MIの11月特集は「メディアとコマース(EC)の展望」です。広告に留まらない収益源を模索するメディアにとって有望であると常に挙げられるのが商品の販売です。しかしその実現は困難であり、多くの失敗事例が生み出されてきました。いま改めて、メディアがコマースに取り組むには何が必要か。キーパーソンを取材しました。

企業のブランディングを推進するサービス・テクノロジーを提供するフラクタの代表取締役で、革製品ブランドとして根強いファンを持つ土屋鞄製造所の取締役も務める河野貴伸氏にお話を伺いました。

―――これまでの経歴を教えてください

元々、経歴としては3DCGの制作や音楽制作などにルーツがあります。実は15年くらい前から起業はしていて、当初は音楽業界やファッション業界向けにwebデザインやEC構築などをやっていました。その仕事をやっていく中で、段々と世間ではECが当たり前になり、その中で店舗さんが生き残っていくにはどうしたらよいかを考えた際に、ブランドを作ることの大切さに気づき、7年前にブランディングを支援する事に特化したフラクタを立ち上げました。

現在、フラクタには40名の社員がおり、ブランドビジネスの策定やデジタルのの戦略的導入、ECの構築など幅広い領域で支援を行っています。Shopifyなどを活用したテクニカルディレクションに特化したチームが10名、ブランドに関わるあらゆるデザインを行うクリエイティブ系の人材が15名ほど。またディレクター、プランナーも10人ちょっといます。残りのメンバーはコーポレートで、5人ぐらいですね。

元々、物を作って売るのが大好きなんです。私自身は商売というのは、ものの売り買いだけではないと思っています。商品をただ買うだけの体験ではなく、感動、そして買い物を楽しむことを併せて提供するお手伝いがしたいと思っています。

―――D2CをやるうえでShopifyが大事にしていることは何ですか?

Shopifyは、175ヶ国で利用されているECプラットフォーム

そもそもD2Cはちょっと誤解されていることがあって、私たちはD2Cという言葉をマーケティング戦略的な視点の話ではなく、リテールビジネスとそれを取り巻くコミュニケーションの新しい「概念」だと思っています。そもそも日本とアメリカのD2Cはルーツが全く違います。D2Cに近いモデルは日本に既にあって、単品通販、ネット直販とかは売り方の側面だけだと、D2Cに近い形と言えるでしょう。ただし、D2Cには単に「顧客にダイレクトに販売する」ことではなく、「デジタルネイティブ」であることと、「モノの売り買いだけではない、共感をもたらすコミュニケーション」が必須になります。D2Cという言葉はマーケティング的な視点のみで語られがちですが、リテールビジネスの本質が再定義されている潮流の一部であると捉えた方が正しいかもしれません。

 D2Cの中で、いま世界で伸びているのは、USなどの英語圏のブランドです。彼らはUS国内だけで狙っているわけではなく、もともと越境することを前提に考えています。人口のうちに3%に支持される物を作るとなると、US内だけに限ると少なく見えますが、全世界をターゲットにすると市場がとても大きなものとなります。されど「3%」に支持される物作りは、ニッチとも言えるので、自然と商品が尖ってきます。USのD2Cモデルのほとんが、全世界で売っていくことを前提としていると言われます。

もちろん世界でものを売っていくのは簡単ではありません。一方で、どの国で売れるのか、どの国だったら受け入れてくれるのかを早い段階で知りたいという要望は当然ながらブランドから上がってきます。Shopifyはそういったニーズをいち早く実現する機能が多数存在します。多言語対応、多通貨対応などが標準で用意されており、テストマーケティング的な使い方も簡単に、素早く実現できます。その上で反応が良い国に本格的に展開する場合はあらためて大きな投資をする意思決定を行う。D2CブランドにおいてShopifyはそのような活用のされ方が多いと言えます。

D2Cだから世界で売れるという事は全くないですし、やはり文化的、宗教的な違い、そして商習慣の違いのハードルはとても高いと言えます。しかし、Shopifyを使えば、世界で売っていく事を、100点は目指せずとも、80点はサクッとできる。その点はShopifyの本質的な強みと言えます。

―――D2Cをやるうえで大事なことは何ですか?

