュー
  3. 日経新聞とバカンがタッグを組んだ異色の弁当取り置きサービス「QUIPPA」インタビュー
  4. トークンエコノミーで良質な”食のSNS”を構築し世界へ・・・「シンクロライフ」神谷代表インタビュー
  5. 地図が人間の行動を変える、世界中の店舗をデータ化する「yext」インタビュー
  6. 食から暮らしを豊かにする日本最大級のグルメメディア「macaroni」インタビュー
  7. 実名の信頼できる口コミでグルメをもっと楽しくする「Retty」インタビュー

筋肉飲料も登壇の今月のイベントは9月25日(水)に開催

毎月開催の「Media Innovation Meetup」も 「メディアと食の未来」として、特集に参加いただいた3社をお招きして、開催します。メディアやテクノロジーの進化によって変わりつつある、人間の根幹の欲求の一つである「食」と人間との関係について、ヒントを得られる場となりますので、ぜひご参加ください。

登壇いただくのは、Uber Eatsを活用した実店舗を持たないゴーストレストランとしてプロテインスムージーの販売にチャレンジする「筋肉飲料」の安原莞太 代表、利用することによってトークン(仮想通貨)が溜まっていくグルメSNS「シンクロライフ」を運営する株式会社GINKANの神谷知愛 代表取締役、日経新聞がスタートした弁当の取り置きサービス「QUIPPA」を展開する日本経済新聞社 ID・事業企画グループの瀧島伸篤氏、株式会社バカン Program Managerの鈴木慎介氏、元セブン&アイHD取締役執行役員CIOで、株式会社デジタルシフトウェーブ代表取締役、店舗の情報を一元管理するプラットフォーム「yext」の最高顧問などを務める鈴木康弘氏らです。

また今回は「Media Innovation #8 食とメディアの未来 ゴーストレストラン、トークン✕食SNS、日経が作った弁当サービス!? Sponsored by pasture」として、 エン・ジャパン株式会社の展開するフリーランスマネジメントツール「pasture」のスポンサードで、いつもよりチケット価格を抑えて開催させていただきます。 メディア運営でも活用できるサービスですので、こちらもぜひチェックしてみてください。

■概要
Media Innovation #8 食とメディアの未来 ゴーストレストラン、トークン✕食SNS、日経が作った弁当サービス!? Sponsored by pasture
日時 2019年9月25日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING秋葉原 〒101-0021 東京都千代田区外神田1丁目15−18 奥山ビル 8階
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    筋肉飲料 安原莞太 代表
    株式会社GINKAN 神谷知愛 代表取締役
    日本経済新聞社 ID・事業企画グループ 瀧島伸篤氏、株式会社バカン Program Manager 鈴木慎介氏
     株式会社デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘 代表取締役
20:15 パネルディスカッション
20:50 懇親会
21:45 終了

チケットはPeatixで販売中です。

サロン会員の皆様には1000円引きのクーポンコードを配布しています。下記からぜひ入会ください。