左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)

ここからは左脳と右脳、普遍性と時代性の2×2マトリクスを軸に、「左脳×普遍性」「右脳×普遍性」「左脳×時代性」「右脳×時代性」「その他」の5領域に分けて体系的にメディアのイノベーションを生む法則を考えていきたいと思います。 目次 【法則1】MECE、ロジッ…

特集 連載
左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)
  • 左脳×普遍性で考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#03)

ここからは左脳と右脳、普遍性と時代性の2×2マトリクスを軸に、「左脳×普遍性」「右脳×普遍性」「左脳×時代性」「右脳×時代性」「その他」の5領域に分けて体系的にメディアのイノベーションを生む法則を考えていきたいと思います。

【法則1】MECE、ロジックツリーで戦略に優先順位をつける

Key Words
〇MECE
〇ロジックツリー
〇モレ・重複を無くして、優先順位を付ける

MECEで網羅的に効率よく最善解にたどり着く

イノベーションを起こす上で、MECEな発想は欠かせません。業界全体の大枠や、会社の構造を把握して、どこに問題があるのか原因を見つけて分析する必要が、まずはあります。

MECEとは、

  • M=Mutually(互いに)
  • E=Exclusive(重複せずに)
  • C=Collectively(全体的に)
  • E=Exhaustive(漏れがないよう)

の略で、「モレなく、ダブりなく」考えるという概念です。

図のように、「ダブリはないがモレあり」だとすべてを検証できずに、今まで気づかなかった新しい発想や答えを逃してしまう原因になります。また「モレはないがダブリあり」は、効率を阻害し時間以内に最善の答えにたどり着けませんし、リソースの配分も非合理的になってしまいます。「モレあり、ダブリあり」は問題外ですが、右脳的に思いつつくままにアイディアを出していく場合は、よく「モレあり、ダブリあり」の状態になります。

課題解決やイノベーションの基本は、分解して分析することです。イノベーションを起こすとき、今までに発想が及ばなかった、漏れている部分を網羅的に考えることはとても重要ですし、重複したところばかりを考えていてはそれもやはりイノベーションの邪魔をします。「モレなく、ダブりなく」、全体的な視野を見てイノベーションを実行していくことが大切になります。

ロジックツリーで問題点を分解&整理

論理的に考えていくうえで、MECEと同じくらいとても大切な考え方があります。それはロジックツリーです。ロジックツリーとは、課題解決や論理的思考の手法で、一つの事柄や事象、問題をMECEに順番に分解・整理していく方法です。

例えばテレビ局の売上を、ロジックツリーを使ってMECEに分解してみましょう。テレビ局の売り上げは、「放送事業」「イベント事業」「ソフト事業」「不動産事業」に分解できます。さらに

  • 放送事業は「広告収入」「番販」「配信などのコンテンツ収入」に
  • イベント事業は、「主催イベント」と「協賛イベント」に
  • ソフト事業は「パッケージソフト」と「ライツ」に
  • 「不動産事業」は「賃貸」と「売買や事業」とに

など分解することができます。そしてそれぞれの項目を、「売り上げを上げる」と「コストを減らす」に分けることもできますし、「日本」と「海外」に分けることもできます。

それぞれの項目を数値化することによって、例えば数年前と数字が変わってきていなかったり、減ってきているとことがあるとすれば、イノベーションの可能性が大いにある項目と言えると思います。

モレ・重複を無くして優先順位をつける

ここで重要なのは、ただただ項目を羅列するだけでなく、

  • モレている部分を無くして
  • 重複を無くして
  • 優先順位を付けてリソースを配分していく

ことです。

すべての問題にリソースを割くことはできません。経営資源(ヒト・モノ・カネ)は限られています。必ず優先順位を付けて、戦略を立てていくことが意思決定をしていく上で非常に大切です。

左脳的思考力でよくフレームワークが出てきますが、フレームワークの多くがMECEにできています。フレームワークはモレなくダブリがないように作られているため、問題解決の取っ掛かりに使用するのはとても重要なことです。

【法則2】空・雨・傘と数学思考力でファクトをつかむ

Key Words
〇空・雨・傘
〇数学思考力

ファクト→分析→意思決定をチームで共有

右脳人間が多いメディア業界で、特に欠かせない左脳的発想方法に、「空・雨・傘」理論があります。

  • ①空――「空に雲がある」(事実・ファクト)
  • ②雨――「雨が降りそうだ」(分析)
  • ③傘――「傘を持っていこう」(意思決定)

①の「空に雲がある」は、誰が見ても同じ、事実です。しかし、同じ雲を見ても、②で「雨が降りそうだ」と「まだ雨は降らなそうだ」と分析する人は変わってきます。さらに③では、「雨が降りそうだ」と分析した人でも、「傘を持っていこう」や「外出を控えよう」や「これぐらいの雨なら傘を持たずに行こう」など意思決定はさらにバラバラになっていきます。

企画会議でも、「旅とグルメと動物の番組は不況に強い」や「BL漫画が今、売れそうだ」や「AKBグループを出演させてばOK」などさまざまな発言が飛び交いますが、それは事実なのか、分析なのか、意思決定なのか、把握することが大切です。イノベーションを起こすためにも、共通の「空」=事実をチームで共有し、しっかりと「雨」=分析をして、「傘」=意思決定をしていきたいです。