「ブランディングで世界を豊かに」を掲げるフラクタ社

ブランドとお客様の出会いと感動をいかに演出するのかは、我々にとってとても重要だと思っています。日本のD2Cと米国のD2Cはルーツが違う、という事を前の質問で述べましたが、米国のD2Cは、現状の社会が掲げる課題を解決することが念頭に置かれているパターンが多くあります。

例えば、現状の無駄を省く、中間業者を省く、古いしきたり、旧態依然の会社を徹底的にディスラプトする・・・等、破壊と創造に社会的価値が偏重しがちです。これは、世界を変革するという意味ではもっとも効率的ですし、効果も高いと感じますが、「和を以て貴しとなす」日本では、このような思想でのビジネス展開は中々難しい側面があります。

日本は人と企業の関係性をとても大切にしているのです。日本のD2Cが目指すべき道は、ディスラプトだけでなく、日本の伝統工芸や日本酒などの日本ならではや、サブカルチャー、とてつもなく尖った世界観のブランドなど、今までの流通にはどうしてもスケール的にマッチしづらかったモノやコトを、共感してくれるお客様とデジタルの力でダイレクトに繋ぎ、その共感から熱狂的なファンを生み出す、そして日本国内で売るだけでなく、世界で売れるようなブランドにすることなのではないか?と考えています。

そういった流れを実現する「フレームワーク」をFRACTAで提供したいと思っています。まずは、ブランドが増えることが日本のD2Cの発展、成長に必要だと思います。さらに、そういったブランドを、お金の面の投資だけではなく、ハンズオンでノウハウやテクニックを提供していき、一緒に成長させていくようなモデルもできたらと考えています。

大事にしているのは、もちろん支援的なものにも力に入れていきたいですが、やはりもっともっと「自分たちでブランドを作り、継続的に運用できる」人を増やすことだと思っています。そういった意味で、ブランディングというアクション自体を我々が提供するのではなく、アクションを実現するためのエスコート役に徹することがとても重要だとも思っています。

―――ブランドを作るうえで大切なことはありますか?

フラクタ社のブランディング支援実績

メディアにも言えることだと思うのですが、自分たちの強みや「なぜやるのか」を明確にして尖っていかないと難しいと思っています。今って社会的価値も求められるので、自分たちの存在意義を明確にしないと自分たちのファンになってくれるどころか、気づいてももらえません。さらに市場の側面で言うと、もうトップラインは伸びないと思います。人口は減っていく一方ですし、日本は移民も受け入れることもまだまだ難しいでしょうし・・・かといって世界を相手に商売を展開するのも、大きくしていくのはやはり簡単ではありません。

はっきりいって、今後はブランドが確立されていないと未来はないと思っています。例え1%の人たちであっても熱狂的なファンかつ、他社より高くともお金を払ってくれるようなブランド作りが重要です。車で例えると、ポルシェやフェラーリはわかりやすいですね。レクサスはその領域に向かって進んでいる例だとも言えます。

ブランドにおいて、商品そのものが一番大事な事は間違いありません。しかしこの情報過多な世界においては、それだけでは高いお金を払う価値は感じてくれなくなってきています。商品が提供してくれる体験、文化的背景、そこには学びや感動があります。お客様は商品そのものだけではなく「ブランド体験」にお金を払ってくださっているのだと強く感じることが増えています。

メディアに対しても強く思うのは、もっと自分たちの感性や感覚に自信を持って、尖った発信をしてもらえれば、世界はとても楽しくなるということです。D2Cが広く知られるようになり、尖ったブランドが増えていけばいくほど、今度はブランド間のコラボレーションや、カルチャーとのつながり、そこから生まれる社会的価値が求められます。そのような価値の実現こそ、尖ったメディアが引っ張っていけるのではないかと感じるのです。

デジタルが普及した結果、様々な手段が効率化され、時間が短縮されるようになりました。ただ、本質は何も変わっていません。なんでもかんでもデジタルを使えばいい、ということではなく、真のデジタルネイティブとは「デジタルを使うべきところで最大効果を出せる」ように使いこなす事です。デジタルが全てを解決してくれるなんていうのは幻想です。

自分たちが何者で、なぜやるのか、何を実現したいのか、お客様に提供すべき価値はなにか、それらを明確にした上で、クリエイティブに落とし込み、世界観を構築する。それらをしっかりと一歩づつ組み上げていくことが重要です。

―――Shopifyの強みや大事にしていることはありますか?

