日本のメディアを取り巻く環境は目まぐるしく変化し、予測困難な状況にあると言えます。国内・国外問わず新しいサービスが次々と誕生し、かつてのメディアのビジネスモデルを脅かしてきます。
そんな答えのないVUCAの時代でも、5年後10年後の未来を思い描いて、新しい発想を生むには、右脳の力が必要だと私は考えます。
目次
【法則4】イノベーションを生む右脳型人材の特性
Key Words
〇H型人材
〇若者、バカ者、よそ者
〇イノベーションのDNA
2つの専門的知識をつなげるH型人材
ではどういった人材が、イノベーションを起こすことができるのでしょうか。よく言われるのが、従来のI型・T型・―型・π型人材ではなく、2つの専門的な知識を関連づける力を持ったH型人材だということです。
- I型人材――1つ専門的な知識がある人材。スペシャリスト
- T型人材――1つの専門的な知識があり、さらに幅広い知識をも持つ人材
- ―型人材――幅広く網羅的な知識を持つ人材。ジェネラリスト
- π型人材――2つの専門的な知識があり、さらに幅広い知識を持つ人材
- H型人材――2つの専門的な知識をつなげ、新たな価値を生んでいける人

H型人材の人は自らが持つ2つの専門的な知識をつなげるだけでなく、他の人同士が持つお互いの専門的な知識をつなぎ合わすことができる「関連付ける力」を持つ人材のことです。イノベーションで重要な新結合を創り出すことができる人材といえるでしょう。
固定観念にとらわれない若者・バカ者・よそ者
さらに法政大学の真壁昭夫教授によると、イノベーションは「若者、バカ者、よそ者」から始まる、と考えられています。
- 強力なエネルギーを持つ“若者”。リスクを取り、チャレンジ精神旺盛。
- 旧来の価値観の枠組みからはみ出た“バカ者”。既存の発想に囚われずに、自分の信念に従って思い切り行動する。
- 組織の外にいて従来の仕組みを批判的に見る“よそ者”。クリティカル・シンキングで根底から覆し、創造的破壊を生む。

やはり、イノベーションを起こすのは人であり、過去の慣習や固定観念、既得権益にとらわれずに、まったく違う分野からの専門的な知識を、所属する組織と結びつけることができる人が、破壊的イノベーションを起こすことができるのだと分かります。
イノベーターが受け継ぐDNA「5つの発見力」
クリステンセン教授も、「関連付ける力」について、詳しく述べています。クリステンセンは『イノベーションのDNA』の中で、最も創造性あふれるビジネス・リーダーの特徴として、5つの「発見力」を持っていると説いています。
- 関連づける力
- 質問力
- 観察力
- 実験力
- 人脈力

その発見力の内の1つ「関連付ける力」は、異分野から生じた疑問や問題やアイディアをうまく結びつける能力は、イノベーターのDNAの核心だと伝えています。イノベーティブなアイディアを生み出すための「イノベーターDNAモデル」では、質問力・観察力・実験力・人脈力で得た斬新なインプットを組み合わせる力が「関連づける力」であり、まさにイノベーターのDNAの核心だと言えます。
テクノロジー×アート、デザイン×ビジネス、金融×エンジニア、など今までは業種や分野がまったく違うものを結び付けて新たなビジネスと創り出す人が増えています。人や知識や技術のハブになり、つなぎ合わせることができる人こそ、これからのVUCAの時代に必要な人材と言えます。
【法則5】柔軟で画期的なアイディアを出す水平思考とシックスハット法
Key Words
〇水平思考
〇シックスハット法
〇画期的なアイディアを出す9つのチェックリスト
水平思考で発想を横に広げ斬新な答えを出す
右脳的な考え方や発想をするには、どうすればいいのでしょうか。右脳的発想方法で有名なものに、心理学者のエドワード・デボノが提唱した水平思考があります。
水平思考とは何でしょうか。ラテラル・シンキングとも呼ばれ、ロジカル・シンキングや垂直思考と対をなし、補完し合い、幅と深さを与えます。
- 垂直思考ーー論理的思考や分析的思考など、データや事実に基づいて、前提→分析→結論など、順番に垂直に答えを導き出す思考方法。左脳的な発想方法。絞り込み、答えを出す思考法。
- 水平思考ーー垂直思考と違い、論理的に考えずに柔軟に発想を横に展開していく考え方。右脳的な発想方法。垂直思考と違い、斬新な発想が生まれやすい。発想を広げ、今までにない答えを出す思考法。

