2019年7月29日(月)、株式会社キメラは、招待制のイベント「メディアのサブスクリプションビジネス戦略」を開催。同社が日本国内総代理店を務めるサブスクリプション管理ツール「Piano」の紹介や、デジタルメディアにおけるグローバルなサブスクリプションモデル最新事情などが講演されました。本稿では株式会社電通 出版ビジネス・プロデュース局の照井真一氏、株式会社富士山マガジンサービスCOOの神谷アントニオ氏、株式会社キメラ代表取締役社長COOの大東洋克氏によるパネルディスカッション「サブスクリプションへの道筋、あるべき姿」のレポートをお届けします。

―― まずはみなさん、自己紹介をお願いします。

照井:電通の照井と申します。出版ビジネス・プロデュース局で新規事業開発に携わっておりまして、出版社さんとデジタル領域で新しい収益を創り出していくミッションを担っております。2018年には、富士山マガジンサービスさんと、雑誌コンテンツのマネタイズに特化した合弁会社㈱magaportを設立したり、最近では、小学館さんとDeNAさんによる共同出資会社MERYに出資させて頂くなど、事業投資含め広告に限らず、デジタルメディア事業全般のビジネスグロースに貢献していければと考えています。

神谷:富士山マガジンの神谷です。”元祖サブスクリプション”ともいえる定期購読のメソッドで、出版社さんのマネタイズに注力してきました。主戦場が紙からWebに移行するにあたって、みなさんのコンテンツをお預かりしています。Pianoとの取り組みも積極的にやっていきたいと思っています。

大東:キメラの大東です。元々はGMOインターネット株式会社にジョインしていましたが、その後独立してコンテンツ最適化や機械学習の活用に乗り出し、今はCAMPFIREとキメラで事業を行っています。パブリッシャーとは大きく異なる界隈からきていますので、ある程度、客観的な目を持って向き合っていけると思っています。

―― 最初のテーマは「自社メディアのエンゲージメントと外部配信」です。さまざまなポータルやキュレーションで多くのコンテンツを目にできる今日の状況で、いかにエンゲージメントを作っておられますか?

神谷:外部メディアの存在は、書店における他社の出版物と同じだと思います。書店にはさまざまな書籍や雑誌が並びます。その中で自社のコンテンツを買ってもらうには、そのコンテンツなり、ブランドなりを信じてもらうしかありません。昔も今も、外部メディアは最終的に自分たちのコンテンツの元へユーザーを引き寄せるものだととらえ、顧客を誘導する源として使うべきだと考えています。

照井:広告ビジネスでは、出版社のWebサイトでタイアップコンテンツを作成し、それを外部配信することで、より多くのユーザーに見にきてもらうという手法を取っています。その際、広告会社は流入元やコンテンツへの接触状況を分析し、そのユーザーがどういう層で、どういうインサイトを持っているか、といったナレッジを収集・蓄積しています。こうした広告領域での取組みは、サブスクリプション事業においても活かすことができるのではと思っています。

株式会社電通 出版ビジネス・プロデュース局の照井真一氏

―― 富士山マガジンさんは、ユーザーを集めて定期購読にしっかりつなげてきた実績をお持ちです。キュレーションやポータルはどう実現してきましたか。

神谷:今日は、新しいユーザーとの出会いの場はソーシャルメディアであったりキュレーションメディアであったりするわけですが、言ってしまえば”新しい本屋さん”で出会っているというだけのことです。ただPVを集めるのではなく、トラフィックの源からどういう人が来てくれているのかをしっかり認識したうえで、1回目の記事を読んでくれた人に2回目はどういう記事を提供すべきかを考えるなどというエンゲージメントの実現に取り組んでいくべきだと思っています。

大東:日本のさまざまな事例を見ていると、日本は海外と比べて無料モデルにこだわりがちかな、と感じています。「まずはユーザーを獲得しましょう」という考えで無料モデルを用意するのでしょうが、いざ人を集めたあとの策は考えていなかった……という事例も見られます。海外はその辺、振り切っているメディアも多く見られ、有料モデルで行くと決めたならプレミアムな価値がどこにあるのかを最初から明確に打ち出し、無料モデルは用意しなかったりします。無料でユーザーを増やすとどうしてもプレミアムな価値が落ちますので、それをいかに盛り返し、どう高めていくかが課題ですね。

