MIの9月特集は「食とメディアの未来」と題して、メディアやテクノロジーの進化によって変わりつつある、人と食との関係を追っています。今回取り上げるのはメディア企業の興味深い新規事業です。

全社を挙げてのデジタルシフトに邁進する日本経済新聞社。日経電子版の成功や、デジタルシフトの経緯については過去にもインタビューで取り上げました。そんな同社が取り組むのが、お弁当の取り置きサービス「QUIPPA」です。異色の新規事業に取り組む、同社デジタル事業 デジタル編成ユニットの瀧島伸篤氏、そして同社と協業で取り組む株式会社バカン Program Managerの鈴木慎介氏にお話を伺いました。

左: バカン Program Manager 鈴木慎介氏、右: 日本経済新聞社 デジタル事業 デジタル編成ユニットの瀧島伸篤氏

―――日経新聞として異色の新規事業ですが、どういった経緯で立ち上がったのでしょうか?

瀧島: 私自身は新卒で日経新聞に入社して、当初は広告営業からスタートし、10年前の日経電子版の創刊準備から携わってきました。特に電子版のログインIDでもある日経IDシステムは検討段階から関わってきました。日経電子版がようやく軌道に乗ってきたところで、更にデジタル事業の拡大をしていくという方針で、約2年前にデジタル編成ユニットの中に新規事業のチームが作られました。

現在新規事業として取り組んでいるのは、大きく分けて2点あって、(1)既存のメディアやコンテンツを更に拡大していくこと (2)日経IDや日経電子版のユーザー基盤を活用できる新事業の立ち上げ です。前者では、「ヤング日経」や「U40の匠」といったデジタル発のコンテンツ制作に乗り出しています。後者で取り組んでいるのが今回ご紹介する「QUIPPA」や既にクローズしてしまいましたが「SOLMU」です。

日経IDを利用できるサービスは既に多岐に渡っている

組織ができた2年前、チームができたとはいえ、新規事業の経験があるメンバーも殆どおらず、エンジニアも少なかったため、様々な事業アイデアを実現する協業パートナーを探しまして、その中でご縁があった一社が、バカンさんでした。

鈴木: バカンは創業4期目のスタートアップで、「いま 空いているか、1秒でわかる優しい世界。」というのをコンセプトに事業に取り組んでいます。具体的なプロダクトとしては、AIやIoTを活用し、カメラやセンサーなどを組み合わせて、飲食店やトイレの空き情報自動検知し、デジタルサイネージやスマートフォンにリアルタイムの空き状況を表示する、というようなものがあります。これは百貨店やオフィスビルなどで導入が進んでいます。行ってみたら満員で入れなかった、というような無駄な時間を無くしたいという風に考えていて、日経さんともビジネスパーソンの無駄な時間を削減するようなサービスが作れればと考えました。

QUIPPA」はお弁当を取り置いてもらうことで、ランチ時に買いに行ったものの無い・・・という体験を無くすサービス

―――お弁当の取り置きという企画は早い段階からあったのでしょうか?

瀧島: 日経新聞は大手町にオフィスがあるのですが、ランチ事情はなかなか大変でして・・・。自分たちは自由にお昼休みを取ってますが、そうでない企業も比較的多い地域ではないかと思ってまして、お昼時にお店を探すのはなかなか骨が折れます。なので、ランチ時間の混雑というビジネスパーソンのペインの一つを解決するというのは初期からアイデアとしてはありました。でも上層部からは「え、お弁当? 新聞紙で弁当を包むのか?」みたいな反応でしたね(笑)。なので、勝負できる領域なんだ、というのは一つ一つ立証していく作業が必要でした。

まずはユーザー側のニーズを探ろうということで、モックアップを載せたチラシを作って、事前登録してくれたら500円引きのチケットをあげるよ、という手作りのチラシを本社の前で配りました。どうやったら道行く人がチラシを受け取ってくれるのか、警察から許可を取るにはどうしたらいいのか、チラシを配るノウハウはだいぶ貯まりました(笑)。お陰様で、約600人の方が事前登録をしてくれて、一定のニーズがあることが分かりました。

日本経済新聞社 瀧島氏

―――店舗側のニーズも探られたのでしょうか?