水平思考の大切な考えと実践方法
エドワード・デボノは水平思考で大切な考えは、以下の3つだと言っています。
- 前提を疑う、常識を否定する
- 新しい見方をする
- 組み合わせる
また実践方法としては以下の4つを繰り返すことで、新しい発想が次々と生まれてくると説明しています。
- アイディアの量を増やす
- アイディアを試してみる
- 失敗から学んで修正する
- チームを活用する
シックスハット法で強制的に違う視点を持つ
さらにエドワード・デボノは水平思考を生む発想法として、「シックスハット法」を紹介しています。あるテーマについて複数のメンバーで議論する際、シックスハット法はとても創造的で迅速に運営できるツールです。
〇シックスハット法
6つの視点の色の帽子、客観的(白)・感情的(赤)・肯定的(黄)・否定的(黒)・革新的(緑)・俯瞰的(青)をメンバーがかぶり、その視点に合った発言しかしていけません。

強制的に違う視点を強いることで、自由な発想が生まれやすくなりますし、アイディアから分析、進行、そして結論までもっていくことができます。
大切なことは、
- 1他人のアイディアを批判しない
- 2自由に発言する
- 3質よりも少しでも多くのアイディアを出す
- 4他人のアイディアをさらに発展させ、アイディア同士を結合する
ことです。
また、ブレーン・ストーミング法を発案したオズボーン教授は、画期的なアイディアを出す発想方法として、以下の9つのチェックリストを解きました。
- ①他の使い道はないか
- ②応用・真似はできないか
- ③修正・一部を変更したらどうか
- ④より大きくしたらどうか
- ⑤より小さくしたらどうか
- ⑥代用できないか
- ⑦要素を取り替えたり、並び替えたりできないか
- ⑧逆・反転することはできないか
- ⑨組み合わせることができないか
思いもよらない発想ができる右脳的な人間には、さまざまな方法があることが分かります。
【法則6】逆転の発想を生む視点の変え方とマーケティング発想
Key Words
〇鳥の目、虫の目、魚の目
〇ハインツ、DAKARA、夏のおでん
〇逆転の発想
視点を変える方法、鳥の目、虫の目、魚の目
イノベーションを起こすためには、連続的で分析的な左脳的思考法も大事ですが、非連続的で視点がまったく違う、時に突拍子もない右脳的思考法もとても重要です。
視点を変えるには、3つの目で物事を見ることが大切です。
- 鳥の目――マクロの目。高い視点、広い視点から俯瞰して世界を見る。
- 虫の目――ミクロの目。目の前のこと、現場で起きていることを細かいところまで隅々まで見る。
- 魚の目――トレンドの目。潮の流れ、時代の変化を的確に見て、流れに乗る。

視点を変えて逆転を生むマーケティング発想
ケチャップの会社、ハインツのお話です。ハインツはガラス瓶でケチャップを売っており、競合がチューブで売り始めると、「出しやすい!」と評判になり、ハインツの売上は激減しました。ではハインツはどうしたのか。ガラス瓶をやめてチューブにするのではなく、「出しにくいのは、トマトをふんだんに使っており、濃厚だからです」と言って売り出したのです。ハインツの売り上げはV字回復しました。正に視点を変えることでヒットを生んだ良い例です。
サントリーのDAKARAという商品は、栄養を補給するドリンクばかりが売れていた時に、逆転の発想で、「余分なもの(脂肪分、当分、塩分など)を排出させる」というコンセプトで大ヒットしました。
またセブンイレブンは、「おでんは冬の商品」だという常識にとらわれずに「寒暖差で寒くなれば、おでんは売れる」という逆転の発想で一年中売り出し、季節の変わり目ごとに一年中ヒットを生むことができた。
当時、粉洗剤しかなかった時代に、アリエールは液体洗剤を出しました。液体洗剤は量がかさばるうえに高かったため、当初はまったく売れませんでしたが、キャッチコピーを「解け残りを無くす」に変えたとたんに大ヒットしました。
「逆転の発想」で大切な置き換える力
逆転の発想で大事なのは、「ネガティブ⇔ポジティブ」を置き換えられる力です。「古い」を、「伝統がある」や「昔から多くの人に愛されている」や、「地味だ」を「シンプルで無駄がない」や「自然で天然の」などに変えると、印象がまったく変わります。逆に競合他社の「最新」を「斬新すぎる」や「ずっとヒットしている」を「保守的でつまらない」などに変えることもできます。
視点を変える発想は、ロジカル・シンキングでは出てこないものばかりです。論理的な考えを一度辞めることで、画期的なアイディアが生まれることが多くあります。
(以下、第5回に続く)
メディアのイノベーションを生む50の法則
第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2
第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)