Shopifyは、多彩なアプリケーションやメジャーサービスとの豊富な連携がある

Shopifyは、「80点」を最高速、最大効率でやるには間違いなく世界最高のソリューションだと思います。一方で、挑戦的な機能開発や、きめ細かな開発が必要な要件には向きません。全く新しい仕組みなどを実現するには非常に属人的なスキルが必要です。システムの開発というのはそれくらい難しいものだと私自身は考えています。もし、既存の機能やアプリにない複雑な仕組みを開発したい、実現したいという場合は優れたエンジニアを多くかかける、カスタマイズを前提とした他社のサービスがいい場合も多々あります。

一方で、D2Cのブランドは、できるかぎり素早く垂直立ち上げを行った方がよい状況がほとんどです。ECの開発コストや、運営会社までの期間(売上が立つまでの期間)のコストがブランド企業においてキャッシュフローの側面で死活問題になりえるからです。

FRACTA が一番強いところは、クラウドサービスの様にブランディングを提供している事です。商品の改善をしたいのか、ブランドコンセプトを作りたいのか、コミュニケーションを改善したいのか。解決したいポイントと期限を明確にし、そこから逆算して、ECにかけられるの予算はこれくらいだよね、とやっていきます。その予算に収める形でアプリの選定などを進めていきます。ただ、ブランドにおいて、カスタマイズされたECが象徴的な体験を実現するキーとなるのであれば、当然Shopify以外を進めることもあります。

現代において、ブランドもECもできる限り素早く、かつ低コストで立ち上げた方が良いと思っています。まずは立ち上げて、その上で改善を繰り返すサイクルをできる限り早く構築する。現代はSNSなどのお陰でお客様の声も受け取りやすくなり、情報も集まりやすく、改善に反映しやすいと言えます。もちろん、どのSNSを活用すべきかなどは慎重に検討が必要ですが、一度うまくマッチすれば、お客さまからの声はとても集めやすくなります。

そして、これらの「ブランド運用」を行う人材には、とても幅広いケイパビリティが求められます。よくそういった人材がどこにいるのか?と質問を頂くことが多いのですが、結論「存在しない」という回答になります。
ではどうするのか?

まずは経営者自身が、デジタルネイティブになるべく知識と経験を深め、その上で社内からできる限り、広いクロスファンクショナルな人を集めて、活躍の場を作り上げることが大事です。D2Cという概念を同じく、これから先のメディアやECに求められる世界はまったく新しいものに変わっていくと思っています。会社全体がその変化にどのように適応進化していくか。最後は覚悟の問題だと私は強く感じています。

11月特集: メディアとEC(コマース)の展望

1. “購買に寄与する”メディアに進化した「GIZMODO」・・・メディアジーン芹澤執行役員に聞くコマースへの取り組み
2. 出版社のECを全面サポート、富士山マガジンサービスとイードの合弁会社イデアの松延秀夫CEOらに聞く
3. 集英社はいかにデジタルメディアとECを成功に導いたか・・・デジタル戦略を率いてきた小林常務に聞く
4. 応援購入が生み出すワクワクのプロダクトたち、「Makuake」中山社長に聞く
5. 「AbemaTV」が提供する新しい消費体験、買えるAbemaTV社 伊達社長に聞く
6. Shopifyは手段、D2Cはブランドとお客様の感動をいかに演出するか・・・フラクタ代表で土屋鞄製造所取締役の河野貴伸氏に聞く