瀧島: そうですね。店舗としてはランチのお弁当で集客したいという意向はそこまでなさそうでした。ある意味、黙っていてもお客さんは来るような状況ですので。ただ、店舗の収益源は夜の営業というケースも多く、そちらに繋げたいという要望はありました。

鈴木: ユーザー接点は求めていましたね。なので「QUIPPA」の基本コンセプトは、Uber Eatsのようなフードデリバリーサービスとは異なり、取り置きで、店舗に取りに行くというところに置いています。お弁当で接点を持ってもらって、取りに行った際にお店の雰囲気を体感してもらって、夜の利用を想起してもらうことができればと思っています。

―――昨年末にリリースされてからの反響はいかがでしょうか?

瀧島: 徐々に利用が増えている状況です。ユーザー層は25~50歳くらいで、バラツキがあります。男女では男性比率が高いです。これまではサービスエリアも都内の千代田区を中心として港区、中央区の一部に限定されているということで、日経IDのエリアターゲティングでの告知のみに留まっていましたが、これからはマーケティングを本格化させていく計画です。第一弾として、今月27日まで「QUIPPA祭り」という企画を開催していまして、新規会員登録で1000円のクーポン付与、最大1万円分の購入金額相当をクーポンバックするというキャンペーンを実施しています。

鈴木: ユーザーヒアリングなども行っていますが、期待していた通りの反応として、そもそもお弁当を販売しているお店を探す手段がこれまでなかったので重宝している、というものがありました。そういった情報は出回っておらず、メディア的な価値を感じて頂けていることも確認できました。また、財布を忘れても、キャッシュレスで決済できるので助かる、という声も聞かれました。お弁当は現金決済が多かったりするので、その点でも貢献できているようです。

9月18日は「QUIPPAの日」キャンペーンも開催中です

―――ユーザーはどんな風に「QUIPPA」を使っているのでしょうか?

瀧島: 見ていると、11時くらいに、その日に食べるお弁当を注文して、自分の時間に取りに行くという人が多そうです。私達の理想としては、朝の通勤時などに注文してもらって、お店もその情報から需要予測をしてお弁当を作ってもらう、という事なのですが、まだ少し越えるべきハードルはありそうです。なかなか直前にならないと、「ランチにはこのお弁当を食べよう」という気分にはならないですよね(笑)。

鈴木: 「QUIPPA」には、弊社に過去にモバイルゲームの開発に携わっていたメンバーが多いということもあって、少し遊びの要素を入れています。一つにスタンプ機能があり、10枚集めるとガチャが回せて、当たるとクーポンが貰える、というような仕掛けがあります。例えば、前日夜までに注文を済ませると、貰えるスタンプが増えて、それを目当てにユーザーさんが早めに注文をしてくれるようになる。するとお店も注文の入り具合で商品を揃えるということができるのでハッピーかもしれません。

バカン鈴木氏

―――対象地域は徐々に広げていくイメージでしょうか?

瀧島: 現状は東京の東側に偏っていますが、徐々に広げています。ただ、あくまでもビジネスパーソン向けのサービスという位置づけですので、全国津々浦々で、ということではないかなと思っています。オフィスビルが多い新宿区や渋谷区などには順次広げていく予定です。

―――取り置きではなく、届けて欲しいという声はありますか?

瀧島: はい。最初のコンセプトとは少々異なりますが、「QUIPPA for OFFICE」として、オフィスビルの特定の場所まで注文をまとめて配達するサービスを準備中です。アンケートなどでもユーザーの利用意向が非常に高かったですね。店舗にとっても大口の法人需要を取り込む手段の一つになっていけば良いなと思います。宅配では、ラストワンマイルの配送網が課題になりますが、日経新聞の販売店のネットワークがありますので、これを活用することも一つの方法として考えています。これは日経新聞ならではの取り組みかもしれません。

―――今後どのようなサービスにしていきたいと考えているのでしょうか?