―再び神谷氏にお聞きします。具体的に、ユーザー層をどのように分析しておられますか。

神谷:まずは、手元のデータをしっかり分析できるようになることです。ユーザーがどのサイトから来たのを認識するだけでも大きな一歩です。メディアだけでなく、イベントに訪れてくれた人、物販を利用してくれた人を分析するのも大切です。また、弊社ではメールをタッチポイントとするのが一番効率がいい手段だと考えておりまして、今後もメールを中心にしてお客様とコミュニケーションを行っていくつもりです。

株式会社富士山マガジンサービスCTOの神谷アントニオ氏

―今日、さまざまなパブリッシャーがサブスクリプションサービスに舵を切ろうとしていますが、現状のメソッドで成功すると思われますか?

大東:正確には、確固たるメソッド自体がまだ確立されていない、というのが現状だと思います。成功にせよ失敗にせよ、まだ事例が少なすぎます。サブスクリプションに移行するためには、何から手をつければよいかという手順が絶対あるはずですので、今はあせらず、丁寧に分析して、いかにその手法を手繰り寄せるかが大切だと思います。

周囲を見渡すと、noteの手法は巧みだと感じます。記事単位で”投げ銭”できたり、一部のプレミアムコンテンツのみが有料だったりと、無料で利用したいユーザーも切り捨てない、絶妙なところを突いています。海外では、Wikipediaが寄付を募ったりしていますね。ゆくゆくはあれがメディアにも波及して、記者やライター個人に”投げ銭”ができるようになったりするのではと思います。そうした時代をむかえるにあたっては、そのコンテンツに対するブランド力がどこにあるのかをしっかり決めておくのが大切です。

神谷:紙の時代と大きく異なるのは、読者がほしがるコンテンツを作ったあとに届ける手段が大きく増えたということです。そのコンテンツは、自分たちのもっとも重要なブランデッド領域で配信する必要が本当にあるのかをよく考え、さまざまなチャレンジをすべきではないかと思います。紙が全盛期の時代でも、言ってしまえば電車の中吊り広告は無料メディアのようなものでした。「どこで何を発信し、いかに自分たちのメディアに人を連れてくるか」は、昔も今もそれほど変わりはありません。

大東:そうですね。情報の伝達装置に、インターネットが加わっただけだと思います。あとは基本に立ち返って、自分たちのメディアの価値をいかに知ってもらうか、ユーザーが望んでいるものは何かをいかに分析するかです。いくつもの仮説を立て、その中からファクトを探していくチャレンジを積極的にやっていただきたい。保守的なままでは、停滞を生んでしまうだけです。

株式会社キメラ代表取締役社長COOの大東洋克氏

―― それでは最後に総括をお願いします。

神谷:今日はさまざまなメディアが濫立しており、ユーザーは何を信じたらよいかわからなくなっています。そんな今だからこそ、みなさんがお持ちのブランドは、その信用の確固たる証拠になります。あとはそれをいかに伸ばしていくかです。「piano」や「Chartbeat」は紙の時代にはなかったものですが、新しい時代には新しい道具が必要なるというだけのことで、商売の本質は変わっていないと思います。変わったのはスピードだけですね。

照井:これからのメディアビジネスを考えるうえでは、国内に留まらず海外への進出はマストになってくると思います。そのためにも「piano」のようにグローバルで利用されているツールをいち早く理解し使いこなすことは重要なステップになってくるのではと思います。

大東:今、メディアコンテンツの領域で脅威だと思ってるのは、5年前、10年前には存在しなかった事業領域からの参入が増えているということです。その影響で、全体の傾向としてはライト寄りになっています。だからこそ、みなさんが保持して育ててきた”内容のあるコンテンツ”は、みなさんが思われている以上に価値があります。それをしっかり訴求して届けられれば、事業の継続・拡大はできるはずだと信じています。「piano」なら、紙の時代にはなかなか見えなかったユーザー層やユーザーの行動が分かりますので、ぜひ技術の力を活用していただければと思います。