数学思考力で定量的な問題解決へ導く

「空・雨・傘」の「空」であるファクトをつかむためにも、「数学思考力」は無くてはなりません。メディア業界、特にマスコミ業界は、右脳的な人が多く、「数学が苦手だ」と考えている方が多いと感じます。しかし、私はここにこそメディア業界のイノベーションのタネが多く眠っていると考えています。

〇メディア業界における数学思考力

面白いアイディアが生まれたとき、そのアイディアが本当にウケるのか「検討」するには数字思考力が必要ですし、上司を「説得」するためにも、またリーダーとしてチームのみんなに動いて「行動」してもらうためにも、数字思考力が重要な役割を担います。熱量や勘や感情ばかりが議論になる業界ですが、合理的で正解確率の高い意思決定を行うためには、数字は欠かせません。

また、その他にも数字思考力は、さまざまな場面で非常に重要な役割を果たします。

  • PL・BS――利益を生む構造を理解する
  • 損益分岐点分析――雑誌の部数は何部刷った方がいいのか、コストはいくらまでかけられるのか、など計算するため
  • 微分――売り上げが今後続くのか、増加するのか減少するのか、分析するため
  • NPV――将来への投資が、儲かるのか損をするのか、分析するため
  • 価格弾力性――価格をいくらに設定した場合が、一番収益を上げられるのか分析するため
  • 確率――未来の投資のため根拠のある判断を求められたとき
  • 座標――四象限に分け、物事を分類、分析するため

特にイノベーションは答えがないもの、前例がないものです。それでもリスクを減らし、成功に近づけるものは数字思考力ですし、ビジネスの本質です。

終わらない会議、決められない上司、すべて、数字思考力が足りないことが原因です。定性的ではなく定量的な発想が、組織を前に進めるために必要になってきます。

【法則3】統計学的思考×Excel力で最善の答えを導き出す

Key Words
〇統計学
〇Excel力
〇重回帰分析

統計学は最善の答えを導き出す最適な学問

数学思考力の中でも一番大切な力は、統計学だと私は考えます。『統計学が最強の武器である』の西内啓さんは統計学のことを、「どんな分野の議論においても、データを集めて分析することで最善の答えを出すことができる」と記しています。正に最善の答えを導き出すために最適な学問ではないでしょうか。

統計学はビジネスの様々な場面で重要な役割を果たします。「ファクトを客観的に把握」して、「分類・比較」して、「仮説の検証」をして、「未来を予測」して、そして意思決定をする。すべて統計学が最善の答えを導き出してくれます。

統計学の主な手法として、下記のようなものがあります。

  • 相関分析――2つ以上の要素の変動が、どのような関係を持つのか、その強さを分析。不景気になるとビジネス書は売れるのか、雨が降ると視聴率は上がるのか、など。
  • t検定――母集団からサンプルを抽出し、全体の仮説の正否を検証する手法。働いている20代女性の方が主婦の30代女性よりもテレビをよく見る、などマーケティングによく使われる。
  • 回帰分析――いくつかの変数が変動する場合、目的変数がどのように変わるのか予測・分析する手法。タレントの力・分数・市場規模から視聴率を予測する、宣伝費・生産数・発売時期から売り上げを予測する、など。
  • 分散・共分散――データの各要素の散らばり具合を分析するための手法。30代男性のCMの高感度と商品のリピート率、など。

Excel力はメディア業界でこそ生きる

これらの統計分析は、まったく難しいものではありません。統計学の大半はExcelでできます。Excelで「ファイル」→「オプション」を選択し、「アドイン」→「Excelアドイン」を選択します。そして「分析ツール」にチェックを入れ、「OK」を選択すれは、メニューの「データ」部分に「データ分析」が表示されるようになり、さまざまな統計分析ができるようになります。

Excelの表も、難しいことをする必要はありません。WEBメディアであれば、日々の記事のクリック率や視聴時間、滞在時間、リピート率、人気記事の推移など、さまざまなデータがあるはずです。出版社でしたら読者アンケートはがきなど、テレビ局でしたらプレゼントの応募データなどもそうです。それらをただExcelの表にするだけです。それだけでExcelが答えを出してくれます。

今までは経験・勘・度胸で意思決定していたものが、しっかりと客観的なデータを基に、Excelが比較・分析・予想してくれ、今までに気づかなかった問題を見つけてくれて、新しい意思決定を提案してくれます。Excelを使いこなさないメディア人は、もったいないと思います。

重回帰分析で限られたリソースの配分を決定

統計分析の中で最も重要な手法は、私は「重回帰分析」だと思います。

例えば、ファッション雑誌の売り上げを分析する場合。目的変数を「売上部数」にした場合、さまざまな要因が考えられます。表紙モデルの人気度、付録の豪華さ、値段の安さ、ページ数の多さ、特集の内容、ファッション企画のページ数、料理や旅の企画はあった方がいいのか無い方がいいのか、年に何冊出した方がいいのか……。表紙モデルの人気度はアンケート結果の順でいいですし、付録の豪華さは原価でもいいかもしれません。それらをすべて数値化して重回帰分析を行えば、どの説明変数が一番売上に貢献しているか分かります。

さらに、それぞれの説明変数の数値も分かるため、限られたリソースをどこに割けばいいのかが分かります。「表紙モデルを〇〇さんから△△さんにアップさせるよりは、付録の原価を10円上げた方が売り上げが10%もアップするのか」などです。

データを入手しやすいメディア業界こそ、重回帰分析が最も活躍できる業界だと感じます。

(以下、第4回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)

《出村大進》

関連タグ

出村大進

出村大進

株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

特集