鈴木: バカンとしては、ユーザーの「行ってみたけど駄目だった」というような行動を無くすために様々なプロダクトに取り組んでいるのですが、まだ法人向けのサービスが多く、個人向けは「QUIPPA」が初めてです。お弁当の在庫情報は取り置き予約だけではなく、もっと拡張性のあるアイデアだと捉えていますので、もっと深堀りしていって、ビジネスパーソンの時間をもっと有意義なものにできればと思っています。

瀧島: 我々の新規事業チームのコンセプトでもありますが、日経はビジネスパーソン向けに、情報以外でも役に立ちたいと思っています。それを体現する一つのサービスとして「QUIPPA」を成長させられるよう、サービス改善を積み重ねていければと思います。

9月特集: 食とメディアの未来

  1. メディアとテクノロジーの進化で変化を続ける「食」のカオスマップを公開!
  2. 店舗を持たずにUber Eatsで躍進するゴーストレストラン「筋肉飲料」安原代表インタビュー
  3. 日経新聞とバカンがタッグを組んだ異色の弁当取り置きサービス「QUIPPA」インタビュー
  4. トークンエコノミーで良質な”食のSNS”を構築し世界へ・・・「シンクロライフ」神谷代表インタビュー
  5. 地図が人間の行動を変える、世界中の店舗をデータ化する「yext」インタビュー
  6. 食から暮らしを豊かにする日本最大級のグルメメディア「macaroni」インタビュー
  7. 実名の信頼できる口コミでグルメをもっと楽しくする「Retty」インタビュー

日経新聞、バカンも登壇の今月のイベントは9月25日(水)に開催

毎月開催の「Media Innovation Meetup」も 「メディアと食の未来」として、特集に参加いただいた3社をお招きして、開催します。メディアやテクノロジーの進化によって変わりつつある、人間の根幹の欲求の一つである「食」と人間との関係について、ヒントを得られる場となりますので、ぜひご参加ください。

登壇いただくのは、Uber Eatsを活用した実店舗を持たないゴーストレストランとしてプロテインスムージーの販売にチャレンジする「筋肉飲料」の安原莞太 代表、利用することによってトークン(仮想通貨)が溜まっていくグルメSNS「シンクロライフ」を運営する株式会社GINKANの神谷知愛 代表取締役、日経新聞がスタートした弁当の取り置きサービス「QUIPPA」を展開する日本経済新聞社 ID・事業企画グループの瀧島伸篤氏、株式会社バカン Program Managerの鈴木慎介氏、元セブン&アイHD取締役執行役員CIOで、株式会社デジタルシフトウェーブ代表取締役、店舗の情報を一元管理するプラットフォーム「yext」の最高顧問などを務める鈴木康弘氏らです。

また今回は「Media Innovation #8 食とメディアの未来 ゴーストレストラン、トークン✕食SNS、日経が作った弁当サービス!? Sponsored by pasture」として、 エン・ジャパン株式会社の展開するフリーランスマネジメントツール「pasture」のスポンサードで、いつもよりチケット価格を抑えて開催させていただきます。 メディア運営でも活用できるサービスですので、こちらもぜひチェックしてみてください。

■概要
Media Innovation #8 食とメディアの未来 ゴーストレストラン、トークン✕食SNS、日経が作った弁当サービス!? Sponsored by pasture
日時 2019年9月25日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING秋葉原 〒101-0021 東京都千代田区外神田1丁目15−18 奥山ビル 8階
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    筋肉飲料 安原莞太 代表
    株式会社GINKAN 神谷知愛 代表取締役
    日本経済新聞社 ID・事業企画グループ 瀧島伸篤氏、株式会社バカン Program Manager 鈴木慎介氏
    株式会社デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘 代表取締役
20:15 パネルディスカッション
20:50 懇親会
21:45 終了

チケットはPeatixで販売中です。

サロン会員の皆様には1000円引きのクーポンコードを配布しています。下記からぜひ入会ください。